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作品名:北の大地で自由を謳歌する 作者:ぷーでる

第3回 加代の入水
 それから、何日かした。

 英俊は、ちょっとふてくされながら青空の下で
 長良川の土手を歩いていく。近くには、鵜飼い屋が並んでいた。
 その屋根には、鵜の形をした瓦屋根が付いている。

 ふっと、顔をあげると、
    上品な着物を着た娘が目に入った。年は、16〜17位か。
       
 土手に腰かけ、長良川の清らかな流れを
         見つめていた。何だか悲しげだ。
 
 「加代さん?」
 「あら、やだ、英ちゃん、いつから見ていたの?」
 
 「今、さっき」
 「他には、誰も見てないわよね?」
 
 加代は、辺りを見回した。
 とりあえず、周りには誰もいない様だ。
 
 「ところで、何でそんな悲し気な顔をしているんだい?」
 「実は、お見合い結婚が決まったの」
 「そうなんですか……」

  英俊は、ガックリ肩を落とした。

 「仕方がないわ……」
  加代は、そう呟くと、すくっと、土手から立ち上がった。

 「え?」
 英俊は、加代の突然の行動に目を見張る。
 
 加代は、何を思ったか下駄を揃えて脱いだかと思えば
 長良川に向かって歩きだした。
 
 どんどん進み、とうとう水の中へ足が入る―
 それでも、止まらない。
 
 「さよなら、英ちゃん……」
 「ちょっと、待った〜!」
 
 英俊が、慌てて追いかけ自分も
 川に飛び込んで、加代の腕をつかんで止めた。

 「何を、しているんだ?」
 「猪ヅラの男と、結婚する位なら死んだ方がマシよ!」

  加代は、感極まった顔で叫ぶ。

 「死ぬ勇気があるなら、俺についてこい」
  英俊も、思わず叫んでしまった。

 「ええ?」
  加代は、驚く。

 「西洋では、好きな人同士で
  結婚するという。日本は、遅れているのだ。
       
       家を継げとかしきたりがなんとやらなんて、
                  文明開化の国がする事じゃないだろ?」
 
  英俊は、イラッとした顔をした。

 「でも、家族に迷惑をかけるわ」

 「何が迷惑なのさ?好きな事をして輝いた方が、
        よっぽど世の中の為になるじゃないか!
              好きでもない人と結婚するのが嫌で
                      死ぬ方がよっぽど迷惑さ!」

  「そうね、そうよね。私、どうかしていたわ。
       あんなブサイクな奴の為に死ぬなんて。でも、どうするの?」

 「とりあえず、川からあがる事だな」
  二人は、川から一旦、あがって土手に戻る。

 「ごめんなさい、濡れちゃったね」
 「俺は、別にいいよ」

 「ところで、どうすればいいの?」

 「俺は、北海道へ行こうと思っている。
         オヤジの跡継ぎなんてごめんだ、
                一緒についてきてほしいんだ」
 「呉服屋が嫌なの?」
  加代が英俊の目を見つめる。

 「呉服屋自体は、嫌じゃない。ただ、人間関係が煩わしいんだよ」
  英俊が、うんざりした顔をする。

 ここにいれば、近いうちに
 消防団とかという面倒くさい関係も始まるのだ。

 洪水も多発するせいか、自然と人同士の結びつきが
 強くなっており、責任重視で荷が重すぎる。

 「英ちゃんのお父さん、責任感強いから辛いよね……」
 
 加代は、いつも父親のせいで英俊が
 責任重大な役回りをされている事に胸を痛めていた。

 「でも、知らない土地へ行って何をするの?
         ただ、行くだけでは、のたれ死んでしまうだけかもしれないのよ!」

 加代が心配そうな顔をする。風が吹いて
        頭に結んである赤い、リボンがなびいた。

 「ふ、それは心配無用だ。この小判を視ろ、何処で獲れた金だと思う?」
  英俊が、小判を取り出し見せた。

  「佐渡かしら?」
   加代が小首をかしげる。

 「恐らく、北海道だ」
  英俊が、自信ありげに答えた。

 「え、どうして?そんな事が言えるの?」
  加代は、驚いた顔。

 「江戸幕府は、蝦夷の金鉱に力を入れていたというー
      朝鮮や欧羅巴に金を輸出して財政力をつけたー
         日光東照宮にも、その金が使われているそうだ」

 英俊は、うきうきしながら答えた。

 「今も、北海道で金が獲れるの?」
 「だから行くのさ。さあ加代さん、どうする?」

 しばらく、二人の間に沈黙が続いてー

 「そうね……私……あなたについて行きたい」
  加代は、決心した様に言った。ところが、その時になって……

 「お嬢様〜」
 向こうから、九条家のお手伝いさんらしき人が駆け寄ってくる。

 「大変、見つかったら怒られるわ!隠れて!」
  英俊は、加代に言われて、外敵に追われる兎の様に、慌てて岩陰に隠れた。

 「お嬢様、早く帰りましょう」
  お手伝いさんが、加代の前で息を切らしていた。

 「ええ、そうね」
 「もうすぐ祝言の準備が、ございますのよ」
  お手伝いさんと、加代は、二人そろって去って行った。
 
 二人が去ると、英俊は岩陰から出てきて―
        ―俺に、ついてくるんじゃなかったのか?―

  空は、日が傾き始め夕暮れにさしかかっていた。
          英俊は、ぼうっとなりながらも家路へと急ぐ。


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