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作品名:奇跡 − 突然、寝たきりになった時、周囲の反応は − 作者:異邦人

第2回 2
 不死鳥の恋          
                             亀野利子

 朝の廊下は、学生達や職員の行き来が多く、騒がしい。 
 偶然の出会いだった。
 急ぎ足で、講義に使う資料に目を通していた。
 向こうも急いでいたのか、バッタリ、廊下の真ん中で、正面衝突をしてしまった。
 か細げな小柄な身体が倒れた。
 肩に掛けていたバックが外れ、中身が散乱した。
 「失礼しました。掴まって下さい」
 どこか打ったのか、起き上がれないでいる。
 慌てて、両手を差し伸べる。
 「済みません」
 素直に、手に縋って立ち上がった相手に、好感を持った。
 「怪我はありませんか」
 散らばった品を拾うのを手伝う。
 「大丈夫です」
 と、笑顔で答えて、
 「急ぎますので・・・・ご免なさい」
 と、行きかける。足元がふらついている。
 「後で、悪いところがありましたら、連絡下さい」
 スーツのうちポケットから、名刺入れを出す。
 「ご心配いりませんのに・・・・法学部の先生でいらっしゃいますのね」
 渡された講師の名刺を見ていう。
 黒いスカートに、白いブラウスの地味な服装だが、清楚な感じがする。
 「済みません。失礼します」
 名刺を丁寧に、バックに収めると、小走りに去った。
 時間が迫っている。
 足早に歩きながら、窓の外を見る。
 花壇の躑躅の群れが満開だ。
 白や紫の可憐な花に、気持ちが和ごむ・・・

 昼食の時間帯は、やはり、廊下は人の往来で、ざわざわしている。
 職員食堂に、向かって歩く。
 事務局の前で、足が止まった。
 中年女性と一緒に、見覚えのある白いブラウス姿のひとが出て来た。
 声を掛ける。
 「今朝は失礼。痛むところはありませんか」
 ビックリして、目を見張る。
 「有難うございます。大丈夫ですわ」 
 と、親指と人差し指で、マルを作り、ニッコリする。子供っぽい仕草に思わず笑った。
 「よかった。心配していたんです」
 待っている女性が、二人を見ている。
 「ご免なさい。さよなら」
 「さよなら」
 と、別れたが、お茶でも誘えばよかったと、心残りがした。

 夕方の五時は、まだ、空は明るい。
 早目に、帰り支度をする。
 キャンパスを通り抜け、裏門を出る。
 歩いて二十分程のところに、住まいのマンションがある。
 時々、寄る喫茶店の前を通りかかった。
 窓際のテーブルに、あのひとがいた。
 ためらわずに、店内に入った。いきなり、傍の椅子に腰掛ける。
 「二度あることは、三度あるといいますね。又、逢いましたね」
 「まあ! 余程、ご縁がありますのね」
 と、驚く。
 コーヒーを飲んでいる。
 コーヒーを注文する。
 「此処に、よくいらっしゃるのですか」
 「いいえ、今日、初めてですの」
 「初めて? じゃ、お逢い出来たのは奇遇ですね」
 用事がある友達と別れて、バスを待っているのだという。
 バスの停留所は、店の前だ。
 「先生は、何時もいらっしゃるのですか」
 朝、名刺を渡してあるので、身分を知っている。
 「雰囲気が好きで、時々来ます」
 明るい内装に、クラシックが流れ、落ち着く。
 「お友達と一緒でしたね」
 「はい、友達が、両親の介護で休職して、郷里に帰りますので、その代わりに、六ヶ月間、臨時で事務局の受付の仕事をすることになりましたの」
 今日は、初出勤だといった。
 「では、毎日、逢えますね」
 と、口が軽くなる。
 「本当に、不思議なご縁ですわ。何度もお目にかかるなんて・・・・」
 と、微笑む。
 いくつ位だろうか。友達は、五十歳以上に見えた。
 どう見ても、自分と同じ年齢位しか見えない。
 ゆるいウェーブの短い髪が、目鼻だちの整った顔によく似合っている。化粧は全くしていない。
 朝、散らばったバックの中身は、万年筆や、メモ帳などの文房具ばかりで、櫛以外は、化粧品が一つもなかったことを思い出す。
 全身が、しっとりして、品がある。
 既に、衝突した時から、このひとは、自分の心に刷り込まれていたのだろうか。
 すべてが好ましい。
 「一人暮らし?」
 無礼だと思ったが、気になる。
 「友達のアパートに居りますの」
 夫は、早く亡くなり、同居していた一人息子が、四国に転勤することになり、本当は息子一家と一緒に行くつもりだったが、友達に、半年だけだから、代わりを頼むといわれて、気楽な独り身なので、都内に残ることにしたのだと、打ち明けた。
 夫がいないと知ると安心する。自分も独身だ。
 だが、結婚している息子がいるとは、信じられない。
 「気を悪くなさらないで下さい。同じ年位?」
 自分は、三十歳半ばだという。
 「・・・・・・・」
 無言で首を振る。淋しい表情だ。
 「二、三歳上?」
 少し、間を置いて
 「お母様位の年ですわ」
 小さい声だが、ハッキリいう。
 母は六十歳に近い。意外だった。思いがけない返事に、じっと顔を見る。どんなに、意地悪く見ても、同じ年位しか見えない。
 「冗談でしょう。ハハ・・・」
 と、笑い飛ばす。 
 「年のことは、もう、おっしゃらないでね。折角、お親しくなったのですもの。失望なさったらお気の毒ですわ」
 と、顔を伏せた。
 プライベートは聞かないことにしよう。
 年齢の差の大きいことは、関係ない。
 初対面から惹かれたのだ。
 柔らかい優しい声が、胸に沁みる・・・・
 「ずっと前から、お知り合いだったみたい。何故か、変な気持ちですわ」

