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作品名:ノンカカ国を滅ぼした月鏡の正体 作者:こみふい

第10回 10
リコアたちは案内されるまま村の中を歩くが不思議なことに他の月族と出会わない。夜だから家の中にいるのだろうと想像したが家の明かりもついていないようだ。リコアは不可解に思い。
「すみません、月族の方たちはもう寝ているのですか?」
今はまだ夜の9時頃だから寝るにはまだ早いような気がするが一応尋ねてみた。
「いや、皆は今祭壇で祈っているのです。」
「あぁそれで・・・。」
リコアは納得した。
「月族の方々は毎日毎日ずっと祈り続けているのですよね?朝から晩まで祈り続けるなんて大変ですよね、凡人には到底出来ることではないです。」
「いいえ、一日中祈り続けているわけではありません。祈りの時間があって夜の9時から零時までです。毎日のことですから一日中祈り続けるのはさすがに体を壊してしまいますから。」
「それもそうですよね、いやそれでも3時間も祈るのは大変ですなぁ。」
リコアか感心したように言ったがそれも芝居だ。月族が祭壇にいる時間は夜の9時から零時までという情報を得た。それ以外の時間が月鏡を盗むチャンスだと頭の中で計算した。
「ところでその祭壇はどこにあるのですか?」
リコアは祭壇がある場所を探るつもりで何気なく聞いた。しかしライトルはその質問に眉を顰めた。リコアは瞬時にしまったと後悔した。
「なぜそのようなことを知りたいのです?」
「あ・・・い、いえ、出来れば僕たちも月族の祈りの儀式を見ることが出来たらいいなと思いまして。神様に舞を奉納したりするのでしょう?ぜひ私たちもその舞を見ることが出来たならと・・・。」
リコアは舞を見たいなんてこれっぽっちも思っていないのだがごまかす為に口から出まかせを言った。
「なにも特別なことはありません。ただ祈っているだけです。歌ったり舞をしたりというような特別なことはなにもありません。ひたすら祈っているだけです。だからお見せするような代物ではないかと思います。」
「そうですか、残念ですが諦めます。」
リコアはこれ以上食い下がるのはやめといた。下手に執着をして怪しまれてしまっては元もこうもない。するとライトルは一軒の平屋の前に立ち止まった。
「今晩はここにお泊り下さい。」
ログハウスの作りの立派な建物だ。ライトルが扉を開けると中から木の香り漂い、木目の家具たちが体と心を寛がせてくれる。暖炉もあるが今は夏なので使うことはない。月族の村の中には小さな川が流れていてその川の冷却効果のおかげで夏の夜でもさほど暑苦しくなく眠れそうだ。
ここまで夜通しで旅してきたリコアたちもさすがにひと息をついた。
「食事を運ばせますので今晩はゆっくりしてください。近くに湯あみをする場所があるのでよかったらそこで疲れを取ってください。」
「お風呂もいただけるのですか?」
「もちろんです。ここからすぐのところに温泉が湧き出る泉があるのです。川の水と交じり合い良い湯加減になっていると思うので良かったらどうぞ。場所はすぐ近くですが湯冷めしないように気を付けてください。これからそこへ案内します。」
「申し訳ないです。」
リコアは恐縮しながら答えた。天然温泉だなんて月族の村はなんて恵まれているんだろうと内心嫉妬しながら。
ハラレニ国やその他の色々な国にももちろんお風呂はある。火で湯を沸かしたり金充石や石油を使って沸かしたりと様々だが毎日ただで温泉に入れる人間はなかなかいない。
ライトルに案内された風呂場は温泉の源泉が湧き出ている場所を小さな岩で囲ってある簡易的なものだがなるほど川の水が流れこんでいるから温度的には快適になっている。スルは湯加減を確かめる為に温泉に手を入れて満面の笑みを浮かべた。
「出発は明日の朝8時でよろしいですか?」
「はい。どうかよろしくお願いします。」
リコアが深くお辞儀をした。だがライトルが立ち去ったのを見届けるとその表情は一転した。狡猾な笑みを浮かべ
「決行は夜中の一時だ。いいな、スル。」
「分かった。その前にこの温泉を堪能しとこうぜ。」
スルはそう言うとほくほく顔で早速上着を脱ぎかけた。温泉でくつろぐ気満々だ。しかしリコアはそうではなかった。
「馬鹿かお前!そんなことをしている暇なんてないぞ!まずは祭壇がどこにあるか調べなくてはならない。風呂なんて入っている場合か!」
「え・・・そんな・・・。」
スルは名残惜しそうに温泉を見つめながらぼやいた。リコアはスルに軽蔑のまなざしを向け一瞥するとさっさと歩き始めた。スルはそれに渋々とついていく。後ろ髪を引かれる思いで何度も温泉を振り返りながら。

