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作品名:Freshness(フレッシュネス) 作者:鈴木翔太

第8回 8


「もったい、ない……?」
 フレイルの口にすることに、ロレーヌはかすかに片眉をひそめる。
 自身と同じ場所、同じ時にあって、同じ感覚を共有することが、彼にとっては一理にも適わないということなのか。
 フレイルはわたしといるより、新しい環境のほうが気にいった、と?
 日頃から鮮度≠ニいう単語を愛用している彼のことだ。
 これまでとは違う新鮮味のある現在の生活のほうが、心地のいい環境であると判断していても違和感はない。
 もしや、幼馴染の存在などフレイルにとっては、もはや目新しい側面のない知人のひとりにすぎないのかもしれない。
 いや。違う違う違う、そうじゃない。決めつけるな。ちゃんと内容を聞け。
 ロレーヌは自らの暗黒面に引きずられがちな思考と、胸に渦巻く仄暗い情念を振り払い、のちに続けられる相手の言葉を待った。
「――俺はあまり団体行動とか得意じゃないし、こう言っちゃうと悪いけど、スクールで習うのって生活に必要じゃないことが大半だろ。だったら、自分に必要なことを外で学んだほうが、絶対に為になると思うんだよ」
 ロレーヌの葛藤など計り知れようもないフレイルは、紙袋を漁りながら平然と舌をはたらかせて言葉を紡いだ。その唇から転がり出される声に、こちらがどれほど不安を覚えたかなど、まるで察せられていない口調であった。
 ……ともあれ、なればこそ立ちこめる心の暗雲を拭い去れたことを考えれば、今回フレイルがとった選択肢は結果的に正しかったと言えるだろう。
「だからスクールに通うのは、『もったいない』ってこと?」
「んっ、そういうこと」
 少年はロレーヌの問いかけに笑顔で応えると立ち上がり、あり合わせの部品を図面の規格に合うように削ろうと足を動かした。
 ガレージに置かれている機械は基本的にすべてダグラスのものだが、あとでその旨を伝えれば問題はないだろうという認識のもと、フレイルが工作機器をあつかう態度にはまったく後ろめたさが見受けられなかった。
 ロレーヌは相手のそうした様子が、あまりにも自分の想像するフレイル像に近かったため、少し前までの仄暗い感情を忘れて小さく微笑む。
「フレイル。指まで怪我しないように、気をつけてね」
「わかってるって。使い方はしっかりダグラスから習ってるよ」
 工作機器に身体を向けつつ返事をしたフレイルは、うまく部品をセットし、起動スイッチを入れて作業に勤しみ始める。
 機械いじりに明るい副所長から手解きを受けた業は、色眼鏡を差し引いても、なかなかの手際の良さだと感心させるものだった。
 フレイルは子供時代から、熱中する物事に対してだけは真摯な姿勢で直向きに取り組むことのできる性格。成長するにしたがって、その特性にはさらなる磨きがかかったようである。
「フレイル。良かったらそのまま、もう少しわたしの話に付き合ってくれる?」
「言い方が水くさいぜ。俺とお前の仲だろ。いちいち尋ねずドーンッと話せよ」
 怪我をすることはなさそうだと判断し、背後から彼に声を投げかけた。
 気さくな了承に心をひそかに弾ませながら、胸に携えていた想いの一部を、ロレーヌはこの場で吐き出すことにする。


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