 初めのうちは、事務局に行った時に、受付で、立ち話をしたり、昼食を食堂で一緒にしたりした。
 人目が気になり出した頃、何時の間にか、外で逢うようになる。
 二人だけになっても、たわいもない話で終わるので、別れ際に、ものたりない思いがする。
 女性に臆病でない。
 人並に、女との交渉はあった。
 学生時代に、誘われば、女子大生と、深くつきあったことも、二、三ある。こちらから誘って平行線に終わっても、屈託なく友情がつづいた。
 明かるい、ものごとにこだわらない性格だ。唯、どれも、あっさりと別れている。
 教授の薦めで、大学に残ったが、女のことよりも、好きな勉強に集中した。
 教授の娘との結婚を、両方の親達が積極的に望んでいる。
 おとなしい内気な娘だが、不満はなかった。いずれ、結婚してもよいと思っていた。
 今は、違う。
 初めて逢った時から、意識したひとだ。
 心底から好きになっている。
 生涯を共に暮らしたい。
 どうして、踏み込んだ話が出来ないのか。
 「若く見えるのと、若いとは違いますわ。今が一番幸せなの」
 と、決まり文句で逃げてしまう。
 「住んでいるところを見たい」
 と、いっても、
 「友達のアパートに、一時、住んでいるだけですもの。お見せするようなお部屋でないわ」
 と、なかなか連れて行かない。
 ふと、疑問が湧く。
 「誰か、他の人と暮らしているの?」
 「まあ!」
 と、絶句する。
 「ひどいことをおっしゃるのね。じゃこれから来て下さる?」
 その日は、勤務が終わっていた。
 バスの停留所で、待ち合わせる。
 大学前から、バスで、小一時間程の住宅街にアパートがあった。
 居間に、甘い花の香りがする。
 至るところに、白や赤やピンクの薔薇が活けてある。
 「薔薇が好きなんだね」
 「お花は、なんでも好きですわ。薔薇は、明るくて元気が出るの」
 と、いいながら、甲斐甲斐しく、食事の支度をする。
 有り合わせで作ったチャーハンとスープで、夕食を済ませる。
 「結婚しよう。一緒に暮らしたい」
 と、両肩に掛けた手から、するりと抜けて、
 「結婚のお話はタブーよ。お逢いしている時が、一番幸せなの」
 と、冷たくいう。
 外が薄暗くなっている。
 陽は傾いている。
 どうして、気持ちを分かってくれないのか。腹立だしい。
 ぼんやり、テーブルの上の赤い薔薇を眺めるー

 ゼミが終わった頃、教授から呼ばれた。
 娘が来ている。
 「学会誌に発表した君の司法論文が、評価されているよ。私が、教授会で強く推薦したら、準教授は間違いない」
 と、上機嫌でいう。
 「これを機会に、そろそろ、結婚を考えたらどうかね。娘も来年は三十歳だ。今迄、いくつもあった縁談を断わっていたのは、どうも、君と結婚したいためらしいんだ」
 「パパったら、嫌だわ。そんなこと、ハッキリおっしゃっちゃ!」
 と、娘は、言葉と反対に嬉しそうに、父親を見て笑う。
 「この頃、めったに逢うことがなかったんだろう。食事でもしながら、ゆっくり、話をしたらいい」
 と、教授に促されて外に出た。
 何処に行く当てもない。都電を降りて繁華街をぶらぶら歩く。
 均斉のとれた長身は、自分に近い位、背丈がある。
 目についたレストランに入る。
 広い店内は、昼の時間が過ぎているせいか、客が少ない。
 向かい合ってテーブルに付く。
 フリルのついたピンクのワンピース姿は、四、五歳若く見える。二重の大きな目と、笑うとえくぼが出る。
 大学に入学した頃は、まだ、中学生だった。恥ずがし屋で、余り、人前に出ない娘だと、教授がいっていたが、自分が行くと、何時も、父親の傍で、じっとしている。
 「何か、食べたい物がある?」
 と、聞く。
 「なんでもいいです」
 と、いうので、肉料理のフルコースを頼む。一通り食べたあとに、コーヒーが運ばれてきた。
 「シュガー入れる?」
 「ううん」
 首を小さく振る。
 「ダイエットしているの?」
 太るから嫌だといって、ブラックで飲む女子大生が多い。
 「ふふ・・・・」 
 と、笑うとえくぼが出て可愛い。
 近頃、疎遠になっていても、面と向かえば、懐かしく感じる。
 甘いコーヒーを好む、あのひとを思う。
 逢いたい.今、直ぐにでも逢いたい。
 気持ちが落ち着かなくなる。
 話が途切れがちになるのをきっかけに、店を出る。
 タクシーを呼ぶ。
 「お母様に、よろしく伝えて下さい」
 「今度、家に遊びに来て下さいね」
 タクシーに乗りながら、真剣な顔でいう。
 「研究チームの方が忙しくてね。その内に、お伺いしますよ」
 久し振りに逢ったのだ。もう少し、相手になってやればよかったと、済まなく思う。
 バスを待ちながら、携帯にメールを入れる。
 アパートに帰っているはずだ。
 「逢いたい。出ておいでよ」
 すぐ、返事がくる。
 「今日はもう遅いですわ。明日を楽しみにしています」
 がっかりする。
 大抵、はい、といわない。又ねという。
 本当に、冷たいひとだ。

