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作品名:魔法使いは星月夜を抱く 作者:alone

第7回 2−2

「二人きりで話せる場所はある?」というクローディレーヌの求めに応じて、ルリレラは遺失物の保管室へと彼女を案内した。あまり広くない室内に遺失物を置いておくための棚が並び、その間隔は人がひとり通れるほどしかない。人の出入り自体がほとんどないために空気は少々かび臭く埃っぽい。クローディレーヌは興味深そうに棚などを見回してから話し始めた。
「ありがとう、良い場所ね」
 場所が場所だけに皮肉のような言い回しに聞こえそうだが、クローディレーヌの声色には裏表のない素直な響きがあった。二人きりで話すにふさわしい場所だと判断したらしい。
「それで、私はどこから話をすればいいんですか? 最初から? それとも結末だけ?」
「できることなら初めから丁寧に話してもらいたいところだけれど、先にひとつ、はっきりとさせておきたいことがあるの」
 クローディレーヌの瞳が、ルリレラの目をとらえる。きれいな水をすくい取ったような澄んだ青色の瞳がルリレラを見据えた。
「本当にルリレラが捕まえたの?」
 心臓がどくんと大きく跳ね上がるのをルリレラは覚えた。動揺を抑え込み、どうにか平静を装いながら言葉を紡ぐ。
「どうして、そう、思うんですか?」
「それは、この事件の原因が私の思っている通りだとしたら、ルリレラに対処できたとは思えないからよ。厳しい言い方になってしまうけどね」
「メリエッサさんは、《鏡変》の原因を知っているんですか?」
「クローディーで構わないわ」クローディレーヌは他意のない優しい笑顔を向ける。「そうね、思い当たることはある、という具合かしら。ただ、もし私の思っている通りだったとしたら、事態は急を要することになる。だから今回の事件について詳しく知る必要があるの」
「だったら私なんかより、もっと上の人に話を聞いた方が良いんじゃ?」
「そうね、その方が良いんだろうけれど、ちょっと私の素性というか所属が問題でね。行ってはみたけれど門前払いされてしまったの。おかげでルリレラが頼りってわけ」
 クローディレーヌはおどけた様子で肩を落とす仕草をした。困っているというよりも仕方がないと諦めて割り切っているようだ。
「それって一体……」
「ルリレラはアルケニムス教団って聞いたことある?」
「たしか、神話を否定している宗教団体だと、聞いたことがあるような」
 アルケニムス教団は神話否定派だと風の噂程度に聞いたことはあったが、ルリレラたちの住むデルシア王国では独自に宗教が発展しており、あまり関心を抱いたことはなかった。国外にはそのような組織があるのかという具合の認識で、神話を否定するからといっても、根本的に信仰している対象が違うために憤慨するようなことはない。けれど、かといって良い印象を持っているというわけでもなく、異教徒だから弾圧するとまではいかないが、ある程度の胡散臭さは覚えてしまう。
「その認識で大きくは違っていないかな。まあ、そのアルケニムス教団こそが私の所属ってわけ。おかげで胡散臭いから出て行けって言われてしまったの。けれど、それでルリレラ――あなたに会えたのだからむしろ良かったのかもしれない。彼らは信用できそうにないからね」
 信用できないという言葉にルリレラは共感を抱いてしまう。もしかするとそうやって油断させる話術なのかもしれないけれど、容疑者を捕まえたのがルリレラ自身でないと見抜いていることも踏まえると、彼女は何か重要なことを知っているような気がした。信頼しても良いかもしれない。
「実は、私もそう思っていたんです」
 そう話し始めてルリレラは事情聴取で話さなかったことをクローディレーヌに語っていく。黒衣の人、彼の行動、そして「操られてる」という言葉について。
 ひとしきり話し終えると、クローディレーヌは悩ましげな表情を浮かべていた。事態は思ったよりも深刻なのだろうか。
「何かまずいことがありましたか?」
 ルリレラが恐るおそる訊ねるとクローディレーヌは表情を和らげた。だがその顔つきはどこかぎこちなく、安堵させようと無理に作っているような印象を受けてしまう。
「話してくれてありがとう。私の知る限り、その黒衣の人が何者なのかは分からないけれど、彼の言ったことが本当なら、今回の事件の原因は私が思っていたものかもしれない。どうにかルリレラが捕まえた人と会いたいのだけど、できる? できれば早ければ早いほど良いわ」
 クローディレーヌの口調は少々張りつめて緊迫感を伴っていた。これは早く容疑者と会わなくてはいけないのだろう。
 だがルリレラでは容疑者に会うどころか、容疑者がいる場所に近づくことすら叶わない。誰かの手助けか、もしくは何か手立てがあれば……と考えて、ルリレラはあるものの存在を思い出した。
 そうか、あれを使えば、もしかして――!


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