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作品名:Freshness(フレッシュネス) 作者:鈴木翔太

第4回 4


 ガルドレイス地方、国連政府機構南方支部。
 壮大とそびえ立つ司法の要塞のなかには、その能力を見込まれた幾人もの隊士たちが司令室前に待機し、次なる指令が下されるのをじっと待ち構えていた。
「リジェナ君とファルシオン君のみ、入室を許可しよう。他のみなは、自室にて身体を休ませていてくれ」
 静かだが威厳のある声音を耳朶に受け、指名された二名以外の隊士たちは靴音を響かせ、下階に向けて歩を進める。
 その場に残されたリジェナとファルシオンとは、姿勢を正して一礼したのち、室内に踏み込み、敬礼のポーズをとった。
 アルクス司令官はこれに頷き、椅子へ腰かけるようにと視線でふたりを促す。
「まずは、君たち二人とこうして顔を合わせられたことに感謝する。本部直属の人間と間近で会話するのは、実に十二年ぶりだよ」
 自らも椅子に腰かけた司令官は、旧友と再会したかのような朗らかな表情で、空中に浮遊する電子入力デバイスを己のそばに近づけた。
「せっかく、遠方からご足労いただいたのだ。それなりのおもてなしをしよう。飲み物などいかがかな。この土地は水が綺麗でね。地方名産の……」
「いいえ、おかまいなく。そちらがよろしければ、すぐにでも本題へと移らせていただきたいのですが」
 ファルシオンが司令官の言葉をさえぎるように、椅子から身を乗り出させる。この際、かたわらにあるリジェナは少しばかり怪訝な顔つきで部下を睨んだが、彼はそ知らぬふりで口をはたらかせ続けた。
「今しがた仰られたとおり、我々は本部に籍を置いております。ご生憎ですが、茶飲み話に花を咲かせている時間的余裕などないのですよ」
「口を慎め、ファルシオン! 我ら組織の人員は例外なく時間に追われる身だ、そのように礼を失する発言をするなど許されんぞ!」
 ファルシオンの言い分に、リジェナは不快感をあらわに、袖口に掴みかかる。
 だがファルシオンのほうは涼しい顔で、どこに問題があるのだ、というような視線を投げかけてきた。
 リジェナはこの所作にいっそうの腹立たしさを覚え、ファルシオンに向かって右拳を振り上げかけたが、司令官の面前であることを考慮し、あわやのところで握り拳を開いて膝元に下ろした。
 ちらりと、アルクス司令官の様子をうかがい見たが、司令官はどちらの行為も寛容に受け流されたらしく、小気味よさげに口元を緩めている。
「いやはや……はっはっはっ。君たちの言うことは、双方ともに尤もだ。本部と支部では忙しさの度合いが異なるのは当然。また、機構に所属するものが礼儀を疎かにしてはならんのも当然」
 しばしのあいだ、屈託のない哄笑に部屋じゅうを震わせたアルクス司令官は、電子入力デバイスを片手の指で素早く操作し、リジェナとファルシオンに見えるように、映像を背後のスクリーンに展開させる。
 スクリーン内には、ガルドレイス地方に点在する太古の遺跡のひとつである、ニルゴア森林が鬱蒼と映し出される。
 破損した壁面の名残と木々に閉ざされた神秘的な遺跡のなかを、見えない力に導かれるかのごとく、獣たちが群れを為して走り抜けていくのがわかった。
 河の流れのように連なったそれらは、遺跡の最奥と見られる巨木の前に集い、何事かを祝福するように鳴き声を上げている。
 巨木は獣たちの鳴き声に呼応し、わずかにその身を金色に発光させていた。
 生物の胎動を思わせる映像に、両者はそれまでのいざこざを忘却して、決して目を逸らさず、視界から読みとれる情報を脳に刻み込んだ。
「この映像は一ヶ月前に調査隊が入手したものだ。もしや噂に聞く降誕祭(こうたんさい)の予兆かと思い、本部に報告させてもらったわけだが」