 教授の娘は、都心から離れた郊外の自宅に帰った。
 「楽しかった?」
 母親が聞く。
 「うん。楽しかったけれど、なんだか、ものたりなかったわ」
 「パパから電話があってね。準教授は間違いないそうよ。早く、結婚させたらいいと、いっていらしたけれどね」
 教授夫人は、娘の婚期の過ぎるのが、気がかりだった。
 おとなしい、引っ込み思案の娘が、長い間、慕っている相手と結婚させてやりたい。まして、願ったり、かなったりの前途有望な夫の教え子だ。
 好きな相手と添え遂げさせてやりたい。
 たった一人の娘だ。
 「パパとママに任せなさいね。きっと、あなたの望み通りにして上げるからね」 
 母親の言葉に、娘は安堵するが、
 「あの方、好きな人がいるのか知ら?」
 と、不安そうにいう。
 「どうして、そう思うの?」
 教授夫人は驚く。
 「私の方を向いているのに、目は、違うところを見ている気がしたの」
 「心配入りません。どんなことがあっても、パパとママは、必ず、結婚させて上げます」
 母親は、眉尻を上げて、きっぱりといった。

 暑かった夏も、ようやく、朝夕がしのぎやすくなったが、日中はまだ、かなり温度が高い。
 公園のベンチに、並んで腰掛ける。
 囲みの中に、薄桃色のコスモスの花が咲き乱れている。
 缶コーヒーを飲みながら、答えを待つ。
 「あなたは誤解なさっていらっしゃるわ。私は若くないんですもの。結婚など、考えたこともないわ」 
 冷たい缶を持ったままだ。
 「どうして、年齢のことばかり気にするの。結婚するのに、年なんか問題でない!」
 友達が、郷里から予定より早く帰っている。
 事務局の雇用期間も、残り少ない。
 一緒に暮らしたい。
 なんとしても、今日は確かな返事が欲しい。
 教授の妻から、頻繁にメールが入る。娘からも携帯がくる。
 「若い方と結婚して子供も生まれて、幸せな家庭を作って頂きたいの」
 「何度、いったら分かるんです! 君と結婚したいといっているんですよ。他の女と結婚しても、幸せでないんだ!」
 缶コーヒーを取り上げて、両手を握る。 
 決心して欲しい。障害があっても、乗り越える自信がある。
 最悪の場合は、大学を辞めればいいのだ。
 弁護士の資格がある。
 友人の法律事務所で働いてもいい。
 弁護士が過剰といわれていても、地方に行けば、まだまだ、需要がある。
 二人で暮らせるなら、何処へでも行く。
 「二十年、三十年先を考えると、悲しいんです。こうして、お逢いしている時が一番幸せですの」
 「先ことなんか、考える必要はない! どんなに年を取っても、守り抜く!」
 胸に引き寄せ、抱きしめる。
 散策の人達が、チラリと見て通る。
 人が見たってかまわない。
 「覚悟は出来ているんだ。新しい生活の準備をしよう」
 すべてを自分に任せて欲しいという。
 「本当に、私でいいのですか。後悔しない?」
 と、涙を目に浮かべている。
 「何を今更! どんなに姿形が衰えても、一生、離さない!」
 先行きの困難は分かっている。
 負けるものか。このひとを決して、世間の物笑いにしない。あんな女と一緒になったから、駄目になったとはいわさない。
 あの女性と結婚したから、法曹界で名前が通っているのだと、きっと、いわせて見せる。
 生来の負けん気が頭を持ち上げる。
 ハンデがあると、一層、闘志が強くなる。

