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作品名:褒 美 作者:異邦人

最終回 2
「松本勝です」
 「まつもとまさるさんね。仕事は村木リーダーに教えて貰って下さい。それから、これを明日にでも出して下さいね」
 身上書の書類を渡される。
 仲間と、気儘な生活を切り上げて、東京から帰ってから、一度も、フルネームを名乗ったことがない。
 世間を離れ、両親の介護一筋に、過ごしてきた。
 これから、松本勝自身のために働くのだと思うと、全身に気力が湧く。
 医務室の隣のケアステーションには、職員達は、入所者の所に行って、誰もいない。
 「昼食が遅くなって、お腹が空いたでしょう」
 村木さんがカレーライスを運んでくる。
 「栄養士さんが用意してあったの」
 テーブルの中程に、赤や白のバラの花が、大きな花ビンに飾ってある。
 ほのかな甘い香りが、鼻をくすぐる。
 「これから、一緒に働けるのね。嬉しいわ。あとで、母に逢ってね。母も、ここの利用者なの。認知症で、ほとんど、もの忘れをしているけれど、娘の私は覚えているの」
 村木さんは、カレーライスを食べながらいう。
 私は、もう、オールドミスでない。
 病人の母を抱え、施設で一生懸命働く婚期の遅れた私に、神様が褒美に、彼とめぐり逢わせて下さったのだわ。
 三十五歳の村木さんは、三十六歳にならないうちに結婚したい。
 一つでも若い年齢で、婚姻届を出したい、と思う女ごごろがいじらしい。
 アタックしてよかった!
 胸がとくめく・・・・
 食後のバナナを食べ終え、ふと、顔を上げる。
 自分をみつめている村木さんの、はにかんだ目と合う。
 この介護福祉士のリーダーは、自分に好意を持ってくれている。
 昨日、空腹で道端にうずくまっていた、自分を親切に家まで送ってくれた。
 長い間の介護疲れから、無気力になっていた自分に、優しくしてくれる村木さんに、心が動かされる。
 笑うと、一重の大きな目が細くなる村木さんが可愛い。
 「村木さん、自分とつきあってくれないか?」
 思わず口に出る。
 「村木さんなんっていわないで。私は恵美子というの。恵美子と呼んで・・・・ フフ・・・・」
 村木さんは、身体をよじらせて嬉しそうに笑う。
 「ハハ・・・・ では、恵美子さん、どうぞよろしく」
 恵美子さんの口許に、ついたカレーライスを指先で拭いてあげる。
 「あら!」
 恵美子さんは、スプーンを放り出す。
 手を差しのべる。
 今朝、食卓から落ちた割れた茶わんを、不吉だと、暗い気持ちになった。
 真二つに割れ、数が増えた事は、彼女との出会いを暗示していたのだ。
 自分の両手を、しっかり、握っている介護士は、妻に逃げられ、独りになった息子の行く末を案じた父と母からの褒美だと思う。
 「いいカップルが出来るな」
 施設長の言葉かよみがえる。

 神様からの褒美の彼と、両親からの褒美の彼女とが立ち上がる。
 手に持ったトレイの上の空の皿が、踊る。
 束の間の食事時間は終わる。
 さあ、仕事だ!
 二人の歩く足取りは軽い…


   新春のお慶びを
     申し上げます。
 
   読んで下さいまして
     誠に有難うございます。
    何時も勇気を頂きます。
    方に、厚く御礼申し上げます。
       有難う存じます。

    思えば、親、兄妹は勿論、
    夢を語り合った仲間達も、
    優しかった人達も、皆、逝き
    ました。
    砂粒よりもまだ、儚い自分が
    この世に生きた証しは、息子
    一家と娘達一家でしょうか。
    今、しみじみと思うことは、
    百歳近くなっても、教えて貰う
    ことが、尚も多いことです。
    余りにも無智な、自分が悔やま
    れ、残り少ない、一日、一日が
    愛おしいのです。

  読むご縁を下さいました  
  方々の限りないご多幸と
    ご健康をこころより
     お祈り申し上げます。
            合掌
         (31.1.8)


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