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作品名:改 1 シンラ 作者:ぷーでる

第17回 窮鼠サマ

 シンラは、用が済んでトイレを出て歩き出した―
 
 

 どすんっ……(誰かにぶつかった音)
 
 
 「あ、失礼しました」
  シンラは、慌ててその人に向かって頭を下げた。
 

 「坊、久しぶりだな―」と地獄の底から聞こえてくる様な低い声。
 

 シンラが、恐る恐る顔をあげると目の前には
          トレンチコートを着た、大男がいる。
 
 

 頭にはシルクハット、口の周りは板垣退助みたいな
               ヒゲをモサッと生やしていた。
 
 「ふぁっ?きゅ窮鼠サマ!」
 シンラは、思わず血の気が引いた。
 
 よくよく見れば、袖からは毛深い手首が出ている。
                紛れもなく、ネズミの手首。


 「坊―じゃなかった。シンラか……人間から名をもらったせいで
  心を持ってしまったの」
 
 
 窮鼠は、青年姿のシンラをマジマジ見つめブツブツ言う。
 
 
 「すみません―」とシンラは、謝る。
 
 「おまえは、ワシの元で大妖怪になる修行をしておったのに」
 
 「あ、あの……」シンラは、声がどもる。
 
 

 「人間が嫌いだったのであろう?それなのに……
        今では、飼い馴らされて芸までする始末だ」
 
 
  窮鼠は、不満げな顔だ。
 
 

 「嫌いだけど、いい人もいる」
  シンラは、複雑な気分だがそう答えた。
 
 

 「飼い馴らされたおまえは、子孫を残そうとする本能すら失った」
 
  窮鼠が、シンラの髪留めの部分を視ている。
       この動物は、人間が所有していますとの証であるというのだ。
 
 「‥・・・」
 
 シンラは、そういわれてみれば、
        最近恋すらしてない事に気付いた―
 


 ただひたすら、ヒトの為に
       働き食べていく為に野生の自由を放棄した。
          しかし、今更野生に還っても野垂れ死にするのは
                         本人がよく分かっていた。
 


 「シンラは、心をもらって鬼神に変化した。
        気心(きしん)は、常に氣が転がる―
            善と悪の間を行き来して心が定まらないのだ。
                           結果永遠に思い悩む―」
 


 窮鼠は、それだけ言い残すと霧の様に消えた。
 


 シンラが我に還ると、
     誰もいなくなった公園の片隅で立ち尽くしている。
 

 「シンラ様、放心している場合じゃありませんよ!」
  左近が迎えに来て、シンラを引っ張って行く。


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