 結婚の相手が、教授の娘でないと知ると、皆、黙ってしまった。
 居間に集まった家族の前に、頭を下げる。
 「勉強はつづけます。先生には申し訳ないと思います。でも、一生の問題です。お父さんも、母さんも、姉さんも、妹も、結婚を認めて欲しいのです」
 「何処で知り合ったのだ」
 「大学の事務局の臨時職員です」
 「幾つだ」
 「母さん位だといっています」
 父は呆れる。
 「お願いです。思う通りにさせて下さい」
 「若い時の恋愛は儚いものだ。お父さんにも経験がある。今では顔さえ覚えていない。母さんとは見合い結婚だが、子供が生まれ、長い間、一緒に暮らしていると、夫婦として特別な愛情が生まれるものだ。この頃は、母さんは唯一のパートナーだ。ハハ・・・・」
 目は笑っていない。
 「母親程の人に惹かれたなんて、呆れてものも云えないわね」
 不愉快そうに、姉がいう。
 「大学に、若い女性が沢山いるのに、よりによって、年取った人を好きになるんって、理解出来ないわ」
 妹は、頬を膨らませて怒る。
 姉妹は、結婚して子供もいる。それぞれ、似合いの夫と無難に暮らしている。
 長男の予想外の結婚話に、呼ばれたのだ。
 「駄目だ! お前を見損なった。親不孝者! 教授になんと申し開きをするのだ」
 いくら嘆願しても、父はかぶりを振る。
 「先生に、よく事情を話します。お嬢さんには、縁がなかったと謝ります」
 「謝って済むことか! 三十近く迄、お前との結婚を待っているんだぞ、申し訳ないと思わないのか」
 自慢の息子だった。
 在学中に、司法試験に合格して、弁護士の資格を取っている。三十歳代で、博士論文にも取りかかっている。
 小さい会社の経営だが、三人の子供に大学を卒業させた。
 特に、学問に精進している息子に、大きな期待を寄せた。会社の後継者に、姉娘の夫に決めて、運営に参加させているのも、息子に思う存分、勉強させたいためだ。
 有力な教授に見込まれて、娘婿にと望まれている。
 出世に、バックアップしてくれているのだ。
 「絶対に許さん。どうしても、その年上の女と一緒になるというなら、親子の縁を切る!」
 父の怒りに、今迄、黙っていた母が、
 「落ち着いて下さい。今日はこれま迄にして、休んで下さいな」
 と、仲に入った。
 父は、見向きもせず、足音荒く寝室に行く。
 「私達も帰るわ。頭を冷してよく考えなさいね」
 と、姉は、傍らの電話台からメモ用紙を取る。
 「これが、姉さんの忠告よ」
 弟に、メモを渡す。
 「お母さん、ひと先ず、私達帰るわね」
 と、妹に目配りをする。
 「お兄さん、冷静に行動してね」
 妹も、姉の後から帰る。
 メモには、
   一瞬の思いに迷わされず
     前に進みなさい  
 と、走り書きがしてあった。
 母が残る。
 「あなたがどうしても、そのひとと結婚したいというなら、仕方ないわね。母さんは賛成して上げるわ」
 「有難う。母さんだけが味方だ。嬉しいよ」
 何時も優しく、心遣いをしてくれる母親だ。結婚したら、今以上に学問に励んで、両親を安心させたい。
 「どんなひとかね。母さんと同じ年齢位なら、話があうでしょうね」
 息子をこれ程迄、熱中させる相手に逢ってみたい。
 子供の頃から勉強が好きだった。正義感の強い、前向きにものごとを考える子だった。
 よく気が付く、誰とも親しくなる明るい性格だ。友達も多くいる。
 それが、女のことで、これ程、親を落胆させるとは、夢にも思わなかったことだ。
 「あなたの悲しい顔を見たくない。お父さんや、姉さんや妹に、よく、母さんから話するからね」
 これから、゛とうするのという母親に、
 「暫く様子をみていて下さい。落ち着いたら知らせるからね。それ迄、そっとして置いてよ」
 と、いう。
 「分かったわ。口座にまとまったお金を振り込んで上げるから、何かに用立てなさい」
 「大丈夫です。金は、手許に少し持っているからね。心配しないで」
 母の暖かい思いやりに、辛くなるー

 近所のスーパーに、自転車を走らせる。
 先に、花のコーナーに行く。
 どんな花でも好きだといっていた。
 手当たり次第、花を取る。特に、薔薇を多量に抱え込む。
 大きな花瓶を買う。
 酒のコーナーに行く。
 甘いワインなら、飲めるといった。
 甘いワインを買う。
 ビールは、買い置きがある。酒は、学生の親から送ってきた。日本酒が箱に入ったままある。
 今日の二人だけの結婚のために、シャンパンを購入する。
 食料品売場で、つまみ物や握りすしなど、すぐ食べられる物を片っぱしから籠に入れる。

