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作品名:Freshness(フレッシュネス) 作者:鈴木翔太

第35回 35


 応接室に歩みを急がせているのは、昔馴染みと連絡をとっているダグラスもまた然りであった。ダグラスはやや古くさいデザインながら、政府機構の刻印――三本の剣が王冠のように合わさったもの――のなされた制服に身を包み、携帯端末を用いて電話相手に声を張る。
「アルクス、お前の兵もこっちに回せ! 市民をこの街から退避させろ!」
「それはできない。任務だったら、本部の〈エクスキャリバー〉が動いている」
「若造どもじゃ手が足りねぇだろうから言っとるんだろうがよ!」
 政府機構南方支部の総指揮権をもつアルクスの返答に、ダグラスは携帯端末を握る右手の力を強めた。
「本部勤めのエリート連中じゃ、地方都市の構造を把握しているはずもねぇ! 市民の先導にはお前の力がいる!」
「上の顔はつぶせんよ。のちのワシらの処遇と、リジェナ君の汚名を考えろ」
「頭を使ってねぇのはお前だろ! 機構の第一使命も忘れちまったのか!?」
 政府機構における第一使命、それは市民の安全確保。
 機構に属するすべての者たちは、そのために行動しているはずだ。
 俺が抜けてから、機構の奴らは全員ふぬけちまったのか?
 ダグラスは自らが在籍していた組織に、途方もない落胆を覚えていた。
 正しい社会を形作るために徒党を組んでいるはずが、この緊急時に、脳裏に思い浮かぶのが腐敗した組織体制からの保身とは……
「リジェナには感謝しなくちゃならねぇらしいな。こんな意見が出てくるなら、俺は政府機構を辞めて正解だった」
「ダグラス、〈エクスキャリバー〉の実力を信用しろ! 特殊編成隊の人員は、ほかならぬ君の鍛えた兵士たちだ」
「それがどうしたってんだ。誰から何を学ぼうが、そんなこと関係ねぇんだ! 大事なのは学んだものを、どのように導くかだ! そいつらがどう使うかだ!」
 ダグラスは唇を震わせて、サングラスに隠れた瞳を陰らせる。
「アルクス。お前はもっと、カッコイイ野郎だったと思ったがな。残念だ」
「ダグラス……」
「腰が引けてる爺様は緑茶でも飲んでいやがれ。面倒事はまとめて俺がやる。俺の仕事は今も昔も、それだけだからな」
「――すまない。ワシは君にはなれんよ」
 ああ、そうだろうよ。と、ダグラスは静かに通話を終えた。
 応接室に踏み入ると、ほどなくフレイルたちも部屋に駆け込んでくる。
 先頭をきっている鮮度の申し子は、滑り込むように床に敷かれている絨毯をめくり上げた。
「ダグラス、外にデカい獣が――って、なんだよ、その制服!?」
「退職してから、しらばっくれて返さなかった仕事着だよ。それよりも、外はどうだ?」
 フレイルの言葉に落ち着いて返答し、ダグラスは彼の言葉を促す。
 状況が状況だけに、彼は喧嘩していたことも忘れて頷くと、素直に答えた。
「市街ゲートを越えて、やたらデカい獣が! 片耳がなくて、傷だらけの!!」
「やれやれ、だ。グルナードのお出ましとは」
 ほとほとまいったという表情を浮かべて、自分は両肩をすくめる。
「グルナード? ダグラスさん、知っているの? それに、その制服……」
 ロレーヌが見覚えのある刻印に、驚きを隠せずに口を動かした。
 こちらはこれに首をかいて、きまりの悪さに、表情を崩す。
「隠し立てしたつもりはないぜ、ロレーヌちゃん。俺は俺なりに、奴の気分をまぎらわせたかっただけだ」
 サングラスを外し、制服の胸元に引っかけて、幼子に視線を移した。
 こうなってはもう疑うまでもない。この幼子は結晶体だ。
 政府機構――いいや、全人類が喉から手が出るほど欲してやまない存在。
 この世界を根底から支えている、万世の至宝。
「フレイル。グルナードの狙いはその子だ。だから全力で守れ! 渡すな!」
「リタを狙ってる? なんでだよ!?」
「『なんで』だの『どうして』だの、そんなのはどうでもいい。だろ、フレイル?」
 ダグラスは挑発的な、それでいて信頼の込めた目つきで、少年の顔を見た。
 フレイルはこちらの眼を見つめ返して、その意図を読みとると同時に、身に着けている電磁ロッドを手に取り微笑んだ。
「――そうだよな。そんなのどうだっていい。聞いてもわかるか怪しいしさ」
 しゃべり終えた彼は、電磁ロッドを伸び立たせ、幼馴染に声をかける。
「ロレーヌ、リタを抱え上げてやって。それと、俺から離れちゃだめだぜ」
「わかった。わたしはリタを、あなたはわたしたちを、だね」
「そういうこと! 守るぞ、みんなで!」
 ロレーヌの素早い理解に、フレイルはピッと親指を立てた。
「みんな? あたし、そろそろ眠いんだけどぉ」
 四人の様子を眺めていたナタルは、片方はずれかけた上着を左肩にかけ直し、悠長にそのまま肩を叩いてみせる。
 ダグラスはそうした彼女に向き直り、両腕を組んで話しかけた。
「ナタル。お前にはやってもらいたいことがある。お前にしかできないことだ」
「うそ〜〜ん。あたしにやれたら、あんたでもやれるんじゃないの〜〜?」
 ナタルは本当に眠たそうに、猫のように片手で顔を拭う。ダグラスは彼女の仕草に、実のところ大物なのではないか、という気さえしてきていた。
「お前があちこちでドタバタと動いてくれるとは、俺も思ってねぇよ。ただ、お前に動かしてもらいたい奴ら≠ェいてな」
「ふーん。あたしが動くわけじゃないなら、協力してあげてもいっかなぁ〜〜」
 彼女は両腕を大きく伸ばし、ミニスカートについたスナック菓子の食べカスを雑に払い落とす。分類的には大雑把な性格なのだろう。
「綺麗な恰好をするのなら、もっと気をつければいいのに」
「ほんっと面白いよな。ナタルの奴ってさ」
 ロレーヌは相手のそうした面を、同じ女性としてどうかと思ったらしいが、フレイルは気構えせずに済む性格を、打ち解けやすいと感じているようだ。
「フレイル。なんだか、あの人にはやさしいよね」
 笑顔を作るフレイルに、ロレーヌはいささか眉をしかめた。
「えっ。そんなことないだろ?」
「そう? 本当に?」
「おう。ツッコむところはツッコんでるつもりだぜ」
 大きなツッコみどころを見逃しながら、フレイルはにこやかに言葉を放つ。
「別に普通だよな、リタ?」
「…………? …………♪」
 話を振られて、ロレーヌに抱かれているリタは小首をかしげた。
 けれど頭を撫でられると、すぐに明るい顔になる。
「フレイルは子供を甘やかすタイプだよね。やりすぎると自立できなくなるよ」
「子供のうちはいいんじゃないか? かまいすぎるくらいで」
「そこんとこは俺も同意だ。子供は相手をしてやったほうが、長い目で見るといいらしいからな」
「うっわ。何この会話。妙にジジババくさいんだけど」
 展開された一連の会話に、ナタルは身震いするような仕草を見せた。彼女の感覚からすれば、薄ら寒い話題であったようだ。
 こうした反応は、これから動き出すみんなの心を和ませることに一役買っているのだけれど、ナタルがそこまで計算しているかは正直なところわからない。


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