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作品名:真昼の嵐 作者:水星

最終回 11

親子コンサートは超満員ではなかったけど、座席の八割は埋まっており、まあまあの盛況だった。吹部の持ち時間は三十分。

茉優もステージで一体になって音を重ねていく瞬間は、独りじゃないと感じられた。

拍手に包まれて、指揮者の先生に誇らしげな笑顔が浮かんだ。茉優も、高揚した気持ちで頭を下げ、楽器の撤収を行った。

体育館に戻ると軽音のコンサートは終盤にさしかかっていた。誰もが聞いたことのあるJポップの楽曲に会場は大いに沸いていた。

ラストの曲になり、顧問の松本先生がマイクを持つと、

「実は、最後の曲は、わが軽音のアイドル、大塚流星君の自作曲になります。大塚君はドラム担当なのですが、実は、なかなか良い声をしてるんですね。

なので、前から、一度歌ってみたらいいのに、と勧めていたのですが、なかなか首を縦に振ってくれなくて……そしたら突然、歌ってみたいと言い出すじゃないですか。

びっくりしました。しかも、その曲がなかなか良かったので、是非、皆さんにも聞いていただきたいと思いました。どうぞ」

「大塚流星です」女の子たちの矯正があがった。

「この曲は、僕のすごく大切な人が書いた歌詞にメロディーをつけたものです。楽譜が間に合わなかったので、

今日は、僕のギターに合わせて聞いていただきたいと思います。お聞き苦しい点もあると思いますが、よろしくお願いいたします」

流星は、静かにそう言うと、ギターを抱えて椅子に座った。なんだか本物のアーティストみたいで格好良かった。


   転がり込むように独り
   橋のたもとで泣いてた

曲の出だしを聞いた瞬間、茉優の全身は凍り付いた。{あれは私が書いた詩}英語の教科書が頭に閃いた。
流星は静かな声で淡々と歌い続けた。

    
   暮れる街並み 揺れる人影  
   優しさだけが響いてこない
   だからtonight
   今夜は寒いね
   膝を抱えうずくまらないで
   tonight tonight
   夢は枯れ果てた
   tonight
   今夜は暗いね


そのあとに、茉優は「誰も君を愛したりはしない」と続けていた。
それが茉優の本音だった。ママがいなくなってから茉優の心には、ぽっかりと穴が開き、冷たい風がふき続けていた。
これからも永遠に、その風がやむことはないと思っていた。だが流星は、その最後の歌詞をこう書き換えていた。


   俺が君を独りにはしない

茉優は驚いて顔を上げた。会場はシーンと静まり返っていた。
流星がじっと茉優を見ていた。


その日から、茉優の中で何かが変わった。

もちろん、クラスからみぞれいじめがすぐになくなることもなかったし、最終的には、みぞれのママさんが担任と面談をして、

クラス全員で話し合って、小学生のように作文を書いて、主犯格もよく分からないまま握手をして和解して……結局は、お決まりのコースだった。

だが、いつもなら白けきった気持ちで参加している茉優の心に、ほんの少し、ちくっと感じる痛みが確かに残った。それが独りではないということなのかもしれない。


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