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作品名:Freshness(フレッシュネス) 作者:鈴木翔太

第1回 1


   1 新たな芽生え

 ――この世のあらゆるものには、鮮度≠ェある――。
 フレイル・ストレイトは、自らのそうした持論に絶対の自信をもっていた。
 生命に食料。技術に政治。すべての事象には流行り廃りが必ずあり、全盛期に見られる活きの良さ≠ェある。フレイルはそれらを総じて鮮度≠ニ呼称し、努力と向上心で過去から現代まで瑞々しさの保たれた稀有な品々、先人の知恵と損なわれぬ偉容に憧憬の念をもっていた。
 それらのなかでも群を抜き、時代の流れに負けることなく絶えず受け継がれた逸品からフレイルが好んだのは、大空を飛びまわる鋼の怪鳥――飛翔艇である。
 自分用の飛翔艇を手にすることが、少年の幼い頃からの夢のひとつ。六番街に一ヶ月前に建てたばかりの事務所は、その夢のための足がかりだ。
 新世代と称される現代においても、飛翔艇は個人で所有するにはいささか以上に値が張りすぎる。小耳にはさんだ情報によれば、飛翔艇を一機買い取る資金があれば、その金額でハウスロイドが五体は購入できるのだとか。
「とんでもない金額だよなぁ。もちっと、安くできないもんかな」
 仕事で立ち寄ったジャンク屋から事務所に戻る途中、はるかなる遠方に広がる大空――ホログラムではあるが――を見上げ、フレイルはぼんやりと呟く。
 そんな姿を嘲笑ってか、高みでは飛翔艇が鮮やかに白雲を抜き去っていった。
「……ひょっとして、〈エクスキャリバー〉って奴らの舟艇じゃないよな、アレ」
 真偽のほどは定かでないけれど、新聞やら週刊誌やらに書き立てられ、人々のあいだでも話題になっている政府編成隊〈エクスキャリバー〉は、数えきれないほどの飛翔艇を所有しているらしい。まったく、羨ましい限りである。
「何かの拍子で知り合いになって、一機くらいポーンッと譲ってくれないかな」
「まず無理でしょう。僕らは街の皆さんにさえ、顔が充分に売れてませんから」
 フレイルが口に出した絵空事に、何者かが嫌味のない丁寧な返答をよこす。
 聞き覚えのある声に青空から視線を移すと、目の前には同じ事務所に所属する仕事仲間、アクス・ハルベルトが微笑みを口元にそえて立っていた。
「アクス! どうしたんだよ、新しい依頼人でも来たのか?」
「いいえ。残念ながら、そうではなくて」
 アクスは小さくかぶりを振って、フレイルのそばに歩み寄り、耳打ちをする。
 相手の言葉を聞き受けたフレイルは顔をしかめ、わずかに仰け反るような仕草をしてみせた。
「うひゃーっ。ダグラスの奴、そんなにカッカしてんのか」
「ええ、それはもう。鋭い眼光がサングラスを射抜きかねない勢いでした」
「マジかよ。説教はごめんだぜ」
 アクスからの説明で、フレイルの表情はさらに苦々しいものになった。
 そして、こちらのそうした姿に、アクスは満面の笑みでこう付け加える。
「お説教では済まないかもしれません。ダグラス、自前の電磁ロッドの整備点検までしていましたから」
「お、おいっ、いくらなんでもそれは冗談だよな?」
「……冗談でこんなことを口にすると思いますか?」
 どこか楽しげな響きを含んだ口調で、アクスは笑みに陰りをおとす。
 この表情にはゾッとする薄ら寒さを感じるけれど、それでも決定的な悪印象をあたえないのは、色男のみに許された特権だろうか。
「お前、そういう意地の悪い顔が得意だよなー。練習とかしてるわけ?」
「その質問に関してはノーコメントとしておきます。急がないと、冗談が冗談でなくなるかもしれませんから」
 左右の手にぶら下げている紙袋――ひいきにしているジャンク屋のものだ――のうち片方を受け取り、アクスはくるりと背を向けて事務所へと歩き始める。
 当然、フレイルは不穏な台詞をうそぶいた相手の背中を追うことにしたが……その前に、空いている右手でズボンの後方ポケットにしまい込んだ電磁ロッドを伸び立たせ、事務所での万が一の事態に備えることも忘れなかった。
「あのハゲオヤジ。まさか、本気でロッドで殴りかかってはこないよな」


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