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作品名:北の大地で自由を謳歌する 作者:ぷーでる

第11回 珍入男
二人は、上野駅のホームにいた。

「今日は、上野から高崎線で、熊谷まで直行するぞ」
「え?じゃぁ、熊谷でまた乗り換え?」

「そうだよ」
「はあ〜、大変だわ〜」

二人は、停車する汽車へ向かう。

「ここから先は、時間がかかる。おまけに
殺人沙汰に混む。だから席は1等席にした」

英俊が、一等席の切符を見せた。

「3等席では、ロクでもない客ばかりが集まるからな」
英俊は、嫁連れなので心配らしい。

二人は、1等の席についたー
今までの席と違って、座り心地もいい気がする。
何だか、暑いので車窓を開けて風を入れた。

「おー、間に合った、間に合った!ここ、開いているで!」

男の声がしたかと思うと、
開いた車窓から男の顔が
ぬっと入ってきた。

 「ははは……お似合いの若夫婦や、わしもご一緒に……」
  男は、車窓に頭から、続けて肩まで入ってきた。

  英俊と加代は、突然の男の珍入に驚いてのけぞる。
  男は、お構いなしに空いている席に手を付いて入って来た。

 「あほ、窓から入ってくるな!」

 業を煮やした、英俊が履いていた下駄を脱いで
 珍入者のおでこを下駄で殴った。

 「痛てぇ!」
  珍入者が、手で頭を押さえる。

 「出て行け!」
  英俊が、珍入者を睨む。

 「ちっ!」
 珍入者は、渋々引っ込んだ。

 その時、『上野発、高崎行き、ただいま発車します』と、声がして笛が鳴った。
 次に汽笛が豪快に鳴る。汽車が、煙を吐きゆっくり動き出したー

 「あ、あかん、待ってくれや〜!」
  ホームに取り残された、珍入者が慌てて汽車を追いかけた。

 しかし、追いつく事は出来ず、どんどん汽車は追い抜いていった。
 そして、とうとうホームの端まで来て男は転ぶ。
 最後に、コケて、脱げた下駄が落ちてきて頭に当たりまたコケた。

 「おーい……」
  珍入者の哀れな声と姿は、どんどん小さくなって、やがて見えなくなった。
 
 「あ〜驚いた」
  加代が、ほっとして胸を撫で下ろしつつ、ぷぷっと可笑しそうに笑った。

   「やれやれ、1等席でも油断できないな」
    英俊は、苦笑いする。

  そこへ、赤ん坊を抱いた夫婦が「もしもし、隣の席は、空いていますか?」と
  声をかけてきた。

 「あ、どうぞ……」
  英俊が、返事をする。

 「失礼しますね」と言って、赤ん坊を連れた二人が向かい合う席につく。

 「お二人さん、お若いですね〜何処まで行かれるんですか?」
 赤ん坊を連れた、母親が微笑んで訊く。

 「俺達、北海道へ行く所なんです」
  英俊が、自慢げに答えた。

 「ほー、そりゃまたずいぶんと、遠い所まで!
  実は、私の兄も樺太で仕事をしていましてね……」

 赤ん坊の父親が、嬉しそうに話す。

 「凄い!もっと、遠い所にいるじゃないですか!」
  英俊が感心する。

 「ええ、だから、なかなか会えないんですよ」と、赤ん坊の父親。
 「私達は、これから熊谷に帰るところでして」と、赤ん坊の母親。

 「へえ、何しに東京へ来ていたんですか?」
  英俊が、思わず聞く。

 「銀座で買い物をしていたのよ」
 赤ん坊の母親が微笑む。新製品のベビー用品やアクセサリーを探していたそうだ。

 「熊谷じゃ、間に合わせくらいしかありませんからねぇ」と
  赤ん坊の父親。

  そんな風に談笑しているうちに、汽車は熊谷に着いた。
  英俊と加代が汽車を下車すると、入れ替わりにスーツ姿の男性が
 乗車してきた。恐らく、紡績会社の人だろうー


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