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作品名:Freshness(フレッシュネス) 作者:鈴木翔太

第28回 28


 不可視の障壁の発生と、連なる仲間たちの倒れ伏した理由は、グルナードにも察せられていたらしい。そして、主君に愚を犯させたのは臣下である自分の不徳の成すところであると、己が不甲斐なさに身を焦がし、胸のうちを荒らげて雄叫びを上げる。
《グルル……グルァァアッ!!》
《落ち着け、グルナード。何も死に至るほどの負傷ではない》
 冷静なミシルの言うことに、だがグルナードはいっそう苛立ちと焦燥を込め、噛みつくように吠え猛った。
《これが落ち着いていられるかッ! 導き手たる従牙が二匹も揃いながら、我が君の手を穢させるなど末代までの恥だ!》
《すでに起きてしまったことはどうしようもない。この失態を取り返すことを考えろと言っているのだ、友よ》
《ミシル……! キサマはなぜそうまで気を鎮めていられる!? 一度穢れた手を清める方法などありはせんッ!!》
《真なる不浄などこの世にはない。ワタシはそう信じている。罪過を濯ぐ術は必ずある、我々が諦めぬ限りはな》
 ミシルはどこまでも静かに、けれど揺るがざる想いをにじませ、友の両眼をじっと見つめて言葉を放った。
 今は言い争いなどしている場合ではない。
 仲間たちを一ケ所に集めて看病し、結晶体がこのような挙に出た理由を、一刻も早く究明しなくては。
《ミ……、ミシル様……》
《! オマエ、話せるのか?》
 血に塗れた身体で横たわっている獣の一匹が、呼吸をすることもつらそうに、ミシルに向かって話しかけた。ミシルはそばまで駆け寄り、相手の傷を舐めてから語りかける。
《心配はいらない。オマエたちはワタシの一部も同じだ、見殺しなどには――》
《いいえ、自分たちのことなどはいいのです……。それよりも、ご報告が……》
 獣はかすむ眼でこちらの顔を見て、残された力で必死に勤めを果たす。
 主君に対する想いは従牙のみならず、等しく森に生けるすべての動物のものなのだ。
《我が君が……、人の子に攫われました。我が君はそののち、森に封を……》
《何ッ、それは確かなのかッ!?》
《この二つの眼が、証明です……。我らの主、現世の至宝が……!》
《もう良い、喋るな。オマエの忠義は、しかと聞き届けた。ゆっくりと眠れ》
 涙ながらに訴える同胞にしのびなさを覚え、相手を休ませようと黙らせる。
 悔しさ、口惜しさが含まれた言葉は、内に宿す心情を如実に物語っていた。
 同胞の気持ちをおもんばかりつつ、報告された事柄から智将としての責任を果たすべく、この場で起きたもうひとつの出来事を推測する。
 そして推測のなかから、とりたてて奇妙な点を、掘り下げて考え込んだ。
《我が君は人の子の安全を図った。無垢ゆえの過ちとするならば、納得できぬものでもない――が》
 結晶体が人間に懐いてしまう、などということは、これまでの歴史のなかで一度たりともなかった。結晶体は元来の純粋な成り立ちから、かたわらにある者にも同様に純粋さを求める。手垢まみれの歩く強欲、人間などを好むはずはないのだが……
《不可解だが、ともかく我が君の安否が一番の気がかり。グルナード――!?》
 闘将に同行を願い出ようとしたとき、相手の姿はすでに忽然と消えていた。
 血気のグルナードは、結晶体がどこの馬の骨ともわからぬ輩に攫われたと聞きおよんだ時点で、疾くニルゴア森林をあとにしていたのである。
《……っ……あのたわけが……ッッ!!》
 協調性のない独断にミシルは叱責の怒声を張り、相手の背に追いつくべく、四肢でけたたましく大地を蹴った。


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