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作品名:紅い瞳 作者:遊架

最終回 あなたの瞳に囚われる
あなたの瞳に囚われる

ドクンーー。

心臓が鼓動しているのが、耳元に聞こえる。
まるで体全体が心臓になったように、大きく脈打った。

ドクンーー。

ほんの数センチ目の前の、紅い瞳が微かに揺れる。
透きとおった涙に濡れた紅は、記憶を写しているかのように燃えている。

ドクンーー。

この二つの瞳に、私の鼓動が見えてしまっているのではないかという気持ちになる。
音はとうに彼の鼓膜を震わせていることだろう。

ドクンーー。

「伶菜ちゃん……」
切なげな声が、両方の耳から私の中へ入ってきて、脳内へと染みわたる。じんわりと髄まで染みこんできて、麻酔をかけてゆく。ぼんやりと鈍ってゆく思考。幾つの鼓動を数えたか……すべて忘れ去って、私の中身を「彼」だけに塗りかえてしまう。
「……レオ」
「声……我慢できる?」
「っ、うん……」
軽く唇を噛んでうなずく。レオは、安心させるように目を細めた。
「すぐ終わるから……静かにしてないと、バレちゃうからね」
緊張に、呼吸が早まる。浅く何度も繰り返しながら、そのときを待った。たった一秒が、何時間にも感じられるほどに、張りつめた心。
「レオ……お願い、はやく……」
「うん……いくよ」
レオの瞳が離れてゆく……僅かな輝きを余韻に残して。そして、体の動きに合わせゆらりと揺れた瞬間ーー
「っ……」
思い切り目を瞑り、レオの服の裾を握る。
「……ごめん、痛かった?」
「ううん……大丈夫」
精一杯なんでもない風を装う。しかしレオは目元を歪めて覗き込んできた。
「ウソ。痛かったでしょ。……あとはガーゼを貼るから、大人しくしていてね」
「うん……」
少しだけにじんだ涙が早く引っ込むように願いながら、肩の手当てをしてくれる手元を見つめる。ほんのちょっとだけ伸びたレオの髪が、私の髪と混じり合う。くすぐったいような感覚の向こう、ガーゼを当ててテープでとめてゆくレオの目は、真剣そのものだった。
「……はい、できた。これなら洋服を着れば隠せると思うよ。薄い生地のものは避けたほうがいいね」
「ありがとう、レオ。自分じゃできなかったから、助かったよ」
「これくらい、当然だよ。でも……アランが羨ましいな」
「え……?」
「だって、アランには心配をかけたくなくて、自分で手当てしようとしてたんでしょ」
「う、うん、そうだけど……」
「愛されてるなぁって」
カーッと頬に熱が集まる。言葉にされると、どうしても照れてしまった。
「……あ、もうこんな時間。会議があるから、もう行くね」
「あ……うん。本当にありがとう。頑張ってね」
「伶菜ちゃんも、お大事に」
ぽんっと優しく頭を撫でてくれた、レオの背中が遠ざかる。上がりきった胸の温度が下がると同時に、肩に痛みが戻ってくる。

(さっき……すごくドキドキした)

相手はレオなのに。
心配そうな、けれどもすごく真剣な瞳。

(……ううん。だって、双子だもん)

似ていて当然。だけれど、アラン以外の人に魅入っていたのは確かで。
アランを想う気持ちに迷いはないけれど。
寸分違わぬ、真っ直ぐな意志を秘めたあの目差し、あれだけにはどうしても弱いのだと、初めて悟った。


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