 正午迄に、行くといった。
 花を花瓶に入れ、余ったのは適当な器を出して投げ入れる。
 薔薇は、ひとまとめにしてガラスの大きな食器に盛り、テーブルの真ん中に置く。
 シャンパンを冷やす。
 食べ物を全部、テーブルの上に並べる。 
 時計を見る。
 十二時だ。
 遅いな。だが、友達のところを引き払って、この部屋に移るのだ。
 身の回りの物しか、荷物はないといっても、いろいろと、後始末がある。
 友達と、別れを惜しんでいるのだ。
 遅い! それにしても遅い!
 時計は一時半だ。
 携帯の電源を切ってある。
 「どうしたのだろう? なにがあったのか」
 気が気でない。
 タクシーを呼ぶ。
 友達が出た。
 「朝早く出ました。ご存じなかったのですか。息子さんのところに行ったのですけれど」
 友達のアパートを無我夢中で飛び出す。
 自宅に、何処をどうやって戻ったのか!
 「何故、苦しめる! 結婚すると固く約束したんだ! 今日からこのマンションで、ひとまず生活して、今後の方針を考えようと、誓ったはずだ」
 連絡する方法がない。
 どうすることも出来ない。
 「結婚を考えたことがないわ。逢っている時が、一番、幸せなの」
 繰り返された言葉が甦った。
 やっと、気付いた。
 あのひとは、自分の幸せを願って、身を引いたのだ。
 「若い方と結婚して、子供も生まれて、幸せな家庭を作って頂きたいの」
 と、いった。
 「二十年、三十年先のことを思うと悲しい」
 と、いった。
 「若く見えるのと、若いのとは違うわ」
 と、いった。
 女は、これ程迄にも年齢にこだわるものなのか、年の差など、一度も気にしたことがなかった。
 好きなら、共に暮らしたいのが、真実ではないか!
外は暮れかけている。
 部屋の中が、薄暗くなっている。
 「別れたくない。離したくないんだ。戻って来て欲しい。お願いだ!」
 嵐が、心の中で荒れ狂っている。
 じっとしていられない。
 一升瓶を箱から取り出す。
 コップに、溢れる迄注ぐ
 「どうしたら戻ってくるだろうか」
 初めは、唇をしめらす程度の飲み方だった。酒は、特に好きでないが、飲めば強い方だ。知らぬまに、ぐいぐい、あおっている。
 諦める事が出来ない。初めて心から好きになったひとだ。
 逢いたい。何処にいるのだ。
 友達は、息子のところに行ったといった。
 息子は、何処に住んでいる?
 つまみも口にせず、酒を空腹に流しつづける。
 逢いたい! 連れ戻した!
 何処にいるのだー 思いは、頭の中で、くるくる回る。
 思考力がなくなっていくうちにも、耳だけは意識がある。
 玄関のチャイムが鳴るのに、神経を集めている。
 「思い直して戻って欲しい。帰って下さい。お願いだ!」
 よろめきながら、又、一升瓶を箱から出す。
 この苦しい気持ちを、どうしたらいいのだ!
 酒をあおりつづける。
 両耳だけが正気だ!

 チャイムが鳴った。
 確かに、玄関のチャイムが鳴った。
 耳に、ハッキリ聞こえた。
 「あのひとが来たのだ!」
 歓喜の涙が頬に伝わる。
 よろめきながら、ドアを開ける。
 立っている!
恋しいひとが、笑みをいっぱい浮べて立っている。
 「離さない、離すものか!」
 ふらふらと、倒れそうになる。
 だが、学生の頃、ラグビー部で鍛えた身体だ。力がある、
 「待っていたんだ! もう、何処にもやらない!」
 しっかり抱いて、這うように、寝室に入る。ベットに下ろしたあのひとの身体に、むしゃぶりつく。
 しゃにむに、おいかぶさる。
 「離さない。何処にもやらない!」

 こめかみが、づきづき痛む。
 水を飲みたい。
 起きたがろうとするが、身体が重くて自由にならない。
 ドアを開けて、入ってきたひとを見て、呆然とする。
 「目が覚めたのね。お水を持ってきたわ」
 お盆をサイドテーブルに置く。
 コップの水を一息に飲み干す。
 「何時来たの?」
 「昨夜よ」
 教授の娘は、恥ずかし気に下を向く。
 「此処に泊まったの?」
 「はい」
 
 顔を上げる。
 「何処に寝たの?」
 「此処よ」
 娘は、決然とベットを指差す。
 日頃のおとなしい内気な姿はない。
 「このベットに!」
 自分が抱いたのは? 教授の娘だったのか! 
 娘は、しくしく泣き出す。
 「結婚して下さるわね」 
 「・・・・・ ・・・・」
 パジャマを着ている自分に気付く。
 頭を抱える。
 狂ったように抱いてベットに運んだ。
 むしゃぶりついて、しやにむに身体におおいかぶさったことは覚えている。
 そのあとは・・・ そのあとは全く思い出さないー
 教授の娘は、泣きながら結婚してくれという。
 では、あのひとと勘違いして、教授の娘を自由にしたのだろうか?
 「独りになりたい。今日は帰って下さい。責任は取ります」
 枕に、俯せになる。
 「本当に、結婚して下さいね」
 教授の娘は、たちまち、笑顔になる 
 「食事の用意をしてありますから、後で召し上がってね。では、失礼します」
 娘は、嬉しそうに帰った。

