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作品名:ノンカカ国を滅ぼした月鏡の正体 作者:こみふい

第18回 18
田園風景を抜け、険しい山々がどんどん迫って来る。周りの風景も人が手入れしたものではない無骨で野性的なものへと姿を変えていく。森が点在しその間を縫うように作られた道をレンドは駆け抜け、シュンケはレンドを眼下に確認しながら飛行する。
こうしてサンライズ国の東の端までやってきた。壁のようにそそり立つ崖の麓に木造の高い塀が見えてきた。
レンドが前方を指さすとシュンケも視線を先へと送った。高い位置から眺めると村の中の様子も見える。櫓があって所々に家がある。畑もある。結構大きな村だ。
「あれが月族の村か・・・。」
シュンケは目を細め呟いた。月族に会うのが楽しみだ。
さすがレンドとシュンケである。予定よりだいぶ早く月族の村に到着した。レンドは馬から降り、シュンケはレンドの傍に舞い降りた。
村の周りは塀で囲まれており唯一の出入り口である門も固く閉ざされている。レンドは中へ聞こえるように大声をあげる。
「私はハラレニ国から参ったレンドと申します。ハラレニ国王から雨乞いの儀式の依頼を受けてここへ来ました。ぜひ月族の方々とお会いしたい。」
「・・・。」
だが何の反応もない。扉も開かない。レンドとシュンケは顔を見合わせて肩をすぼめた。
「誰も出てこないな。これは勝手に入っていいということか。」
「そうだな、一応声はかけたし中へ入るか。」
レンドはそういうと扉に手を添え力を込めた。野太い丸太を組み合わせた重厚感がある扉だが国境にある鉄の扉とは違い一人でも開けるのは難しくはない。
ギギギギィ・・・。
鈍い音を立てながら扉は開いた。シュンケが高い所から見たのと同じ風景が広がる。ログハウスが立ち並び、家庭菜園があり平和でのどかな村だ。ヤギや鶏も飼われていて、コケコッコーという鳴き声があがったり裏庭の飼育小屋にいるやぎがレンドたちを物珍しそうに見ている。だがおかしなことに人の気配がない。
「月族はどこにいるのだ。誰も出てこない。」
レンドは奇妙な光景に眉を顰める。シュンケもこの不自然な静けさを不気味に思い隣にいるレンドに話しかけた。
「月族というのはよほど警戒心が強いのか?姿をまったく見せないが。」
「いや、そんなことはない。月族は開放的な民族だ。儀式の依頼を受ければ快くどんな土地にも赴くしな。」
「そうなのか。では我々に気づいてないか、どこかへ出かけているかだな。」
「もう少し奥に行ってみよう。」
二人はどんどん村の奥へと進んだ。静寂が濃厚さを増していく。周りを見渡せば樹々の枝葉がよく手入れされており細やかな月族の性格が見て取れる。すると樹々の隙間から広場に人々が集まっているのが見えた。
「いたぞ。」
「なにか話し合っているみたいだな。行ってみよう。」
「あぁ。」
レンドたちは月族たちがいる祭壇の方へ近づいていく。天蓋が見え絹のカーテンがかかっている。一目見てここが月族にとって特別な場所だというのが分かった。
しかしレンドたちが真後ろに来ても月族たちは深刻な表情で話し合っておりレンドたちの存在に気づいていない。レンドは月族がいささか不用心にも思えたが兵士ではない限りこういうものだと思い直した。レンドは思い切って声を掛けた。
「突然のことで申し訳ないが話を聞いて欲しい。私はハ・・・。」
「「「わあぁ!!」」」
月族は突然背後から声を掛けられ心臓が飛び出んばかりに驚きながら振り向いた。振り向いてまたしても驚愕。皆、目を見開いて固まっている。
そこに空族がいるからだ。皆の視線はシュンケに注がれている。
「なぜここに空族が・・・・。」
「初めてこんな近くで見た・・・。」
「なんて立派な翼・・・。」
「これが空族か、なんて素晴らしい。」
月族たちから驚きと感嘆があふれ出しシュンケを包み込む。シュンケはまじまじと見つめられいささか戸惑った。シュンケはハラレニ国にまめに出かけるがナーシャやカリン、ルシアがそこに住んでいるのでハラレニ国民は空族に慣れている。よってこんな風に物珍し気に見られることは滅多にない。
シュンケの困惑を察したレンドは助け舟を出す。
「すまないが私の話を聞いて欲しい。私はハラレニ国王に仕える者で名をレンドと申す・・・。」
「ハラレニ国!!?」
「あんたはペラダとトランの仲間か!?」
ハラレニの名を聞いた途端、月族たちの雰囲気が一変した。それまでの感動の空気がガラッと変わりピリピリとした警戒心を露わにしている。中には非難めいたまなざしを向けてくる者もいる。レンドとシュンケは月族の変わりように困惑した。
ペラダとトランとはなんのことかさっぱり分からないレンドの戸惑いぶりを見た長老は何かを察したのか周りの者に声を掛けた。
「皆の者、この方は何も知らぬ。不躾な態度は失礼にあたるぞ。」
長老の一喝で月族たちは反省したようだ。レンドに向かって次々と頭を下げた。
「いや、頭など下げないでください。それよりトラレとエコークがあなた方に何か失礼なことをしましたか?もしそうなら二人に代わって心からお詫びをしたい。」
レンドはてっきり先にここに来たであろうトラレ達が月族たちになにか失礼なことをしたのではいかと勘違をしてしまった。トラレ達に限ってそんなことはないと信じているが万が一のこともある。しかし当の月族たちはその名前に何の心当たりもない。
「トラレとエコークとはどなたかね?黒髪で茶色の瞳で小柄な男たちのことかい?」
長老はそのトラレとエコークとやらがリコアたちの可能性もあるかもしれないと念の為に聞いてみた。
「いいえ、トラレとエコークは共に金髪碧眼で180cmは優に超える大柄な兵士たちです。」
「それなら我々はその者たちを知らぬな。それにハラレニ国は良き国。このような不躾な態度を取ってしまい申し訳ない。許してくだされ。」
長老も頭を下げた。レンドは慌てて長老に歩みより頭を上げさせた。それと同時にエコークたちはまだここに来てないことを悟った。だが今は二人を心配している暇はない。何よりそのことはジャノたちに任せている。
「一体なにがあったのです。事情があるなら話してはいただけないでしょうか。」
「!!」
レンドの思いがけない申し出に月族たちは渡りに船だと思った。レンドの精悍な顔立ち、体格も良く、おまけに兵士の恰好をしていてかなり頼りになりそうだ。それにハラレニ国王に仕える者ならリコアたちの捜索に協力してくれるのではないかという期待もある。
「はい、でも少々待ってくだされ。ソシアナよ、ライトルとルナを呼んできておくれ。」
「はい分かりました。」
ソシアナは急いで自宅とルナの家に向かった。ほどなくしてライトルとルナがやってきた。二人はシュンケの姿を見るなり驚愕し立ち止まってしまった。やはりの反応だ。
特にルナはシュンケを見た途端なぜか頬を赤く染めて動揺している。長老はじれったそうに二人に声を開ける。
「いいから早くこちらに来なさい。空族を近くで見て感動するのは分かるが今はそれどころでない。」
長老だってつい先ほどまでシュンケを見て感動していた口だが、すましたように二人を窘めた。ライトルはレンドたちの目の前までやってきて挨拶する。
「初めまして、僕はライトルと申します。この村で長を務めています。こちらが妹のルナです。」
「初めまして。私はハラレニ国から来たレンドと申す者です。国王の命を受けてここに参りました。」
「ハラレニ・・・!」
ライトルとルナはあまりに偶然な言葉を耳にして息を飲んだ。シュンケはそんな二人の元に歩み寄り
「初めまして、私は空族の頭領で名をシュンケと申す。よろしく頼む。」
威風堂々としたシュンケは見るからに頭領にふさわしい。ライトルとルナは会釈をした。ルナの鼓動は高まるばかりだ。
「それでレンド殿、国王の命とはなんですか?」
「実はハラレニ国は今干ばつに悩まされているのです。雨季入りが遅れている。そこで月族に雨乞いの儀式をお願いしたく参りました。」
「なるほど、そういうことですね。ハラレニ国の干ばつのことは知っております。我々もそのことを心配してここで祈りを捧げていたのですが・・・。すぐにハラレニ国で雨乞いの儀式をする準備を致しましょう。丁度これから僕たちもハラレニ国に向かうつもりだったので。」
そしてライトルは長老に向き直り
「僕たちは月鏡探しに専念したいので雨乞いの儀式を行うのは他の者にお任せしていいですか?」
「もちろんじゃ、私も同じ考えだ。ヨハン、ブランカ、ドモン、お前たちもハラレニへ行ってくれ。」
「かしこまりました長老。」
「今すぐ準備に入ります。」
三人はすぐさま自宅へと戻っていった。ここでレンドは先ほどから引っかかっている疑問をぶつけてみた。
「それで長老、お聞かせください。ハラレニ国がどうかしたのですか?」
「うむ・・・。」

