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作品名:Freshness(フレッシュネス) 作者:鈴木翔太

第16回 16


 あたかも生ける弾丸のごとく飛び込んでいく同胞を、小高い丘の上から眺め、ミシルはその瞳をわずかながら涙で濡らした。
 もちろん、防衛戦術は全体との同意のもとに成り立っているものだが、現実として目にする戦士たちの儚い散り様には、いかが策謀家とて心を震わされる。
仲間は己=Bそれすなわち、将たる二匹の従牙の意志をみなが汲み取り、二匹がそこから生じる痛みを受けとめることにほかならない。
《ミシル。死んだ者どもを悼むのは後回しだ。奴らが降りてくるぞ》
 飛翔艇から舞い降りる隊士たちを血走った眼で睨みつけながら、グルナードは低い唸り声を放ち、鋭利な爪を指先から伸び出させる。
 地に突き刺さった高周波音響発生装置の共鳴が引き起こす立体音にかまわず、獣たちはもてる力を振り絞り、隊士たちへ勇敢に挑んでいく。大群の将であるグルナードとミシルが、同胞に頼りきってはいられない。
《わかっている……彼らに報いるためにも、行かねばな!》
 従牙二匹は自らの存在を誇示するように吠え猛り、旋風の化身となって、丘の上から敵陣に向けて直進した。足元のぬかるむ汚泥をまき散らし、同軍の合間を抜けて隊士に飛びかかる姿は、さながら怨嗟の体現である。
 隊士により先に旅立つことを余儀なくされた、仲間と同じ嘆きの園へと崩落させるその一撃は、敵の喉笛を深々とえぐる牙の一閃。
 グルナードは紅の飛沫を噴き上げる隊士を後ろ足で蹴り飛ばし、身体じゅうにさらなる化粧を施したまま、衝動にまかせて、隊士たちを続々と薙ぎ倒して突き進む。ミシルも隊士たちをその身のこなしで翻弄し、意図的に地面に突き刺さっている高周波音響発生装置をいくつか破壊させると、撃退地点へと誘い込んで動きを封じた。
 どれほど優良な装備を揃えようと、その真価を発揮できなくては意味がない。
 地の利を理解している従牙二匹の猛攻に、〈エクスキャリバー〉は瞬く間に劣勢を強いられていった。
《勝てる……勝てるぞ、ミシル! 此度の戦線、かつてのような猛者はないッ! いつぞや、オレの耳を斬り落としたような兵(つわもの)はなッ!》
 勝利の予感に歓喜するグルナードは、肉体の反応が鈍っていることを忘れ、戦闘態勢を解き、友であるミシルのほうに顔を向ける。
 だがその一瞬の隙をつき、己の出世と地位に誰よりもこだわる輩が、得物を手に背後へ迫っていた。おりしも、戦闘において誰よりも秀でた成績を有するその輩とは、ロバート・ファルシオンという名の無作法者だ。
「俺の功績の一端となれ! ケダモノどもッ!」
《ッ! グルルッ!》
 ファルシオンの放った言葉で危険を察したグルナードは、間一髪のところで相手の剣撃を左前足の爪でいなし、後方に飛び退く。
 体勢を逸らされて少しばかりよろめいたファルシオンも、間合いを開くために後じさってから、得物を厳かに構え直した。
《相手の見えぬところから斬りかかるか。……やはり、キサマらは質が落ちた》
 グルナードは対峙するファルシオンを見つめて、静かに落胆の呟きをもらす。
 脳裏には先のクレアード地方で矛を交えた猛者の姿が浮かび、そして消えた。
 従牙にとっては、恵褒樹の内側より生れ落ちる結晶体以上に得がたきものなどない。
 しかし、そのうちの一個体――グルナードの趣向において、まばゆく侵せぬものもまた、精神の奥底に潜伏している。
 それは強き者とまみえる喜びであり、己自身と好敵手を互いに認め合うひとときである。それぞれの力を存分に発揮し、聖も邪もなく本能でぶつかり合い、躍動する肉体と脈打つ鼓動を感じる刹那である。
 これに勝る娯楽なぞ、この世にはない。
 グルナードは強き者との果し合いを経れば経るほどに、そうした気持ちを胸に溜め込んでいった。
 そして――その極みたる猛者との出会い。かの戦地での心躍る果し合いにて、グルナードは夢ではないのかと疑うほどの興奮と快感に包まれた。片耳を一刀にて斬り落とされ、肩の骨は砕け散り、血液がいたる箇所から流れ出ようとも、己が身体から沸き立つ高揚感に比べれば、まるで取るに足らぬ些事に思えた。
 従牙として生を受けた闘将が、一時とはいえ、自らの使命や任を忘れ去り、戦いの快楽におぼれた、あの感覚……!!
《あの男がいなくなり、キサマらは完全に、ただの敵でしかなくなったようだ》
 結晶体を護りぬくには、そのほうが好都合なのだと、理解はできている。
 しかし闘将の心には、言い表すことのできない、激しい感情が巻き起こった。
 悲しみのような、怒りのような、嘆きのような、憤りのような。
 奥底から絞り出される感情の渦は、いったい何を意味しているのだろう?


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