 「彼のところに、泊まったのかね」
 教授は、静かに聞く。
 初めて、外泊した娘を咎めるふうもない。
 「ママから、パパが一週間も休暇をとったそうだから、身体の調子でも悪いのか、様子を見にやった方がいいと、メールがあったと携帯で知らせてくれたの」
 手芸教室に通っている。
 帰り際だった。
 外は、とっぷり暮れていたが、タクシーでマンションに駆けつけた。
 泥酔姿で迎えたという。
 「同じベットで寝たの?」
 教授夫人は、露骨に聞く。
 「ううん」
 娘は、強く首を振る。
 「じゃ、なんでもなかったの」
 「うん、でも、誤解して、責任は取るといってくれたわ」
 教授夫妻は、顔を見合わせる。
 「好きなひとがいたと思うわ。そのひとを待っていたらしいの」
 居間のテーブルに、ワインや、シャンパン迄用意してあった。
 「離さない。何処にもやらない!」
 と、いって、娘を抱えて、ベットに倒れ込んだという。
 「パパ、ママ、彼を他の人に渡したくなかったの」
 内気な娘が必死の思いで、偽った態度が、思わぬ方行に向かっている。
 「あなた、丁度、いい機会ですわ。結婚を急ぎましょう」
 好きな女がいたとは知らなかった。なんとしても、一人娘のいじらしい恋こころを叶えてやりたい。
 「他言は無用だ! いいかね。あく迄も過ちがあったことにするんだ。正義感が強い男だ。必ず、責任を取る。重大なことだからね。三人共、一生守るんだ!」
 教授夫妻は、左右から娘の手を握りしめる。

   エピローグ

 陽炎のように、消えたあのひと
 行く方を捜さなかった。
 教授の娘との間に、信じられない行為があった。
 良心が捜せなかったのだ。 
 一生忘れられないあのひと! 無念だ!

 縁談は、両家の間に急速に進んだ。
 教授の娘と結婚する。
 長年、慕ってくれた妻だ。妻の愛情に誠意でこたえた。
 孫が見たいという親達の願いに、男の子が生まれた。
 博士号も修得し、順調に準教授から教授に昇任する。
 公私共にバックアップしてくれた義父は、大学を定年退職後、早く亡くなったが、最後迄、娘を頼むといった。
 義母は健在だ。妻の希望で同居している。両親も既に逝った、父は生前
 「お前に感謝している。よく頑張った。やっぱり自慢の息子だ」
 と、喜こんだ。
 唯一の理解者の母も、先年亡くなった。
 「お父さんに、親孝行してくれて有難う。あなたの心の中を、一番知っているのは母さんよ。辛いだろうけれど、これも運命だと思ってむ、夫婦仲良く暮してね」
 手を取って、泣いてくれた母・・・・
 姉と妹も、わだかまりなく付き合っている。
 妻は、姉妹とは大の仲好しだ。
 一人息子は、同じ法律を学び、結婚して、出身大学からアメリカの大学に研修留学をしている。
 今年は、大学を定年退職をする。
 私立大学から、破格の待遇で再就職がきまっている。
 初老といわれる年齢になって、心に空虚さを感じる。
 忘れることのなかった、若き日の思いは、この頃、特に強く心を揺さぶるー

 珍しい来客があった。
 昔の教え子で、親元が老舗の酒造会社を経営している。毎年、銘酒を贈ってくる。
 酒といえば、ほろ苦い出来ごとを思い出す。妻と結婚する切っ掛けになったのも、泥酔の結果だ。
 今は、親の後を継いで社長になっている。
 大学でよく使う小料理店で、久し振りに酒を酌み交わす。
 「実は・・・・」
 と、いって、飲む半ばで、教え子が云い出した。
 「先生に、ぜひ、私どもの大学に来て頂きたいと思って、わざわざ、上京したのです」
 と、いう。
 その時、運命というべきか、縁というべきか、脳裏に閃いた。
 忘れることの出来なかったあのひとのいる市だ!
 「ぜひ、うちの大学に来て頂きたいのです。美しい石垣のあるお城が市民の誇りの土地です」
 県庁の所在地の市にある私立大学という。
 知名度の高い司法学者の先生を、ぜひ、招請したいという。
 教え子は、大学の理事をしている。
 懐かしいあのひとが、断わりなく姿を消した時、事務局に復職した友達に尋ねた。
 「四国の玄関口の県庁の所在地だそうです。ハッキリ、教えてくれなかったのですが、美しい石垣のお城のある城下町だといっていました」
 礼状の葉書がきたが、住所は書いていなかったという。
 音信も、それっきり、途絶えているといった。
 今迄、空を見上げる度に、この空は、あのひとの住む四国の城下町につづいているのだと、懐かしい思いで眺めていた。
 その土地に、いまも住んでいるのなら、同じ空を見ることが出来る。
 迷わずいう。
 「行ってもいい、地方に行って、のんびりするのもいいね」
 言葉と裏腹に、心の中は、これからは自分のために生きたい。
 あのひとを探すのだ。

