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作品名:Freshness(フレッシュネス) 作者:鈴木翔太

第39回 39


 アクスは到達した事務所を目の当たりにし、驚嘆を吐いた。
 玄関にあるはずの扉は取り壊されて、内部の応接室では、この事務所の所長であるフレイルが獣に押し倒されている。
 あれは従牙!? どうして、あんな奴がこの場に!?
 名門ハルベルト家に生を受けたアクスは、一流講師たちから授けられた知識から、雄々しき獣の正体を特定した。体躯に印された紋様こそ、まぎれもなく結晶体の守り役としての証明だ。他を圧倒する身体能力を持つ従牙に、居場所を与えてくれた友人が襲われているとあっては、アクスがとるべき行動はただひとつである。
《グルァアアアッ!?》
 アクスが払った荷物の一撃によって、グルナードは壁際に吹き飛ばされた。
 荷物をまとめていた上着の結びめがほどけ、床に機械部品が散らばる。
「事務所に用事があるなら、僕にも話を通してください。仲間外れは心外です」
「「「「アクスっっ!」」」」
 フレイル、ロレーヌ、ダグラス、ナタル。みなの視線を一身に受けながら、自分は所長に向けて手を差し出した。
 フレイルは唖然となって手をとり、ややあってからロレーヌに顔を向ける。
 ロレーヌの両腕の内側にあるリタの眼は、彼女の手のひらでしっかりと視線を遮られていた。
「ありがとう、ロレーヌ。ナイス判断でっす!」
「偶然、考えが読めただけ。あまり褒めないで」
 フレイルに右の拳を突き出すように示され、ロレーヌはせわしなく髪をかき上げる。うっすらと赤くなった頬が、仕草の合間に見てとれた。
「アクスも最高だった。アシスト、サンキューな」
「その挙動、まるで首振り人形ですね、フレイル。今度はどんな騒動を?」
「子供、拾った。そしたら、あいつ来た。OK?」
「……大部分を省かれたような気がしますが、言っていることはわかりました」
 リタを指差してからグルナードへ指を動かしたフレイルに、アクスは溜め息をついて言葉を返した。
 その背後では、グルナードが部品類を身を震わせて払いのけ、闘志に煌めく眼でふたりの姿を睨みつける。
「衰え知らずの闘将だな、グルナード。元気の秘訣でも教えてくれねぇかい」
 ダグラスは両手に持つ電磁ロッドを下段に構え、むしろ親しげに声をかけた。
 壁役として歩み出た相手に対して、グルナードは低く唸り声を上げる。
 呪怨のごとき響きを耳にしつつ、ダグラスはフレイルに言葉を飛ばす。
「フレイル。俺がこいつとやり合うあいだに、機構支部にその子供を届けろ。俺の名前を出せば、なかに入れてくれるだろう」
「機構の支部? どこにあるんだよ、そこ」
「お前、地理の勉強をサボっていやがったのか。マップの読み方も知らねぇ、とは言わせねぇぞ」
「………………」
 ダグラスの言うことに、フレイルは腕を組んで頭をひねる。
 グルナードと睨みあうダグラス以外の目が、彼の姿に次々と突き刺さった。
 さすがのロレーヌも、これには開いた口がふさがらない。
「っていうかさ、マップってなんだっけ?」
「「「「「冗談にしたって笑えないレベルだな!」」」」」
 関係者は彼の言葉に、鋭いツッコミを叩き込む。
 彼はびくりとなって、わずかばかり仰け反るような仕草をして見せた。
「ベ、別にマップなんかなくても、生きてけんだろ!」
《我が君に近づくな、人間! キサマの無知が主君の頭蓋を侵す!》
 まわりの意見を攻撃に転じさせるように、闘将はフレイルめがけて突撃する。
 ダグラスは相手の動作に完璧に同調し、閃いた牙を電磁ロッドで受け止めた。火花が散り、またもそれぞれは、敵方の姿を瞳に捉える。
「ともかく街から出ろ! ロレーヌちゃん、道案内をしてやってくれ!」
 副所長が指示を伝えると、ロレーヌはこれに頷き、フレイルの肩に触れた。
 彼も幼馴染の行為に頷くと、手を繋いで裏口へと足を動かすのだった。
「ダグラス、お前も動きまわって腰を痛めるなよ。かばいながら戦えー!」
「ジジイあつかいするなって言っただろうが。アホンダラ……!」
 去り際に聞こえた声に、ダグラスは得物を操りながら、かすかに頬を緩める。
 憎まれ口を唇から吐き捨てていても、その様子には友愛の情が感じられた。
 ぶつかり合うロッドと牙の撃ち込みの激しさは、心に立ち昇る想いと重なるかのように、一撃ごとに威力が高められていく。
 さすがはダグラス・スパルタンだ。能ある鷹はなんとやら、である。
 ダグラスが従牙を抑えてくれるのなら、フレイルの助けに専念できる。
 アクスはそう考え、玄関から自走機関へと、回り込むようにして移動した。


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