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作品名:Freshness(フレッシュネス) 作者:鈴木翔太

第5回 5


 どうにか便利屋Freshnessは、抱えていた三つの仕事をすべて、昼過ぎまでにやり遂げることができた。
「ふぁああ〜〜っ。どうにか間にあったな。内部冷却装置が誤作動したときは、どうなるかと思ったけど」
「まったくだぜ。マイナーな企業が製造した工業ドロイドだと甘く見ていたら、妙なところで中小企業の底力を見せつけてきやがった」
 フレイルとダグラスは、ぐでーっと身体を床に広げて、大の字の恰好で存分に身を休ませる。
 結局、器具を手にあくせく汗を流していたのは、ほとんど両名だけであった。
 こうして本質的に働いていることを考えれば、所長ならびに副所長の肩書きは伊達ではない、と公言できそうである。
「お疲れ様でした、お二人とも。依頼人に届けるのは僕がやっておきますから、どうぞ、ごゆるりと身体を休めていてください」
 アクスは三体のドロイドを荷台に乗せ、すぐに裏口にある自走機関に向かう。
「アクス、いってら〜〜。お土産まってるぅっ」
 事の始まりから終わりまで一度も手を貸さなかったナタルは、ふざけたことをぬかして、またファッション誌に掲載されている品物を瞳に映す。
 あたかも長机と一体と化してしまったかのような動きの少なさに、フレイルはよくも退屈を覚えないものだと感心を表情に浮かべた。
「なぁ、ナタル。一日ダラダラ過ごしてても、つまんないだろ? お前は、何を楽しみに生きてるんだよ」
「いきなりひどいことを言うのねぇ、フレイル。他人を怠け者みたく言わないでほしいんですけどぉ」
 ナタルはフレイルのほうに顔を向け、ファッション誌を広げてみせる。
「これでも、あたしはハイパー忙しいんだかんね〜〜。毎日毎日、まいっにち、楽をするための努力≠ヘ欠かしてないんだからさぁ」
「は? 楽をするために努力がいるのか?」
 フレイルが尋ねるや、彼女は「あたぼーよ」といった具合で、天井へと鼻先を反らした。そして咳払いをひとつするなり、出来の悪い生徒に学問を授ける教師のように、格式ばった言い方でフレイルに講義を開始する。
「そのなかでも、ナタル大先生が最重要視しているのは愛される努力≠ナす。この娘のために何かしてあげたい、って相手に思わせられたらしめたもの!」
「ふぅーん。そりゃ、どうして?」
「その時点ですでに、相手側はこちらに少なからず好印象を抱いているからよ。あとはもう、あざといくらいの可愛い子ぶりっ子で相手側を陥落させて、自分が動かなくても相手側から自分のしたいことをさせる手段を、コツコツコツコツと堅実に積み重ねていけば――」
 ナタルが実際にそうしてきたのであろう、男性を魅了する手法をひけらかすのを話半分に聞きながら、ダグラスは凝り固まった両肩を揉みほぐす。
 ダグラスからすれば、そんな策を弄している間に己自身の力で働いたほうが、どう考えても時間と労力の節約になろうものである。
 もっとも、ナタルが熱弁する手法は女性に限定されたものであろうから、仮に中年男性である自分が行ったとして、阿鼻叫喚の響く地獄絵図を作り出すことが関の山だろうが。
「真剣に聞くだけ無駄だぞ、フレイル。どうせナタルの奴ぁは、本心から誰かに惚れたこたぁねぇんだろうからな」
「…………ッッ!」
 特別、深い意味もなく口に出した言葉に、ナタルはほんの一瞬ではあったが、射殺すような禍々しい視線を閃かせた。
 寝そべっていたダグラスはその並々ならぬ負の感情を察して身を起こしたが、相手の顔色をうかがう頃合には、数秒前の剣呑さは嘘のように消え失せており、ナタルは平常どおり両足をバタつかせて、雑誌を読み耽っているばかりである。
 ――なんだよ。俺はてっきり、プツンときたのかと思ったのによ。
 肩透かしをくった心持となり、ダグラスは訝しんで彼女の美貌を眺めた。
 さすがに何人もボーイフレンドがいることをにおわせる発言をするだけあり、ナタルの器量はこうしてまじまじと眺めると確かに良い。このようなフワフワと愛らしい空気に全身を包んでいる娘に甘えられたのでは、健全な青少年が姦計にはまってしまうのもやむなしというものである。
「なに? どうかしたの?」
 真っ直ぐに見つめるこちらの視線に引っかかりを覚えたナタルは、両眉を下げながら問いを口にする。
「うっ……いや、なんでもねぇよ。気にすんじゃねぇって」
 作為のない無垢な疑問をぶつけられて、ダグラスはわずかばかりであったが、しどろもどろになってしまった。
 それなる理由のひとつに、「静かにしていればいい女かも」などと思ったことが関係していることを読みとられぬよう、サングラスを外して双眸を瞬かせる。
「あーーっ、細けぇ作業をしていたせいで目が疲れちまった! 仕方がねぇっ、ちぃとばかし目薬でも注してくるとすっか!」
 丁寧すぎるきらいがある説明調の台詞を言い放ち、副所長は事務所の奥にある大広間へ向けて足早に逃亡を試みる。
 その合間にフレイルの軽口に付き合い、
「なんだ、なんだ? 老眼かよ、ダグラス」
「うるせぇ、俺をジジイ扱いするんじゃねぇ!」
 というふうな会話をしたが、心中は穏やかではない。
 一時の気の迷いには違いないとしても、親子ほど歳の離れた小娘を異性として意識してしまったのだ。感づかれたらどんなからかいの言葉が飛んでくるのか、想像しただけでも身震いがする。


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