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作品名:ノンカカ国を滅ぼした月鏡の正体 作者:こみふい

第29回 29
だがノンカカ国の異変はもうすでにこの時始まっていた。
ウソルーたちがハラレニ国王へ親書を届けてから4か月が経った。
ノンカカ国の農民たちは恨めし気に空を見上げている。空は雲一つない青空だ。だがこの青空は一日も休まずに4か月続いている。いつもの年ならとっくに雨季入りして大地を潤しているのに。
「なぁおかしいと思わないか。雨季入りが4か月も遅れている。それどころか一滴たりとも雨が降らない。」
「あぁおかしいな。俺の畑もカラカラだ。このまま雨が降らなければすっかり干上がってしまうぞ。」
「こんなことってありえるか?隣国には例年通り雨が降っている。それなのにノンカカ国だけさっぱり雨が降らねぇ。まるで雨雲が意図的にノンカカ国を避けて通っているみたいだ。」
農民たちは心底困り果てていた。農民たちの悪い予想通りにこのまま雨が降らなかったら土は乾ききり農作物は全滅だ。大凶作になったら農民たちは貧困に陥ってしまう。
その時、困り果てている農民の内の一人が提案した。トロワという名の男だ。トロワはこの辺一帯の農家たちを仕切る男で皆からの信頼も厚い。トロワの提案はこうだ。
「なぁ、月族に雨乞いの儀式を依頼しないか?」
「月族に?あぁ、祈りの民族か。そういえば俺も聞いたことがある。以前大洪水に陥った国が月族に洪水を止めてくれるように儀式を依頼したら洪水がおさまったって。なるほど、雨乞いの儀式もやるらしいな。」
「それは良い提案だ。さっそく月族の村へ出かけよう。」
「じゃあ、行ってくる。」
「頼んだぞ。」
こうしてトロワは二人の農民を引き連れて月族の村へ向かった。体を鍛え上げた兵士でさえ根を上げそうな過酷な長旅をなんとか乗り越えようやく月族の村へたどり着いた。
月族たちはトロワたちを温かく出迎えた。
「遠路はるばるご苦労様です。あなたたちはどこから来たのですか?」
頭領は柔和な笑顔で尋ねた。トロワは長旅の緊張を解いて安堵しながら答えた。
「ノンカカ国から来ました。私はトロワ、こちらの二人はサンとナミルです。」
その言葉を耳にした途端、月族たちのそれまでの柔和な笑顔が消え驚くほど険しい表情になった。ノンカカ国から来たと知った月族たちの纏う空気が明らかに不穏なものに変わったのをトロワたちは感じ取った。トロワたちは不安になる。
「どうぞこちらへ。」
心なしか冷たい温度の頭領の声に促されてトロワたちは村の中へ入った。自分たちを見つめる月族の視線が痛い。これはあきらかに何かあるとトロワは思った。しかしここに来た事情を話さないわけにはいかない。
「実は折り入って頼みがあるのです。月族の方々にノンカカ国で雨乞いの儀式をしていただきたいと思い参りました。」
「雨乞いの儀式ですか・・・。我々もノンカカ国で干ばつが起こっていることを知り雨が降るように祈り続けてきたのですが・・・。」
頭領は複雑な表情をしながら言った。すると頭領の隣にいた月族の一人が眉を顰めぼそっと呟いた。
「自業自得だわ。」
「え?」
「こらやめないかリンダ!」
頭領はリンダを叱った。しかしトロワたちはその呟きを聞き逃さなかった。
「どういう意味ですか。」
トロワが尋ねたが月族たちは複雑な表情のまま口を噤んでしまった。だが自業自得というのは穏やかではない。何か事情がありそうだと勘付いたトロワは頭領に詰め寄った。
「自業自得とは一体どういうことでしょう。ノンカカ国の干ばつと何か関係あるのですか!このまま何も聞かずに帰れと言われても帰れません!どうかお話ください。話を聞くまで帰りません!」
「トロワの言う通りです!何も聞かないままでは納得いきません!」