長老はレンドたちに事情を説明した。
レンドは動揺を隠せない。
「月鏡が盗まれた!?しかも犯人はハラレニの者だということですか!?」
「さよう。だがハラレニの者とは限らない。ハラレニ国で月鏡を高値で売りつけようとしているかもしれない。」
だがいずれにせよハラレニ国が関係するならこのまま見過ごせないとレンドは固く拳を握りしめた。
一方シュンケは、緊張感を漂わせ表情も硬いレンドの様子を見て疑問を感じた。こんな風にレンドが動揺するのは珍しい、いや初めて見る姿だ。
それに対し月族たちはなぜレンドがこんなにも動揺しているか理解出来る。
「そなたもノンカカ国の悲劇の再来を恐れているのであるな。」
レンドは素直に頷いた。
「ノンカカ国の悲劇?」
シュンケにはなんのことかさっぱり分からない。
「シュンケは月族のことも知らなかったからノンカカ国のことももちろん知らないか。もっともお前が生まれる前のことだしな。私もまだ生まれる前の出来事だが国に仕えたり政治を担う者ならノンカカ国の悲劇を知らない者はいない。伝説のように語り継がれることだ。」
「そんなに悲劇的なことなのか・・・。」
「あぁ・・・。」
レンドは言葉少なに頷いた。


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