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作品名:向日葵とサマー 作者:水星

第9回 守りたいもの
薬による二度目のショックに襲われたのは、それから間もない時だった。
もしかすると以前、倒れた時のトラウマからくるパニックだったのかもしれない。
小さな智己のお世話と病気の情報収集で寝不足の日々が続いていたところに、たまたま飲んだ風邪薬が合わなかったのだろう。
夏実は薬を飲んでしばらくすると、体調に異変を感じた。
前回は、目の前が真っ暗になり、床に倒れ込んだが、今回は心拍数が突然上昇を始め、激しい寒気と頭痛を感じた。
真っ青になり、膝を抱えがくがくと震えている夏実を見て、驚いた里穂が祖父母に電話をかけた。
「おじいちゃん、ママの様子が変なの。お薬を飲んでから、がくがく震えてる」里穂が叫ぶように言った。
「今すぐ行くから、ママにお水を飲ませて、そばにいてあげて」
「わかった」里穂は小走りに台所に行くと、コップに水をくんで夏実のところに戻ってきた。
隣の部屋からは目を覚ました智己の泣き声も聞こえた。
「ママ、お水持ってきたよ。大丈夫?ママ。おじいちゃんたち、すぐに来てくれるって」
「ありがとう。里穂。大丈夫よ。きっと大丈夫」夏実は震える手でコップを受け取ると静かに水を飲んだ。
動悸はおさまらない。ふと激しい恐怖にとらわれた。
(ダメだ。この子たちを置いてはいけない。特に、智己。大人になったときに智己が一人で泣いていたら?
病気が進行したときに、私はそばにいなくちゃいけない。
何も出来ないかもしれないけど、一緒に泣くだけしか出来ないかもしれないけど、それでも……。)
(生きたい。生きたい。生きたい。この子たちと一緒に歳をとっていきたい。大きくなる姿が見たい。
里穂のランドセル姿が見たい。智己が公園を走るところを見たい。いつもはうるさくてかなわないって思っているけど、
本当はまだまだお話ししたい。頭を撫でたい。抱っこしたい。まだまだ私は時間が欲しい。
神様、どうか私にあの子たちを守らせてください)
 ピンポーン。ドアフォンが鳴り、里穂が鍵を開けに行く。賢い子、と夏実はぼんやり思う。
両親が慌てて中に入ってくる。父親が救急車を呼んでいた。母親が手を握ってくる。
意識を失いかけた時に、向日葵さんの(一人で泣かないで)という声が聞こえた気がした。
          ※
 病院で点滴を打たれながら、夏実はぼんやりと目を覚ました。枕元には隆行が座っていた。
「大丈夫か?」
「ありがとう。仕事は?」
「大丈夫だよ」
「里穂と智己は?」
「お義母さんたちが見てくれている」
「良かった」
 医師は、原因は分からないが、運ばれてきたときに比べて、血圧も心拍数も安定しているので、
帰宅しても大丈夫だろうと話してくれた。夏実はゆっくりと身体を起こし「生きてる」と掌を見つめた。
「立てるか?車、止めてあるから」
 夜間で会計は閉まっていたので、翌日以降支払いにくることになり、夏実は隆行に支えられながら病院の外に出た。
曇り空に月がかすんで見えた。


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