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作品名:魔法使いは星月夜を抱く 作者:alone

第3回 1−3
 警防隊所の前には同じ格好をした隊員が集まっていた。なめした皮を重ねた胴着(ベスト)を制服の上につけ、腰に魔法道具である水銃(すいじゅう)をさげている。
 水銃は魔法使いが簡単な術式を組み込んだ物で、魔法を使えないただの人間であっても引き金を引けば圧縮された水が銃口から射出される仕組みだ。警防隊員に一般的に支給されるのは片手に収まるほどの大きさの拳銃型であり、装弾数は三発。たとえ弾がなくなったとしても水を補充すれば良いという軽便さが売りで、威力も当たれば悪くて骨が折れるほどと申し分ない。取り扱いは容易なことから、今回が初めての警邏である新人隊員たちにも所持が許可されていた。
「射撃訓練の感じ、みんな覚えてるか?」
 テレンスが安全装置をかけた状態の水銃を軽く構えて、射撃訓練のときにどうだったかを思い出そうとしていた。
 ルリレラも水銃を手にして握ってみるが、射撃訓練で撃った反動などの感覚はおぼろげだ。一発で良いから試し撃ちをしたいと考えるが、ここでそんな真似をすればすぐさま水銃を没収され所内待機と称して拘束される。ようやく得た警防隊らしい仕事だ、ふいにするわけにはいかない。
「では警邏の説明をするよ」コルウェンが新人五人を集めて話しはじめる。「警邏は二人一組でやってもらう。今回はルリレラとテレンス、クィントとエルトン、シエラとぼくの組み合わせでいこう。担当地区は南区。細かくは現地に着いてから指示されるけれど、基本的には決められたいくつかの道を時間差で巡回する感じだ。ずっと気を張り続けることは大変だけれど、怪しい奴がいないか注意して見回ってもらいたい。
 あと最後にひとつ。ここだけの話だけれど――」
 コルウェンが五人により近くに集まるよう手で促し、声を潜めて話す。
「《鏡変》した人が消えたなんて言っているが、実際は多くの隊員を倒して姿をくらませた場合がほとんどだ。《鏡変》は一人や二人で手に負えるものじゃない。もし遭遇したら自分の身の安全を優先させて良い。撤退を視野に入れたうえで行動するように」
 コルウェンの言葉に五人は生唾を呑みこんだ。訓練ではないという実感とともに、胸の内がうそ寒くなる感覚を覚えていた。


 デルシア王国は二重の城壁により守られている。一つ目は国全体を囲う城壁であり、東西の門を通じて出入国できる。二つ目は国の中央区を囲う城壁であり、王宮と軍部を国内において隔絶している。門は唯一北側にあり、そこに警防隊所が併設されている。中央区に入るにはまず警防隊による審査があるが、実質的にはその後の軍部の決定に左右されるため、警防隊に権力はないに等しいと言えるだろう。
 軍部はデルシア王国の主力であり、魔法使いや優秀な兵士によって構成されている。さまざまな研究も行っており、水銃のように成果の一部が国民に与えられる場合もある。だが主な仕事は王宮の警護であり、特別な命令――国家防衛など――がない限り中央区以外と関わることはない。そのため国民を守るべく組織されたのが警防隊だった。
 隊長の指示を受け、警防隊所前に集結していた隊員たちが東西南北の区へと散っていく。ルリレラたちも担当の南区へと向かい、そこでさらに細かい指示を与えられた。巡回する道筋、不審者の身元確認、問題発生の合図、水銃の使用許可。遺失物課の三組はそれぞれ別の道を任せられ、ルリレラの隣はすでにテレンスだけになっていた。
 警邏が始まり、二人は指示された道筋を歩みだす。
 ルリレラは自身が周囲の人々から見られていることを意識した。警防隊の制服に身を包み、人々の生活と安全のために身を尽くす。なんて誇らしい仕事だろう。遺失物課の仕事とか充実感がまるで違う。
 背筋を伸ばして悠然と歩くルリレラと打って変わって、テレンスは右手を水銃に掛けてきょろきょろと周囲を見回しながら歩いていた。これでは誰が不審者か分からないと思い、ルリレラはテレンスに声をかける。
「ちょっとは落ち着きなさいよ」
「うるさいな、落ち着いてるよ」
 そう言いながらテレンスは背後で鳴った物音に肩を弾ませ振りかえる。だが大きな荷物が道に下ろされたというだけで何の問題も発生してはいない。
「それのどこが?」
「う、うるさいっ」
 茶化されたテレンスは恥ずかしさを隠すために歩みを早める。ルリレラは面白がりながら後に続いた。
「そうだ今日のこともおばさんにちゃんと話しておくね。初めての警邏なんて絶対に聞きたがるし」
「お前かよ、お袋にあることないこと吹き込んでたのは!」
「ないこととは失礼ね。わたしは事実しか伝えてないんだから」
 ルリレラは楽しそうにクスクスと笑い、テレンスは不機嫌そうにそっぽを向いた。
 ルリレラとテレンスは幼馴染である。母親同士の仲が良く、幼いころから一緒になることが多かった。ルリレラがひとりになってもテレンスの母親はルリレラを食事に誘ったり、実子のように世話を焼いていた。おかげでルリレラはテレンスの母親を実親のように慕い、取りとめのないお喋りに花を咲かせる仲だった。
 しばらくは平穏な時間が続いた。《鏡変》どころか暴行も盗難も起こらない。知った顔の人と簡単なあいさつを交わしたり、見ず知らずの人から警邏に対する感謝や労いの言葉を受けたりした。中央区に住めない人々にとって頼れるのは唯一警防隊だけだ。警防隊という存在の大切さを、今回の警邏を通して人々と直に接することでルリレラは再認識していた。
 昼食を済ませ、午後の警邏に戻った矢先――事件は起きた。


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