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作品名:魔法使いは星月夜を抱く 作者:alone

第6回 2−1

   2

「あ! ルリレラ、おかえりー」
 遺失物課に戻ってきたルリレラをシエラの声が明るく迎えた。遅れてクィントとエルトンが続く。
「おかえり、大変だったね」
「容疑者捕まえたんだって。すごいな」
 所内で話題になっているルリレラが戻ってきたことに、三人は事務処理の手を止めて騒ぎ迎える。遅れて一番奥に座るコルウェンも手を止めるとルリレラに声をかける。
「ルリレラくん、お疲れ様。聴取は大変だったろう」
『聴取』という言葉に反応して三人はルリレラの返答を聞くべく静かになる。だが三人の期待とは裏腹に、ルリレラの言葉は簡素なものだった。
「いえ、すぐに終わったので、ご心配いただくようなことはありません」
「あ、うん、そうか……。えっとじゃあ、今は緊急対応計画が解除されて、また通常勤務に戻っているから、終業まで時間は短いけれど、いつも通りに頼むよ」
「はい……分かりました」
 ルリレラは自分の机に向かうが、その隣は空席になっていた。いつもであればいじわるな言葉のひとつでも飛んでくるはずなのに、テレンスの姿は今や無い。救護班によって現場から搬送されたとは聞いたが、その後の状況について教えてはもらえなかった。
 席に着いて目の前の箱と向き合うが、ルリレラの気持ちは仕事に傾かない。《鏡変》事件に対峙するというほんの数時間前の出来事から心がまだ脱し切れていないということもあるが、どちらかといえばその後のことの方が心を濁らせていた。
 警防隊は《鏡変》事件の容疑者が捕まったことにより緊急対応計画を解除した。だがそれは《鏡変》事件の解決が見込める状況になったからではない。単に、捕まえた後のことが考えられていなかったというのだ。
 ルリレラは容疑者を他の警防隊員に託し、その後警防隊所に戻ってから状況を説明するために事情聴取を受けたが、そこからの帰りにそのように隊員たちが立ち話しているのを耳にして、驚きを隠せなかった。
 もちろんそれが本当のことであるか、ルリレラには確かめようがない。緊急対応計画と称して警防隊全体で《鏡変》事件に取り組むという雰囲気であったはずなのに、容疑者が捕まった途端、《鏡変》事件の調査は限られた部署だけで行われることになり、遺失物課などのいわゆるお荷物部署は追い出され、情報は遮断された。
 納得のできないことが多く、ルリレラは歯噛みする。《鏡変》事件が起き始めたのがここ十年ほどなのだから、対応計画を整備したのがここ数年だとしてもあまりに出来ていな過ぎる。それに《鏡変》した人があれほど強いことは過去の事件から見当はついていたはずだ。コルウェンさんが言っていた通り、あんな軽装では一人二人どころか何人いたって捕まえられたはずがない。
 そこでルリレラは事情聴取のときの相手の反応を思い出す。《鏡変》の危険性について言葉を尽くして熱弁したにもかかわらず、相手はどこか冷めた感じだった。私情を挟まず落ち着いて話を聞いているのだとその場では思い込むことにしていたが、いま思い返せば、真剣に聞く気がなく話半分に聞き流していたというような印象を抱いてしまう。
 そのときは意識していたわけではなかったけれど、心の奥ではどこか不信感の種のようなものが根付いていたのかもしれない。だからか、あの場にいた黒衣の人について話してはいけない気がして、聴取では何も言わなかった。
 疑い始めたらきりがなく、ルリレラの心は沈むばかり。今朝は警防隊の一員であることを誇りに思っていたはずなのに、今では警防隊に対して不信感が募っていく。憧れていたはずの警防隊はこんなものだったのだろうか?
「……ラ……レラ……――ルリレラ!」
 考え込んでしまっていて、そこでようやくルリレラは我に返る。見ればシエラが心配そうに見ていた。
「ルリレラ、ねえ大丈夫?」
「ごめん、ちょっと考え事をしてて。どうしたの?」
「なんだかルリレラに会いたいって人が来てるみたい」そういってシエラは入口の方へと目配せをする。「ほら、あの人」
「誰だろう」
 シエラの視線を追ってルリレラも入口の方へと目を遣ると、見慣れない姿をした女性が立っていた。年齢は二十歳を超えたぐらい。金色の長髪をきれいに結わえているが、身なりは旅装を思わせる。すると首元に白い首飾りを見つけた。国外の人間であることを示す証だ。旅商人だろうか?
 ルリレラは立ち上がり女性のもとへと向かった。近づいてみると彼女の方がわずかに身長が高く、ほんの少し視線を上げる形で話しかける。
「私に何か用でしょうか?」
 声に気づき、女性がルリレラに顔を向ける。目鼻立ちがはっきりとした整った顔をしている。
「あなたがルリレラ・マクウェイ?」
「ええ、はい。そうです」
「初めまして、ルリレラ」女性は柔らかな笑みを添え右手を出して握手を求めてくる。「私はクローディレーヌ・メリエッサ。ルリレラが捕まえたという人について話を聞かせてほしいの」


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