 妻は、意外にも四国行きに、賛成した。
 「学問ばかりの生活でしたもの。ゆっくり好きなようになさったらいいわ」
 妻の母親も、
 「私達によくして下さったのですから、これから、あなたの思うようにして下さいね」
 と、口を添える。
 夫婦だけになった時、
 「あちらで、どんな生活をなさっても、一切、何もいわないわ。唯、帰京したした際は、自宅に寄って下さいね。名前だけでも、あなたの妻でいたいの」
 と、妻は改まっていった。
 涙ぐんでいる。
 「おかしなことをいうね。公用以外は、頻繁に帰れないかも知れないが、我が家は忘れないよハハ・・・・」
 と、笑う。
 「有難う。一生、あなたの奥さんでいたいの」
 と、いって泣く妻が不思議だった。
 その時は、あのひとと同じ空を眺めることに、頭がいっぱいだった。
 必ず、捜し出す!
 心は既に、はるか西の彼方へ飛んでいるー

 妻は、夫が優しく親切にしてくれるのに、心が痛んだ。
 誤解とは知らず、男らしく責任を取った。
 好きな人がいたのに、いさぎよく結婚してくれた夫は、初恋の人だった。
 折角の好条件の大学を断わって、地方の大学に行きたいといった。
 定年を迎える夫に、心境の変化があったのだ。
 夫は、労って大切にしてくれる。
 けれど、時々、明るい笑いのあとに、ふっと、淋しい顔をすることがある。
 夫を愛しているから、幸せを願う。まだ、昔のひとを忘れずにいるなら、贖罪のためにも自由にして上げたい。
 四国行きに、活々しているのを見ると、やはり悲しい。
 何故、そのひとが去ったのか理由は分からないが、もし、今も、四国の城下町にいて、そのために、四国にいくことを決心したのだったら、会わせて上げたい。
 そのひとの事情はともあれ、一緒に暮したいというなら、思い通りにして上げたい。
 アメリカに息子がいる。
 一緒に暮せなくても、私は、正式な妻なのだ。
 切っても切れない、夫の血が流れている息子がいる。
 偽りつづけたせめての償いに、別居を選ぶ。
 「随分、私達に尽くしてくれた人だもの、これからは、思ったようにさせて上げたいね」
 同じ秘密を持つ母親も、しみじみいう。

 白亜の天守閣の見える堀端に建つマンションに住む。
 大学が用意した宿舎だ。
 四月に赴任してから二ヶ月近く経つ。
 マンションの門内に、躑躅の植え込みがある。
 あのひとと初めて逢った時も、キャンパスの花壇に、紫や白の躑躅が咲いていた。
 新しい土地で、又、見る躑躅の花に、幸先がよいと、明るい気持ちになる。
 休みの日は、人の出入りの多いところに、車を走らせる。
 市内の住民の中から、個人を捜すのは難しい。
 必ず、捜し出すという信念を持つ。
 今日は、大手スーパーに行く。
 あとで、店内で昼食を済ませるつもりで、買物客に混じって売場を歩く。
 食品売り場で、車椅子を押している息子らしい男性が、一つ、一つ、パック入りの惣菜を母親に見せている。
 母親は、首を振る。
 車椅子は、菓子売場に向かう。
 ほっそりした車椅子のひとの後ろ姿が気になる。
 洋菓子や和菓子のコーナーに車椅子が止まった。
 男性は、母親の指差す和菓子を、店員に注文しているのを見て、咄嗟に、車椅子の前に立つ。
 あのひとは、甘い物が、特に和菓子が好きだ!
 驚いて見上げたひとに、
 「やっぱり、あなたでしたね」
 万感の想いを込めていう。
 あのひとの目から、涙が溢れる。
 「どんなに逢いたかったことか!」
 両手を握りしめる。
 「母のお知り合いですか」
 和菓子の包みを持った息子が、不審げに尋ねた。
 「古いお付き合いなんですよ」
 込み上げてくる思いを抑えて、笑顔を作る。
 「じゃ、あちらでゆっくりお話なさって下さい。まだ、買物がありますので、一寸、失礼します」
 母親の涙を見て、息子は、車椅子を売り場の片隅にある、休憩のベンチに押して行く。
 「逢いたかった! どんなに逢いたかったことか・・・」
 同じ言葉を繰り返す。
 「本当に、お逢い出来たのね。夢を見ているみたい」
 じっと見つめ合う。
 「嬉しいですわ」
 と、しっかり握り返す。
 歳月が飛ぶー
 少しも変わっていない。
 髪は染めているが、つやつやした顔色に、染み一つなく皺もない。
 化粧をしていないのに、グリーン色のブラウス姿に年を感じない。
 唯、スカートやワンピースだったひとが形のいい足に今は、黒いパンツ姿で車椅子にいる。
 腰が痛むのだという。
 息子が、レジ袋を両手にぶら下げて、戻ってくる。
 「差し支えなかったら、うちにいらっしゃいませんか」
 と、息子がいう。
 「お願い! 来て頂戴な。いろいろとお話をしたいし、お詫びもしたいの」
 車椅子から、乗り出していう。