 司令官はその真偽を問うべく、リジェナに向けてアイコンタクトを仕掛ける。
 リジェナは司令官にうやうやしく頭を下げると、己自身のそばを漂う電子入力デバイスを操り、映像を停止させ、発光する巨木をさらに細かく解析する。
「間違いありません。私は過去にクレアート地方の遺跡で降誕祭を体験しておりますが、これはその時の様子と酷似しております」
 すらすらと舌を躍らせるリジェナは、引き続き指先を動かして解像度を高め、巨木の内側から生れ落ちようとしているモノの輪郭を把握しようと試みた。
「今回の結晶体は映像で見る限り、かなりのサイズだとお見受けします。それに……どこか…………」
 内包される結晶体を鋭く観察したリジェナは、感じたままの印象を声に出そうとして、いささかばかり戸惑った。実物を目にしたわけでもないのに、一個人の憶測だけで物を言っていいものか、判断がつかなかったのだ。
「? どうしたんだね?」
 司令官はリジェナの歯切れの悪い台詞に、両眉を八の字に曲げて先を促す。
「その……申し上げにくいのですが……」
「人間に見えますね。幼児程度の体格を有しているようではありませんか」
 数分前にアルクス司令官の言葉をさえぎったように、今度はリジェナの言葉の邪魔をして、ファルシオンは上司のためらった言葉を事もなく口にする。
「結晶体が別の生命体の容姿で具現するという事実は、本部の資料で知識として得ていましたが……。よもや、我ら人類の姿で降り立つ日が来ようとは。本部のお偉方が目にしていたなら、さぞ驚かれたでしょうなぁ」
 ファルシオンは下劣に口元を歪め、映像を打ち消し、椅子から立ち上がった。
「司令官殿の提示された映像から、此度の降誕祭の現場はニルゴア森林。そして生まれ出でる結晶体は幼児の容姿であること、よくわかりました。貴重な情報を提供していただきまして、誠にありがとうございます」
 彼は横目で相手を見ることもせずに、背面から情報を統括すると、
「ああっ、ひとつ言い忘れました。今回の捕獲作戦は〈エクスキャリバー〉主動で発令されております。支部の皆様のお手を煩わせることはございません」
 などというわざとらしい締め括りで、指令室から無断で出て行ってしまう。
 ファルシオンの身勝手きわまりない行動に、リジェナにはもはや言葉もなく、深い溜め息が自然と唇からこぼれた。
 さしものアルクス司令官すら頬をピクピクと痙攣させる有様で、両者は互いの目と目が合うと、どちらともなく額に手を置いて頭の痛みを和らげる。
「申し訳ありません、司令官。あの者は、自身の力量を鼻にかけているところがありまして。発言や行動に注意するよう、言い聞かせてはいるのですが」
「いやいや、かまわないよ。若くして出世した人物には、ままあることなんだ。任務をこなしているうちに、相応の立ち振る舞いを弁えられるようになるさ」
 部屋じゅうを飛びまわっている電子入力デバイスを右手で打ち払う司令官は、「ワシはむしろ」と机に両肘を立ててしゃべり続ける。
「君のほうが心配になるよ、リジェナ君。ああしたきかん坊は、無駄な火の粉をあちこちで飛び散らせるからね」
「ご心配をいただき、感謝いたします。司令官殿のようなお心の広い方ばかりであれば、私の苦労も少しは軽減されるのですが……ふふ、高望みでしょうか?」
 リジェナが冗談めかして微笑んでみせたなら、アルクス司令官も人好きのする笑顔で返し、信頼を表わすように右手を差し出した。
「結晶体の捕獲、頑張ってくれたまえ。この星に生ける、全人類のために」
「お任せください。此度の任、必ずや私めの率いる〈エクスキャリバー〉が!」


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