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作品名:Freshness(フレッシュネス) 作者:鈴木翔太

第36回 36


《グルァアアアアアアアアアッ――!!》
 もう一度、グルナードは咆哮を響かせた。
 便利屋Freshnessに向かって血液したたる肉体を駆動し、精神に結びつけられた忠節こそが己がエネルギーだと言うように、主のもとに到来しようとする。
《我が君、しばしお待ちを! 従牙グルナード、御身がために参上せん!》
 武を司る闘将グルナードは、はじめから結晶体の忠臣たるべく力を揮うことしかできない性質の持ち主である。
 肉体が万全でないことは、グルナードも自らの感覚から重々承知している。承知したうえでこうした行動をとるのが、グルナードの強さであり弱さだった。
《人間ども、我が君を愚行に奔らせた罪は重いぞ! 主君に代わって、厳しき沙汰を与えてやる――!》
 勇ましい雄叫びとともに、力まかせに事務所の扉に突進して、フレイルたちの眼前に気迫に満ちた姿を現す。
 フレイルは、吹き飛ばされた扉からロレーヌとリタを守るべく、電磁ロッドを振り払って、砕かれた破片をグルナードのほうに打ち返してみせた。
 だが雄々しく猛るグルナードはその反撃をものともせずに、右前足から鋭利な爪を伸び出させ、均等に破片を三分割に切り分ける。
《小僧、キサマぁあああ! その首、食いちぎられたいかぁッ!?》
「うっ!? うわあああ!」
 怒りを解放したグルナードは床を蹴り、一気にフレイルに飛びかかった。
 少年は電磁ロッドでこちらの牙から身を守ったが、勢いのまま倒れ込ませられる。押し返そうと試みるも、巨躯から受ける重量と負荷からは抜け出せない。
「ぐ、ぐぬぬぬぬ……!」
 のしかかるように牙を向かわせるグルナードと目を合わせつつ、フレイルは両腕に力を込めて必死に抵抗した。
 必死に抗わんとするこの態度に、グルナードも目の色を変え、相手の頑張りに心が動かされるのを感じていた。
《……フン。良い気合いだ、人間。さきほどの小汚い輩よりか見込みがあるな》
「口を動かすなって! なんか生臭いし、唾も飛んできてるよ!」
 従牙の扱う言語など、人間であるフレイルに理解できるはずもない。賞賛の言葉に、少年はひどく現実的な言い分を口にするのだった。
《――!》
 一方、人間の言葉を理解できるグルナードは、真横から自分に覆いかぶさる影にハッとなって、両目でそちらを注視する。影の正体は、フレイルを助けるために自前の電磁ロッドを振り上げるダグラスだ。
 だがグルナードは、身に降りかかろうとしている災いよりも、両眼に捉えた人物そのものに動作がとれなくなる。
「そぉりゃあッ!」
 ダグラスは鉄槌でも用いるかのような大げさなモーションで、こちらを殴打せんと両手構えの得物をかかげた状態から払おうとした。
 しかし、その刹那――
「おい、ダグラス! やめろ!」
 ダグラスの行動は意外にも、組み敷かれている少年から制止をかけられた。
 少年は従牙とせめぎ合いながら、目だけで幼馴染の腕のなかに包まれている主君に視線を移らせる。道具を使って動物を殴るなんて場面は、幼いリタには見せたくないと思ったのだ。
「お前……! そんなのかまってられっか! 喉を切り開かれちまうぞ!」
「殴らなくてもどかせられるだろ、頑張れよダグラスっ!」
 深刻な負傷を受けるかもしれないというのに、相手の口調は真剣も真剣だ。
 楽天家なのか、アホなのか。災難は己を避けて通るものと考えているらしい。
 気を削がれたダグラスは少し考えて、フレイルとリタ、そしてグルナードを順番に瞳に宿して動きを止める。
 思慮深いダグラスには、少年の言い分に賛同できる部分があったのだろう。
 しかし、だからといって従牙を相手に手をぬけというのは、無茶な要求だ。
《我が君のご前で、断罪を下す……。言われてみれば、確かに悪影響か?》
 ――事務所のみなは気がついていないことだったが、グルナードもフレイルの言葉には、いくらか頭を悩ませることとなっていた。
 従牙は結晶体の導き手。正道を歩ませるなら、見知らせるものにも、気を遣わなくてはなるまい。


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