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作品名:ノンカカ国を滅ぼした月鏡の正体 作者:こみふい

第3回 3
だがリコアはなかなか立ち止まらない。どこまで行くんだと不安になったミンピが思いきって尋ねてみる。
「おい、どこまで行くつもりだよ。」
するとリコアはそれに呼応するように立ち止まった。そして用心深く辺りを見渡しミンピと向き合う。途端にミンピの背中に緊張感が走る。リコアはミンピの本気度を見定めるように目を細め、ようやく話の本題に入った。
「初めに言っておくが俺は詐欺師だ。いろいろな国で詐欺を働いては金をだまし取っている。時に強盗もする。あんたはそういう人間と組むということを覚えていて欲しい。」
「詐欺師・・・!?」
ミンピは面食らった。初対面の相手に詐欺師であることをばらすとは思いも寄らなかったし、なによりどこからどう見ても詐欺師には見えない。
もっとも詐欺師というのは詐欺師に見えないから詐欺師なのだろう。詐欺師と組むということは自分も詐欺に加担するということだ。ミンピは迷った。果たして詐欺の仲間入りをしていいものかどうか、どうやらミンピにも良心というものが残っていたらしい。
だがリコアはミンピの迷いをすぐさま察した。
「俺と組むつもりがないのならそれでいい。別の人間にこのもうけ話を持っていくだけだ。だが借金を返すあてはあるのか?奴らはあんたに金がないからといって見逃してくれるような甘い輩ではない。返せないならあんたの命で償ってもらうだけだ。生きたまま焼かれるか、生きたまま重りをつけられて川に放り込まれるか、遺体が発見されたならまだマシだな。」
それを聞いたミンピの体中に戦慄が走った。様々な国を渡り歩き、紛争地や治安のよくない場所も通って来た。そこで遺体を見たこともある。その時のむごたらしい遺体が瞼の裏に蘇りそれと同時に背筋に冷たい汗が流れていく。
あんな風にはなりたくないと思った。あんな姿になるくらいならと覚悟を決めた。
「それで、俺は何をすればいい?」
ミンピの出した結論を聞いたリコアはニヤリと口元を吊り上げた。なんとも狡猾な笑みだ。
「あんたはラパヌの友人だよな?」
「え!?」
ミンピは思ってもみなかった名前を耳にして目を見開いた。途端に心拍数が上がっていく。まさか金をだまし取る相手って・・・。ミンピは嫌な予感がして、込みあがって来た唾をごくっと飲み込んだ。リコアはミンピが狼狽するのははなから折込済みのようにこともなげに告げる。
「そうだ。金をだまし取る相手はラパヌだ。」
「・・・な、なぜ、よりによってラパヌを狙うんだ・・・?」
口の中が乾き、言い淀んだ。
「ハラレニ国の農家で大地主で金持ちである人物を物色していたらラパヌに行きついた。それでラパヌについて調べていたらあんたの存在に辿り着いたというわけだ。」
「俺を利用するのか?」
「そうだ。嫌なら断ってもいいんだぜ?他にこのもうけ話を持っていくだけだ。」
リコアはミンピを試すように問いかけてきた。ミンピが断れないのを知っているくせにだ。
実はミンピはラパヌに対して複雑な感情を抱いている。ラパヌは育ちの良いお坊ちゃまで親から引き継いだ土地をもらって優雅に暮らしている。今までろくな苦労も知らずに暮らしてきた。
一方、ミンピは貧乏な家庭に生まれ幼いことから金銭的苦労が絶えなかった。ラパヌとは同い年でたまたま同じクラスになったことで仲良くなり親友として交流を深めたがお互い親友だと信じて疑っていなかったのはラパヌの方だけでミンピの方は必ずしもそうではなかった。
ラパヌの両親もミンピに対して貧乏な家庭の子供だからと軽蔑したり邪険に扱ったりしない心優しい人たちであった。
彼らは我が子の友人だからとミンピに優しく接していたが肝心のミンピは内心彼らのことを疑い疎ましく思っていた。貧乏な自分に施しをして優越感に浸っているだけだと、本音は自分のことを見下しているのだと思い込んでいた。
大人になってもミンピはなかなかうだつが上がらなかった。ラパヌの両親が亡くなり広大な土地と大きな屋敷を受け継いだラパヌに対して益々卑屈になっていくミンピだったが、42歳の時にイチかバチかでやった絹の商売が大当たりし大金を得ることが出来た。
ようやうくラパヌと同じ立場になれたと思ったミンピだったがそれもつかの間、商売はすぐに駄目になってしまった。もっと質の良い絹が他国で生産されるようになりミンピの商売は干上がってしまったのだ。
だがミンピは元々何事も長続きしない性分で、成功した商売を失ってもさほどショックを受けずたいして落ち込むこともなかった。
それどころか稼いだ金で世界を放浪し始めたのだ。ミンピは一つの場所や一つの仕事に縛られることを嫌い、思うがまま自由に生きたいという持って生まれた奔放さで人生を満喫していた。
そしてそんなミンピのことをラパヌは羨ましく思っている。ミンピは今日にでも見知らぬ街へ行き明日にでもそこで自由に暮らせる。
それに対しラパヌは先祖代々受け継いだこの土地を守りながら暮らしていかなくてはならない。他のどこにも行けないのだ。この土地を捨て他の町で暮らすことは許されない、いわば自分が育てている穀物と同じ。ここに根っこを生やし、不平不満を言うことも許されずただ黙々と生き、ここで枯れ果てて散り行くのみ。ここで生まれここで死ぬこと以外の選択肢がない人生。
だから自分とは真逆の生き方をしているミンピのことを羨ましく思っているし尊敬もしている。ミンピが持ち帰って来る土産話を聞いている時はまるで自分も世界中を旅しているような気分になれる。自分が歩むことが出来ない人生をその刹那、歩んでいる気持ちになれるのだ。
しかしミンピは違った。ラパヌに対して良からぬ感情を持っている。はっきり言ってしまえば軽蔑しているのだ。ラパヌは生まれながらに裕福な家に育ち何不自由なく暮らしてきた。今も大きな屋敷で優雅に暮らしている、苦労知らずのお坊ちゃま。
この土地に縛られどこにも行けず自由に憧れながらただ悶々とした日々の中で自分の土産話だけを楽しみに生きている籠の鳥。そんなラパヌを内心見下しているのだ。籠の中から飛び出すことが出来ない臆病者だと軽蔑している。それに比べてミンピは自分の身一つで商売を成功させ大金を手に入れた、その自負もある。
とはいえ今は再び落ちぶれて借金取りに追われる身だが、それでもラパヌのことを苦労知らずの臆病者だと心の中で罵り続けている。そんな奴から金を騙し取って何が悪いのか。
ミンピの戸惑いと躊躇はどんどん薄れ、心の深層に押し込めていた憎しみと軽蔑が表層にのし上がって来る。
何よりこのままでは自分は借金取りに殺されてしまう運命だ。そんなことはなんとしても避けたかった。ミンピの決意は固まった。もう何を聞いても迷わない。
「それで俺は何をすればいいんだ?」
再び同じことを聞いた。しかし今度こそなんの躊躇もない。そんなミンピを見てリコアは残忍な笑みを浮かべる。


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