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作品名:Freshness(フレッシュネス) 作者:鈴木翔太

第2回 2


 感情の高揚も、捉えようによっては鮮度≠ニ呼んで差し支えがないだろう。
 事務所で仕事仲間の帰宅を待つダグラス・スパルタンが胸裏に覚える憤慨も例外なく、今このときのみ生じる活きの良さ≠ノ違いないのだから。
「フレイルのアホンダラめ。ジャンク屋で足りない部品を購入するだけだってのに、何を手間取っていやがんだ」
 今日、依頼を受けた仕事。工業ドロイド三体の機能修復にとりかかりながら、自然とダグラスの口を衝くのは、所長であるフレイルへの愚痴であった。
「だいたい、ドロイドが三製品とも別個の会社の製品だなんて仕事を受けるのが悪いんだ。依頼を受けるときは、事細かにその内容を聞いておけってのッ!」
 不満を放ちながら工業ドロイドの背面パーツを工具で取り外し、内蔵機器より伸びる回線の感度を一本一本、確認してみるダグラスだが、細かな作業と荒んだ心のあり方に、仕事への集中力がガツガツと削られていくのを、嫌でも実感してしまう。
 というよりか、モチベーションが下がる本当の理由は、先に挙げた二点でないことを、実のところダグラスは理解していた。
 ただ、できることならば、その現実は直視したくなかったのだ。いっそ、存在しないものとして扱ったほうが、精神衛生上気楽であったのだ。
「………………」
 ダグラスは、背後にある長机にうつ伏せに寝転がり、鼻歌交じりでゆっくりと両足をバタつかせている、四人目の仕事仲間に眼を向ける。
 しかし、ナタル・ウォーリアはこちらの視線にはまるで気づかず、楽な姿勢を維持したままファッション誌をパラパラと捲り、お気に召したページの端を折るばかりである。
「グラディウスのデザイナーってセンスあるぅうっ。この新作のハンドバッグ、超かわうぃ〜〜♪」
「よう、ナタル」
「ああっ! こっちのワンピもかわうぃ〜〜♪ 二番目の彼氏あたり、こういう服装好きそうだし、今度のデート用に買おっかな」
「ナータールッ!!」
 ダグラスが声を張り上げたなら、ナタルはようやっと、視線をファッション誌からこちらのほうに移行させる。
 ダグラスの怒気の込められた口調が少々気に食わなかったのか、動作の合間には隠そうともしない舌打ちの音が差しはさまれた。
「なによぅ、ダグラス。あたしの大切なオシャレ研究の邪魔しないでくれる?」
「うるせぇ。そんなもん、暇なときにのんびりやれ。ここは仕事場だろうが」
「仕事ぉ? 何それ、そんなダサいことあたしにやらせる気?」
「ダサかろうがなんだろうが、引き受けた仕事はやらねぇと信用問題が――」
 腰を据えて説教モードに入ると、彼女はさもうざったそうに、耳にかかる長髪を指先でいじくりまわした。
 ナタルは何者から受ける説教も嫌いであったが、特に年配男性からのそれは、不快ランキング一位に位置するシロモノであるらしい。
「人間はな。社会に奉仕することで幸福を計るのが、健全な精神状態なんだぜ。わかったらお前も、レンチやスパナを手に取って、このドロイドどもを――」
「あ〜〜パス、パス、パス。あたし、機械の構造なんてまるでわかんないもの。そもそも、女子は一般的にメカの配線とか興味ないから」
 身体を起こした彼女は、短めのスカートを着用しているにもかかわらず、机の上であぐらをかき、ファッション誌で左肩をトントンッと叩いた。
「男の人って子供の頃とかロボ好きでしょ。だから譲ったげるよ、このお仕事。やったねダグラス、なんならあたしに感謝しちゃってもいいよ?」
「…………あのな。終いには俺もキレるぞ。仮にも事務所に所属しているなら、せめて働いているフリくらいはしろよ!」
 工業ドロイド一体の機動性を五割回復させたダグラスは、乱暴に右腕パーツの装甲を取り外し、工具箱のなかから指先だけで必要な器具を探り当てる。
 奇しくもナタルの言うとおり、機械いじりは昔からの趣味ではあった。
 しゃべり続けながら修復作業を続け、プロの修復業者にも劣るまいと自負するメカニックの腕前をいかんなく発揮している姿を、相手が正当に評価しているかは疑わしいところではあるが、だ。
「っていうか、あたしは働くこと自体にあんまり意味を感じないんだよね」
「働かないでどうやって飯を食うつもりなんだよ、お前は!」
「え? 食べられるよ?」
 吠えるように口にしてやれば、ナタルはきょとんとした顔で平然と反論する。
「あたしの五番めの彼氏がすっっご〜〜いお金持ちで、高価なレストランとか、いっつも連れて行ってくれるんだぁ。ほかにも人気ブランドのお洋服なんかを、たくさんプレゼントしてくれて……あっ、そうだ! さっき見たハンドバッグ、五番めに買ってもーらおっ♪」
 とんでもねぇ女もいたもんだな、おい。
 声にこそ出さなかったが、ダグラスは彼女の言葉にほとほと頭を痛めていた。
 確かにナタルの言うとおり、女性のために男性は働くものだ、という思想も、この世の中にはないわけではない。
 とはいえど、フェミニズムが幅広く浸透した昨今において、それを前提として不特定多数の男性と交流をとる猛者――つまりはいま同じ場所に居合わせているナタルのことだが――などは、ごく一般的な感性を持つダグラスには到底予想のつかない世界に生きる人物と言えた。
 おそらくダグラスとナタルとでは、何を話したところで、どこか噛み合わない会話が続いてしまうだろう。
 それはそれで楽しいものなのだが、釈然としない引っかかりのようなものは、どうしたって拭い去ること困難である。


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