 住宅は、マンションと反対側のお城の近くにあった。
 毎日、城内の公園に散歩に行っていたのに、何故、逢わなかったのか?
 息子は、私より一歳上だといった。
 二年前に会社を定年退職したという。嫁は、図書館に勤めている。
 子供は男女二人いて、結婚して別居しているといった。
 母親がこの頃、気力を失くして、空ばかり眺めて涙ぐむので、気になっているという。
 「空を?」
 と、思わず問う。
 「空を見る度に、この空は、先生の住んでいるところの空に、つづいていると思うと、心が慰められましたの。幸せな結婚をして頂きたくて、黙って、お別れしたんですけれど、毎日が蝉のぬけ殻のように、むなしくて辛かった」
 と、いって、ご免なさいね、済みませんでしたと、何回も謝る。
 「同じですよ。何時も、西の空を眺めていたんです」
 息子に、母親との経緯を話する。
 「そうでしたか、世の中に、先生のような純真な方が、いらっしゃるんですね」
 息子も、母親と同じように先生という。
 「母は幸せですよ。人を好きになるのに、年は問題でないんですね」
 と、いって、
 「大分前から沈みがちで、部屋に閉じこもる事が多かったのですが、先生にお逢いしてから、元気になりました。腰が痛いというようになっていますので、お手間を取らせるとは思いますがお言葉に甘えさせて頂きます」
 息子は好意的で、一緒に住みたいという申し出に、こころよく応じた。
 「悪いようにしません。先生と母が納得いくように、応援します」

 マンションを出て、息子が捜した借家に移る。
 新築の家で、庭が広い。
 花をいっぱい咲かせて、喜ばせてやりたい。
 
 初めての夜―
 抱き寄せた腕の中で
 「先生を忘れることが出来なかったの。思い出しては泣いていました」
 と、すすり泣く。
 「どんなことがあっても離さないからね」
 固く抱きしめる。
 みずみずしい身体は若々しいのに、何かというと、すぐ泣く。
 思えば、長いようでも短い人生に、めぐり逢った最愛のひとだ。
 どんな犠牲を払っても、このひとを守り抜く。

 二人だけの生活が始まる。
 相変わらず、先生と呼ぶ。
 「どうして、何時迄も先生というの。名前か、あなたとかいいなさいよ」
 と、たしなめても、
 「だって、初めてお逢いした時から、先生とお呼びしていたんですもの」 
 と、はにかむ。
 仕方ない。好きなようにさせる。
 大学の講義も、学生間に好評だ。
 ゼミを終えての帰り、花屋に寄り、朝顔の種を買う。
 ベランダ側に、日除けに蒔きたい。
 涼しいといって、喜ぶ顔が浮かぶ・・・・
 家の中がしいんとしている。
 この頃は、車椅子をやめている。
 外出は、車に乗せて行く。
 一人で出掛けるはずがない。
 息子が来て、買物にでも連れて行ったのだろうか。
 「いないの?」
 と、いいながら、居間や寝室を覗く。
 いない!
 「先生、此処よ」
 キッチンの方で声がする。
 床の上に倒れている。
 「どうしたの。転んだの?」
 「うん。立ち上がれないの」
 と、照れる。
 「骨折でもしたら、どうするの。家事は、もうしなくてもいいからね」
 すぐ、躓くようになった。
 両膝に、力が入らないのだ。
 「杖をついたら、楽でしょうね」
 と、いう。
 「格好いい杖を買って上げる。出来合いのがなければ、新しく作って貰うからね」
 気付いていたが、話かけた時、
 「・・・・・」
 首を傾げて、聞き返すことが多くなった。容貌は、あまり変わらないのに、確実に、衰えが目立つ。
 すべてを任かせ、頼りきっている。
 傍にいるだけで、満足している姿を見ると、胸が塞がる。
 自ら、火の中に入り、焼き死に、その灰の中から、再び、生きるという不死鳥のように、好きだと思う瞬間、心に刷り込まれた愛は、どんなに困難があろうとも不滅なのだ。誰も、二人を引き裂くことは出来ない。
 一筋に、自分を慕う愛しいひとよ!
 これから、私があなたの心の杖になる・・・・



 読んで下さって
     有難うございます。
 何故、作中の人物に名前を付けることが少ないのか、それは、私であり、あなただから・・・・
 何故、場所を明記することが少ないのか、それは、私の住んでいるところであり、あなたの住むところだからです。
   善を信じます
   善の中の悪を知る
   悪の中に善は残る
 生きる目的は愛だと思います。
 愛のために、苦しみ嘆き悲しむ。
 愛によって、勇気が湧き力が出て強く生きられる。
 物語の主人公達に、何時も励まされ、そして、慰められるのです。


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