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作品名:Freshness(フレッシュネス) 作者:鈴木翔太

第49回 49


「ダグラス教官、上をご覧ください! 市街ゲートの最上地点です!」
「わかっている。たぶん、上にいるのはみんな俺の知り合いだ」
 ダグラスとリジェナは会話をこなしつつ、両足で交差点に滑り込む。
 上方で巻き起こっている出来事も無視できないのは当然であるが、交差点の先で二匹そろっている従牙も厄介な相手だ。
 ダグラスは電磁ロッドに手をかけ、そばにいるはずのフレイルに声をかけた。
「おいフレイル、俺を手伝え! こいつらを抑えるんだ!」
 けれど、いつもの威勢のいい返事が聞こえない。
 ダグラスはサングラスを外して胸元に引っかけてから、市街ゲートを見上げてみるも、そちらにもフレイルの姿は見当たらなかった。
 どうなっている? あいつはどこだ?
 俺の今のお気に入りは、どうしちまったんだ?
「……! ダグラス教官、あれはもしや――」
 ダグラスが心を揺らせば、リジェナが破損したゲートの一部、崩落した壁版の山を示して言葉を発する。
 山のなかから覗いているのは、まぎれもなく人間の腕であった。
 血の気が引いて薄っすらと青白いそれは、ぐったりと地面を撫でている。
「……な……っ……」
 なんだと、と言おうとしたけれど、この言葉は不自然に途切れた。
 あの腕は、誰の腕なのだ。まさか……まさかっ!?
「従牙ども、そっから離れろ! そこの奴に指一本触れるなッ!」
 猛絶な勢いで、壁版に埋もれている人物に走り出そうとするダグラス。
 しかし、自分をくい止めるために、グルナードが牙を剥く。
「どけよっ!!」
 電磁ロッドでグルナードの牙を防ぎ、語気を荒らげたが――敵対している獣の眼を覗けば、殺意と闘志がないことに気づく。
 目にしたことのないグルナードの雰囲気にロッドを引くと、相手ははじかれたように体勢を変え、埋もれた人物を壁版から引っぱり出した。
 白き獣・ミシルは、相手の行動に驚いているように見受けられる。グルナードと意見交換をして、これからの行動を決めようとしているらしい。
「教官……今のうちです。二匹の邪魔が入らないあいだに、結晶体を――」
「待て、リジェナ。今、大事なとこだ」
 ダグラスとリジェナが会話しているあいだに、グルナードは横たわる少年の胸元に左耳を押し当て、鼓動を確認する。
 傷ついた少年から耳を離し、かたわらにあるミシルへ視線を送った。
 ミシルは相手と同じように鼓動を耳にすると、頷いて目配せをする。
 ――それからの従牙二匹の行動は、儀式的だった。
 二匹は伏しているフレイルを囲うように走りまわり、肢体に印された紋様を光り輝かせる。輝きは地面に染みわたり、彼を中心にして幾何学模様を作った。
《グルォオオオッ!》
《ガルァアアアッ!》
 仕上げの合図か、グルナードとミシルは咆哮する。そうすれば、幾何学模様が燦然たる煌めきを生み、フレイルの肉体を回復させる。
 出血は収まり、傷口はふさがり、フレイルの両目は煌めきのなかで開かれた。
 彼は状況を飲み込めていないのだろう。不可解な表情を浮かべ、その場から立ち上がると、左手で顔を覆うようにして頭を振るう。
「――今のって、あの時の……」
「!! フレイル、身体に異常はないか!?」
 フレイルの呟きをかき消す声で、リジェナは隣まで走り出した。
 眠りから覚めたような気だるい表情で、フレイルは彼女を見る。
「リジェナ? 久しぶりだな、元気だった?」
「年上には敬称をつけないか……いや、それよりも無事なのか?」
「俺は無事だよ。けど、街はそうじゃないみたいだな」
 上空のリタを見つめ、フレイルは衣服から電磁ロッドをまさぐる。
「あれ? 俺のロッド、どこだ!?」
「上だ、アホンダラ。アクスが使ってる」
 うろたえるフレイルに、ダグラスは安堵の溜め息をつきながら声をかけた。
 フレイルは言われるままに市街ゲートへと目を向け、ぽりぽりと頬をかく。
「うひゃーっ、何であんな場所に。どうやって取りに行けばいいんだよ」
 彼は収拾をつけるため、リタのそばに行くつもりらしいが、相手方の状態を考えると武器がないのは心許ない。雷光によって目視できている球状の障壁は、打ち破るには相当に分厚そうだ。
「ん、なんだよ?」
 対策を練ろうとしている彼の背を、グルナードが軽く頭で突いてくる。
 グルナードは少年に示すように、背中を彼にさらし、顎をしゃくって見せた。
「まさか、彼を乗せるつもり!? 従牙が人間を!?」
 リジェナは、信じられないといった様子で、素早く瞬きをする。
「従牙と人間に友好関係が結ばれるなんて、そんなの聞いたことも……!」
 リジェナが両手を動かして熱弁すれば、彼女の背後にも衝撃があたえられた。ミシルが微笑みかけるように目を細める。
 ダグラスは起きている現象に小気味よく口の端を持ち上げ、己の電磁ロッドを足元に転がした。
「これが鮮度≠フ成せる裏技ってか。これだけ助けがいるんだ、俺は休むぜ」
「好きにしなよ。すべての元凶は俺なんだしさ。ケツは自分で拭かないとだぜ」
 フレイルは親指で鼻先を弾き、グルナードに跨る。
 隣りではリジェナがミシルに跨り、振動刃サーベルについている血糊を拭う。
「私の部下が起こした事件でもあります。不正は糾弾しなければ」
「お手並み拝見だ、リジェナ。今時のバカの躾はしっかりやれよ」
 リジェナは得物をかざし、こちらに応えた。
 グルナードとミシルは前足を地面にこすり、走行体勢に切り替え始めている。
 上空の小さな友人を見つめるフレイルは、獣たちの上から、高鳴る胸の鼓動に負けない響きで、決戦への号令を放った。
「うっし、行くぜッ!」
 彼の号令に気迫に満ちた唸り声を上げた獣たちは、とてつもない勢いで四肢を駆動させ、民家に飛び移ってはさらに速度を増していく。
 リタが撃ち出してくる電撃を避け、旋風を巻き起こす素早さで、はるかなる防壁にその身を近づける。
 少年はグルナードの肩に手を置いた状態で、ロレーヌとアクスに声を飛ばす。
 なじみの深い得物こそが、いざというときの頼もしい装備だ。
「そこにあるんだろ、電磁ロッドをくれ! ロッド、くれぇーーッ!」


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