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作品名:真昼の嵐 作者:水星

第9回 9
 翌朝、登校してきたみぞれは教室の中の異様な空気に一瞬たじろいだ。

「おはよう」タカノに声をかけたが、タカノは気付かないふりをした。

「おはよう」みぞれが葵の席に行くと、葵はひきつった笑顔を浮かべ「おはよう」と返していた。

「クリパの日なんやけど、何時くらい集合にする?うちの家わからへんよね。どっかで待ち合わせしよっか」

明るく切り出すみぞれに、葵は、小さく頷きながら、プリントを探すふりをしていた。

「ごめん。社会のプリント、取りに行ってくるわ」

「あ、じゃあ私も」みぞれが立ち上がりかけると、横からタカノが、

「私が、一緒に行くわ」とみぞれを残してさっさと出て行ってしまった。

ぽかんとした顔で葵とタカノを見送るみぞれを見て茉優と明日香は手をたたいて爆笑していた。
         

「はい、消しゴム。二つあるから貸してあげる」茉優は、にっこり笑って、みぞれに消しゴムを手渡した。

みぞれが、授業中、ぐずぐずと筆箱の中をあさっていることに気付いたのだ。

「え、あ、ありがと」みぞれは不審な顔でつぶやいた。この一週間ほど、みぞれは完全にクラス中から無視されていた。

優しさという言葉は、みぞれの半径一メートル以内には存在していなかった。

いじめの主犯は、茉優からクラスの中心グループにうつっており、明日香の振りまいた火の粉は面白いくらいに飛び散って、

一番、燃えやすいところに着火していた。みぞれは、暗くうつむいたまま、教室で本を読んでいることが多くなった。

ぎゅっと唇を噛みしめて、何も気づかないふりをしているけど、その背中はレーダーのように教室中の空気を探り続けていた。

もしかしたら、みぞれは自分の母親に窮状を訴えるかもしれない。学校に来なくなるかもしれない。

これまでも、そういった子はいたし、クラスでの話し合いやら学年集会やら、鬱陶しいイベントが続いたあげく、

いじめは良くないことですと反省文を書かされて、あっけなく幕が引かれたことがあった。

小学生みたいに仲直りの握手をさせるウザい教師もいたし、表向き、うわべだけの友情をテキトーに演じていくことで妥協した子もいた。

だから茉優は、みぞれに消しゴムを貸した。そんな簡単に幕を引かせないために。もっともっと苦しめてやりたかった。
生殺しにするために、茉優は緩急をつけてみぞれに接した。彼女はどうするのだろう。

きっと、みぞれは、優しくされるたび、両親に報告するのをためらうだろう。

「クラスでいじめられてるの。誰も友達がいないの。一人ぼっちで寂しいの」誰だって、そんな姿、両親にさらしたくない。

それは、茉優がクラスメートに向かって、「家で独りぼっちなの。寂しいの」って言わないのと同じだ。

プライドが許さない。

あきれるほど楽しそうにふるまってみたり、テンション高く笑ってみせたりして、みんなと同じフリをする。

擬態。本当は乾いた砂の中を延々と歩いているみたいなのに。

それでも、みぞれはまだ良い。ママがいる。世界中を敵に回しても、みぞれを守り愛してくれる人がいる。

茉優にはそんな人はいない。

悔しい、悔しい。そんなみぞれが痛いほどうらやましくて、茉優は歯を食いしばった。


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