頭領は、トロワたちの一歩も引かないという強い姿勢に押される格好で重い口を開く。
「あなた方はウソルーという兵士を知っていますか?」
「ウソルー隊長のことですか?もちろん知っています。国王のお気に入りですよ。部隊を指揮していますがそれが何か。」
「ウソルーは4か月前に突然この村にやってきました。そして暴力の限りを尽くしたのです。」
「!!?」
トロワたちは絶句した。リンダが説明を続ける。
「私たちの家を壊し、畑を荒らしヤギや鶏を殺し、止めに入った私たちを殴り倒し・・・挙句の果てには・・・。」
ここまで言ってリンダが声を詰まらせた。涙がこみあげてくる。トロワたちは寒気に襲われた。声が出せないリンダの代わりに頭領が説明をする。
「挙句の果てに私たちが先祖代々受け継がれ大切にしてきた月鏡を破壊したのです。」
「なんだって!?」
トロワたちは驚愕しそれ以上の言葉を失った。顔から見る間に血の気が引いていく。そこへ裏で話を聞いていたリナがやってきて静かに語りだした。
「月鏡は月族が神に捧げる時に必要不可欠なもの。それを壊され戸惑いましたが私たちは祈りをやめることはありませんでした。月鏡を壊したウソルーに対しては思うところはありますがあなたたちにはなんの関係もないこと。罪のない人々を恨むことなどあってはならないと誠心誠意ノンカカ国に雨が降るようにと祈り続けました。」
「・・・。」
トロワたちの体がウソルーへの怒りで震えてくる。
「しかしいまだノンカカ国に雨が降らないと聞き私たちは自分たちの力不足を痛感しています。本当に申し訳ありません。」
リナはそう言うと頭を下げた。サンはそれを見て慌てて
「そんな!頭を上げてください!元はといえばウソルーが月鏡を壊してしまったからです。あなたたちは悪くない!」
「どうすれば雨が降るようになるのでしょうか。月鏡は元には戻らないのですか。」
トロワが声を震わせながら尋ねた。声の震えはウソルーへの怒りのせいだ。
「割れた月鏡に祈っていますが、それ以上どうしたらいいのか分からないのです。こんな私たちで役に立つか分からないのですが今すぐノンカカ国で儀式を行う準備に入りましょう。お父様。」
「うむ。」
頭領は頷いて立ち上がろうとした時だ。トロワはそれを止めた。
「それには及びません!」
「しかし・・・。」
「悪いのはすべてウソルーです!全ての元凶はウソルーにある!これから国へ帰ってこのことを国王に知らせます。そしてウソルーを処刑してもらう!!」
「トロワさま!?」
トロワの危険な思想にリナは狼狽した。しかし怒り狂ったトロワを止めることは出来ない。それはサンとナミルも同じだった。三人はウソルーへの恨みを暴発させながら立ち上がった。そして復讐の鬼と化しノンカカ国へ向かってひたすら走り出した。リナは戸惑った。
「お父様、あの方たちを止めた方がよいのではないでしょうか。」
「だが私たちに何が出来る。ノンカカ国の問題はノンカカ国で解決しなければならない。非情なことを言うようだが我々が口出しすべきことではない。怒りの前では我々は無力なのだ。」
「お父様・・・。」
複雑な表情を浮かべるリナ。無念そうな表情で唇を噛みしめる頭領。そして辛そうに呟いた。
「ポール、生きていたらお前ならどうした・・・?お前ならあの者たちを止めただろうな。無力な私を許してくれ。」
頭領は肩を震わせて泣いた。リンダとリナの瞳からも涙があふれる。
ポールはつい一週間前に死んでしまった。ウソルーから受けた傷口から感染症にかかり容体は悪化する一方、ついに回復しないまま亡くなってしまった。愛しいサラの腕に抱かれながら天国へと旅立っていったのだ。そしてサラはポールを失った喪失感からいまだ立ち直れずにいる。


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