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作品名:向日葵とサマー 作者:水星

第8回 向日葵
返信遅れてごめんなさい。向日葵と申します。私の書き込みを読んでそんな風に感じてくれたこと、とても嬉しく思います!
そうなんです。私は生まれてきたこと、後悔していません。この病気のために辛いこともたくさんありました。
大学病院で診察のため、裸にされて写真を撮られることもありました。身体中にある痣をからかわれることもありました。
でもね、家族は私のことをとっても大切に育ててくれたんです。
痣を気にする私に、びっくりするくらい可愛い水着を買ってくれて、本当によく似合うねって言ってくれました。
大好きだよ、可愛いよって、いつでも言ってくれました。だから、息子さんにも、たくさん大好きだよって言ってあげてください。)
 夏実は嬉しくなり、すぐに返事を書いた。
(お返事ありがとうございます。良かった!暗い書き込みばかりを見て、生きる希望をなくしていました。
こんな病気を背負わせてしまって息子に申し訳ない、この先も暗い人生しか待ってないだろうと考え込んでいました。
綺麗ごとを言っていても、結局、健常なのが一番って思っている自分の器の小ささにも嫌気がさしてました。
向日葵さんは私にとって光です。)
(サマーさん、光だなんて恥ずかしいです。でもこの病気で苦しんでいる方がたくさんいるのは事実です。
でも、この病気だからこそ出会えた人もいます。サマーさんもそうです。サマーさんはどちらにお住まいですか?
近ければお会い出来たらいいなあ)
(西日本です。向日葵さんはどちらですか?まだ一度も、同じ病気の方に出会ったことがないので、私もお会いしたいです)
(私は東北の方です。正反対ですね。残念。小さいお子さん連れて遠出は難しいですよね。
息子さんが大きくなったら会えるかしら?でも、私の方が無理かも……)
(残念です。息子はまだ生後三か月ほどなんです。向日葵さんのほうが無理かもってことはお仕事とかお忙しいのでしょうか?)
(いいえ。仕事はしてなくて、ただの主婦なんですけど……実は、レックの腫瘍が悪性化して、余命宣告を受けているんです。
でもね、余命三年って言われてから、五年も生きているんですよ。たくさんの方との出会いが私を支えてくださって、
最先端の医療なども受けられました。きっと息子さんが大きくなるまで生きています。そんな気しかしません!)
 明るい口調で書かれたメッセージだったが、夏実は雷に打たれたように凍り付いた。余命?せっかく出会えたのに。
(ごめんなさい。ショックで返信が遅くなりました。やはり怖いのですね、この病気は)
(サマーさん、落ち込ませてしまってごめんなさい。でも、大丈夫。私、まだまだ頑張りますから。
サマーさん、一人で泣いたりしないでください。辛いことがあれば、私に話してください。出会ったばかりだけど、
私はサマーさんを友達だと思っています)
 夏実は一人で泣かないでくださいという言葉を読んで涙があふれてきた。今まで夏実の周りに、彼女のような人がいただろうか。
自分の方が苦しいのに、自分の方がしんどいはずなのに、他人の心配をしている。
(向日葵さん。私も、向日葵さんのことを大切なお友達だと思っています。向日葵さん、こんなことを聞いてごめんなさい。
人は、なぜ生きるのでしょうか?私は智己が生まれてから、そんなことばかり考えて堂々めぐりをしています。)
(人はなぜ生きるのか……サマーさんは哲学者ですね。サマーさんのそういうところ、私は好きです。
私がなぜ生きるのか、私を必要としてくれる人がいるからかな。子供はいないのですが旦那がいます。
この病気のことを分かってくれて、私を受け止めてくれた人です。
あの人が私を必要としてくれているから……私は生きていると思います)
(私も、向日葵さんに生きていてほしいです。人が生きるのは自分のためだけではないのですね。
必要としてくれる誰かのためなのですね。)
 その後も向日葵さんとは様々な話をした。年齢が意外と近いことも分かり、小さい頃に見ていたアニメの話で盛り上がったりもした。
夏実自身、いつか、向日葵さんに会える日が来るのだろうとぼんやりと信じていた。その時、私は何を言うだろう。
向日葵さんはどんな風に笑うだろう。昔からの友達のように話せるだろうか。それとも緊張して上手く話せないかな。
向日葵さんはどんな顔をしているのだろう。お洒落が好きだと書いていたから、地味な私を見てがっかりしやしないだろうか。
あれこれと想像をめぐらして楽しんでいたが、半年ほどたったころに、恐れていたメッセージが飛び込んできた。
(サマーさん、実は、来週から再び入院することになりました。肺に転移した腫瘍が再び暴れ始めたようです。
治療には抗癌剤を使います。幻覚や幻聴を見るかもしれなくて、ちょっとだけ怖い気持ちもあります。
でも、私は生き続ける気持ちしかしていません。入院中も、時々ならメッセージを見られると思うので、良かったら連絡くださいね。
がんばってきます!)
 明るく締めくくられたメッセージに夏美はなんと返したら良いのかわからず、
(辛いと思いますが、頑張ってください。お元気になって退院されることを祈っています。)と返信した。
だが、夏実の心には抗癌剤という言葉や幻覚という単語が生々しく刻まれ、恐怖のあまり吐き気を感じた。
向日葵さんの姿に智己を重ねてしまったのかもしれない。
夏実は、向日葵さんに激励のメッセージをと思いながら、何も送ることが出来なかった。


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