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作品名:向日葵とサマー 作者:水星

第6回 決意
難病情報センターのサイトには、こう説明があった。
 神経線維腫症一型(レックリングハウゼン病)はカフェ・オ・レ斑、神経線維腫という特徴的な皮膚病変を主徴とし、
そのほか、骨、眼、神経系、副腎、消化管など様々な臓器に多彩な病変を生じる母斑症であり、常染色体優性の遺伝性疾患である。
出生約三千人に一人の割合で生じ、本邦の患者数は約四万人である。
遺伝性の疾患であるが、患者の半数以上は弧発例(突然変異)である。
 夏実が最初に思ったのは(お年玉年賀はがきも切手シートしか当たらない自分がなぜこんな確率のものに当たったのだろう)だった。
人間パニックになると冷静な判断力を失う。難病情報センターのサイトに書かれている内容は何度読んでも、
具体的にどうなるかがさっぱり分からなかった。
おそらく、智己の身体に出来ている茶痣、これをカフェオレ斑と呼ぶのだろうとは推測がついたもののあとは何がなんだか分からない。
手当たり次第にサイトを調べていくと、二チャンネルの書き込みに目が釘付けになった。
 もう死にたい。こんな身体に生んだ親を怨むと書かれているものが目に止まった。
 夏実は全身を氷の刃で貫かれたように感じた。智己も、大きくなった時にこんな風に思うのだろうか。
死にたくなるほど辛い病気なのか?夏実はベッドですやすやと眠る智己を見つめると涙があふれだしてきた。
こんなに可愛いのに。こんなに幸せそうなのに。いつか死にたいなんて言うのだろうか。
それなら、今、駅前の踏切に親子で飛び込んだほうが幸せなのかもしれない。
夏実はずっしりと肩にのしかかるものに耐えかねる気持ちになっていた。
 ベビーベッドのそばに行くと、畳にぺたりと座り込んだ。
 そこは音のない静かな世界だった。(ああこれが絶望と言うのだわ)深い、深い海の底にいるような静かで暗い感覚。
痛みが強すぎて何も感じなくなってしまったようだった。胸の当たりが重たいのに、声をあげて泣くことも出来ない。
いっそ泣いてしまえたらいいのに。
 その時、智己の足が宙を蹴りだすように動いて、ふぎゃああああと大きな泣き声を上げ始めた。
(足の動きがカエルさんみたい)夏実は微笑した。
(この子の周りだけ、暖かく輝いている。)まるでスポットライトに照らされているかのように、智己の周りがほんのりと明るく見えた。
(これが命というものなのだわ。)夏実は智己の足を撫でると、決心した。
(もしも、この子が大人になって、あの二チャンネルの書き込みを書いた人のように死にたいと言って来たら、
その時、私はこの子と一緒に踏切に飛び込もう。それまでは、生きるんだ。生きてこの世界を見せてあげるんだ。
死ぬのはそれからでもいい。


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