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作品名:ノンカカ国を滅ぼした月鏡の正体 作者:こみふい

第9回 9
青白くそびえたつ崖の麓に月族の村がある。崖は月明かりに照らされて艶めかしく佇み、崖の下で守られるように立ち並ぶ家々たちは神秘的な雰囲気を醸し出している。どこにでもあるようなログハウスの平凡な家なのにどこかこの世のものではない神々しさを感じさせるのはそこが月族が住む家ということだからだろう。
月族の村の周りは高い塀で囲まれている。深い森が近くにあるのでそこから迷い出た獣たちが村の中へ入ってこないような作りになっているのだ。
村への出入り口は一か所だけでそこも野太い丸太で出来た頑丈な扉があり容易には中には入れないが、村には立ち見櫓があってそこから訪問者を見張っているようだ。人間が来たら扉は容易に開く。あくまでも獰猛な獣を中に入れない為の門だ。
リコアとスルは一度深呼吸をして扉の前に立った。これから月鏡を盗むという大仕事が待っている。その覚悟は相当なものだ。スルは懐の護符をぎゅっと握りしめた。やはり神の怒りが怖いのであろう。しかしその恐れに金への欲望を断ち切るほどの効力はなかった。
ゴゴゴゴ・・・・。
突然、重い木の扉が開いた。村の中ではかがり火があちこちに灯っていて、月光もそこに足されかなり明るい。リコアたちは息を飲む。そこには立派な体格をした20代くらいの青年と体の小さな老人がいた。この老人は月族の長老だ。
リコアたちは目の前の月族から例えようのない威圧感を覚え、思わず後ずさりしそうになったがここでびびっては駄目だと己に言いきかせてなんとか踏ん張った。すると月族が穏やかに歩み寄ってきて
「僕はライトルと言います。隣にいるのが我らの長老。あなたがたはどちらから来られたのですか?」
ライトルは凛とした声で尋ねてきた。リコアは自分の役目を思い出し何事もなかったかのように芝居を始める。
「私はペラダと申します。ムンカ国のソラピアダ村から来ました。」
「おれ・・・ぼ・・・僕は・・・えっと・・・トランです。よ・・・よろしくお願いします!」
二人が使っているのは偽名だ。そのことはとうに打ち合わせ済みなのにしどろもどろになっているスル。リコアは心の中で忌々し気にチッと舌打ちをした。スルの動揺ぶりを月族が訝しがるのではないかと危惧したリコアはつけ入る隙を与えないようにと芝居を続ける。
「どうか助けてください!このままでは私たちの村は滅んでしまいます!!」
大袈裟に絶望の表情を作りながらライトル達に訴えた。
「!?それは大変ですね。一体どうなされたのです?」
ライトルが心配の表情をしながらも冷静に尋ねた。
「ソラピアダの村に雨が降らないのです。もう3ヵ月も全く降っていません。我らの村は農作物で生計を立てている。このままでは皆飢え死にしてしまいます!!」
リコアはそう叫びながら崩れ落ち地面に膝をつき背中を丸めて嘆いている。まるでこの世の終わりだといわんばかりの迫真の演技は鬼気迫るようだ。
それにすっかり騙されてしまったライトル達。まさかこの二人が月鏡を盗みにきたとは露ほどにも疑うことはなかった。
「それは大変だ!長老!」
「あぁ。すぐに雨乞いの儀式を行う準備にはいっておくれ。して、そなたらはどこから来たと言ったか?」
「ソラピアダ村です。ムンカ国の中にある小さな村です。ここから五日ほどかかる所にあります。」
「ムンカ国は知っている。ここから3つ先の国だ。だが干ばつが起こっているという話は聞いてないが・・・。」
長老が顎に手を添え何気なく呟いた。
「そうですよね・・・。ハラレニ国の雨季入りが遅れていることは知っていますがムンカ国で干ばつが起こっているとは聞いていないですね。」
ライトルも首を傾げて疑問を口にしている。
月族たちは世界情勢を知るためにこまめに新聞を読んだり、毎日近くの町に出かけ今世界で何が起こっているか最新情報を仕入れるようにしている。にもかかわらずムンカ国で干ばつが起こっているということは知らなかった。
だがそれもそのはずだ。干ばつは嘘。ソラピアダという村も存在しない。さすがに国まで存在しない名前を出したらすぐにバレるから実在する国の名前を出したが。リコアは内心焦った。
「ライトル、世界地図を持ってきなさい。」
「はい。」
長老から命令されたライトルが地図を取りに行こうとした時だ。リコアが慌ててそれを止めた。
「それには及びません。ソラピアダ村はとても小さな村で地図にも載っていないほどなのです。村には私たちが案内します。」
「・・・そうか。ではおまかせしよう。」
長老は疑うことなく了承した。月族が依頼者と共に儀式を行う国へ出向くのはよくあること。それにこの世界にある全ての村の名前と場所を覚えるのは困難を極める。リコアが存在しない村の出身者であることにしたのは身バレしない為なのだが思惑通りに運んで内心ほっとした。するとライトルが長老に向き合い
「長老、皆にソラピアダ村のことを話します。儀式を行うのは僕とソシアナでよろしいですか?」
「うむ。今回はお前たち夫婦に儀式を任せる。我々はここでソラピアダ村に雨が降ることを祈ろう。」
「はい。」
「そなたちは遠い国からやってきてお疲れであろう。今夜はここでゆっくりしてゆきなさい。食事を用意するがよろしいかな。」
食事と聞いて俄然スルの目が輝きだした。本当にムンカ国からここまでやってきたわけではないがずっと移動しっぱなしでろくに食事もとっていなかったのだ。ハラレニ国に雨が降る前に月鏡を手に入れなければならないとリコアに急かされ続けて休む暇もなかった。そこで食事と聞けば期待しないはずがない。
「はい!ぜひお願いします!!」
スルの喜びは決して芝居ではない、心の底から食事を切望している。その切望する姿はライトル達の目にもしっかりと焼き付き、図らずもそれが遠い国から来たという話に信ぴょう性をもたらしてしまった。
「ではすぐに食事を用意しよう。ライトル、この方たちを宿に案内しなさい。」
「分かりました。こちらへどうぞ。」
リコアたちはライトルに案内され村の中へと入った。


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