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作品名:Freshness(フレッシュネス) 作者:鈴木翔太

第22回 22


 ところが、そういいことばかり起こらないのが人生だ。
 ロレーヌがフレイル宅に向かうと、扉はしっかりと施錠されており、灯りも見られなかった。
 もしや、こんな時間までガラクタ山で機材集めを行っているのかと携帯端末に着信を入れてみるも、持ち運ぶことを忘れたのか、電源を入れ忘れたのか、何度コール音を鳴らしても相手が応答する気配がない。
 連絡がとれないのならば携帯端末など持っている意味がないではないか、とロレーヌはいささか憤慨しながら、Freshnessの事務所であるダグラスの自宅にいるのかもしれないと思い、ご近所の視線を気にしつつ、カレー鍋を両手に足をそちらへと向かわせる。
 しかし、なんという運命のめぐりあわせだろう。
 たどり着いてみれば、事務所のほうでもささいな問題が発生していたのだ。
 ダグラスは苛立たしげな様子でスキンヘッドをかきながら、携帯端末を片手に電話相手に声を荒らげている。その剣幕たるや、事務所へと足を踏み入れたロレーヌに気づかないほどに激しく、口角泡を飛ばす勢いである。
「心配のしすぎなんだよ、お前は! フレイルには俺が電磁ロッドの扱い方をしこんである。木っ端獣どもなんぞ屁でもねぇ!」
 フレイル? それに、獣?
 ロレーヌは聞こえた内容に興味を惹かれ、ダグラスの近くまで距離を詰める。
「気にするなら、ご自慢のマシンのほうだぞ、アクス。ニルゴア森林はまさに獣道だ。あいつの運転で無事に済めばいいがな!」
 ニルゴア森林! あんな危険な場所に、フレイルはいるというのか!
 自走機関で彼をあんな場所に連れていくなんて、なんてひどいことを!!
「アクス! あなた、わたしの幼馴染に何をしたのよッ!?」
「「ろっ、ロレーヌ!?」」
 携帯端末を奪い、語気を強めて詰問するなり、副所長と色男は驚いた様子でこちらの名前を口にする。
「どうして貴方が通話に!? 連絡しないように言っておいたはず――」
「ッ!! つまり、わたしに言えないようなことを彼にしでかしたのね!?」
 怒りの導火線が一気に、すさまじく苛烈な勢いで、轟々と燃え上がった。
 これは断じて許せない事実だ。よくも、よくもわたしのフレイルに!!
「アクス……アクス、アクス、アクス、アクス、アクス、アァックス――ッ!」
「うう……!」
 憎悪の発露にして怨念の放出。
 並々ならぬ般若の呪詛をうけ、アクスは悪寒に背筋を凍らせたようだ。
 さらにたたみかけようと、言葉を矢継ぎ早に放たんとしたとき、自分の背後でパンッ! と大きな炸裂音が耳朶を震わせた。視線をめぐらせた方向では、ダグラスが両手を打ち鳴らした姿勢のままロレーヌを見ている。
「落ち着け、ロレーヌちゃん。アクスの野郎が悪いわけじゃねぇ。フレイルが勝手をやらかしやがったのさ。あいつなら、ありそうな話だろ?」
 ただ手を合わせただけで、場の空気を己が覇気にて慄然とさせた副所長は、うってかわった温和な調子で口をはたらかせる。
 相手の変わり身の早さと、直前までの威圧的な雰囲気にロレーヌは気圧され、思わず息を呑んだ。ダグラスはそんな自分から携帯端末を受け取り、アクスに「フレイルは悪運が強いから大丈夫だ」と伝え、通話を終えた。
 そして、こちらの持っているカレー鍋を簡易コンロの火にかけ、銀のお玉で鍋の中身をゆっくりかき混ぜ始める。
「ロレーヌちゃんもフレイルの悪運の強さは、七つのときに知っているよな。俺たちはなんにも気にせず、あいつが戻るのを待てばいい」
 あいつへの文句をたっぷりこしらえてな、とダグラスは微笑みを浮かべた。
 相手の態度からは、フレイルに対する信頼と期待を読み取ることができた。
 ダグラスはフレイルが憎くて捜しに行かないわけではない。彼ならば窮地を必ずや脱して、地方都市アルシエロに帰参できると確信があるのだろう。
「ダグラスさんは、すごくフレイルのことを気に入ってるんだね」
「おうともさ。気づくのが遅いぜ」
 ダグラスはちょっぴり気恥ずかしげに、お玉を掴んだ右手の親指を立てる。
 そうした気さくな挙動からは、精悍なさきほどまでの気配はなくなっていた。


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