ライトルは皆が集っている祭壇へと歩みを進めていく。リコアたちは密かにライトルを尾行していた。
家々が立ち並ぶ道をどんどん奥へと進むと樹々の合間に一段と明るく輝く広場が見えてきた。かがり火が四隅に灯されていてそこにたくさんの人々が集まっている。どうやらここに祭壇があるようだ。リコアたちは息を飲んだ。
祭壇は月族の家のような質素なものではなくひときわ豪華に作られている。光沢のある黒色をみなぎらせている金充石と華やかに輝く黄金に彩られた美しい祭壇。
祭壇には雨風を凌げるようにと天蓋があってそこから薄い絹のカーテンが垂れ下がっている。祈りを捧げる時だけこのカーテンが四方に開けられ月光が中に降り注いでいく。その月光の中に月鏡が祀られているのだ。月鏡は割れているので立て掛けられてはいないが銀箱の中で月光を浴び虹色の輝きをよりいっそう強めている。
ライトルは祈りを捧げる人々の背中に立った。
「皆、聞いてくれ。」
突然ライトルに声を掛けられた皆が一斉に振り向いた。
「どうしたライトル?」
「実は今、ムンカ国のソラピアダ村の方たちがここに来ている。雨乞いの儀式をして欲しいという依頼をされた。明日の朝、ソラピアダに出発する。」
「ソラピアダ村?聞いたことないな・・・。どこにあるのだろう。」
「ムンカ国が干ばつに悩まされているという話は聞いていませんが、ハラレニ国の間違いではないですよね?」
月族たちはざわめいた。
「ムンカ国から来たと本人たちは言っている。とても小さな村で地図にも載っていないそうだ。」
「そうですか。」
27歳にして月族の長を務めるライトルの言葉を疑う者はいない。
「明日の朝、僕とソシアナでそこへ向かう。ソシアナ、旅の準備を始めてくれ。ここから5日はかかる遠い場所のようだ。」
「分かったわ、あなた。」
ソシアナはライトルの妻だ。彼女は颯爽と立ち上がり自宅へと戻って行った。
ライトルはソシアナを見送ると、とある女性の方へ向き直った。とても美しい女性だ。月光のように白い肌と腰まで届く美しい銀髪。輝く蒼い大きな瞳と薔薇色の唇がいっそう人の目を引く。
「ルナ、今から食事の用意をして彼たちに運んでくれ。男性二人だ。長旅でとても腹を空かせているようだから食事の量は多めに。」
「分かりました、お兄様。」
美しきその女性の名前はルナという。ライトルの三歳年下の妹だ。ルナはすっと立ち上がり自分の家へと戻っていった。
「皆は祈りを続けてくれ。ソラピアダ村の為に祈ってくれ。そして引き続きハラレニのことも祈り続けてくれ。」
「分かりました。」
月族たちは祭壇に向き直り再び祈り始めた。彼らはハラレニの雨季入りが遅れていることも知っていて雨が降るように祈っていたのだ。ハラレニから雨乞いの儀式を依頼されてはいないので自らそこへ赴くとこはしないが、もし依頼されたらすぐさまハラレニにも出向く心づもりはある。


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