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作品名:魔法使いは星月夜を抱く 作者:alone

第11回 2−6

 留置場の壁は吹き飛ばされ、あたりには瓦礫が散らかっていた。壁には大穴が開き、上階に位置するそこから外を見れば、西日に赤らむ建物が長く影を伸ばしていた。
「誰も調べてないの?」
 誰もいない現場を見て、クローディレーヌは訝しげに声をあげる。
「人手不足なんだと思います。連れ去られた容疑者以外にも、この爆発でいなくなった人がいるようなので、たぶん逃げ出したんだと思います」
 ルリレラは留置場に備え置かれた収監者の記録帳簿を見て答えた。記録では十人弱はいるはずが、牢の鍵はどこもことごとく破壊され開け放たれていた。襲撃の目的はおそらく《鏡変》事件の容疑者であり捜査を撹乱するためになされた行為だと推測はできるが、だからと言って逃げた他の者たちを見過ごすわけにはいかない。
「総出で探しているってわけね。こちらとしては好都合だけど」
 そう言うとクローディレーヌは堂々と瓦礫の見分などを始めた。ひとつ拾っては仔細に観察してみたり、牢の破壊された鍵を見てみたり、壁の大穴から外壁を覗いてみたりしていた。だがこれといって手がかりは見つからなかった様子で、腕を組んで考えあぐねていた。
「んーほとんど特徴はないわね。魔法が使われたってことは分かるけれど、誰にでも使えるような一般的なものだけみたい」
「でも魔法が使われたってことは、国外の人の仕業じゃないですか?」
「まあそうとは言い切れ――」
「犯人なら見ましたよ」
 突然聞こえてきた男性の声。ルリレラとクローディレーヌは大いに驚き、すぐさま声の方に向かって身構える。人の気配は感じなかった。誰もいないと思い込んでいた。だが部屋の隅の暗がりから、同じく黒い塊が立ち上がる。
 夕暮れという薄暗い時間が見せた幻覚か、初めは人の形をした影が動いているのかと不気味に思えたが、次第にそれはただの衣服だということに気付かされる。頭から足までの黒装束。奇妙なほどに肌を露出していない、黒衣の人間。
「取引をしましょう。僕はあなた方に犯人の情報を提供します。代わりに僕を匿ってください」
 突然の登場に面食らう二人だったが、クローディレーヌは庇うようにルリレラの前に出ると話に応じる。
「捕まっているような人間と取引する気はない」
「ここにいるのは単なる誤解が原因です。正式な手続きを踏まずに入国していたばかりに捕まってしまったというだけ。怪しい者ではないですよ」
「それはれっきとした密入国よ」
「そのように表現することもできますね」男は余裕を含んだ笑い声を小さく漏らした。「でもそれならあなたの方がまずいのでは? ここでは魔法の話はご法度でしょう?」
 男の指摘にクローディレーヌの表情が険しくなる。先ほどの会話を聞かれてしまっていたのだ。
 一方、ルリレラにはどうしてご法度なのか分からなかったが、先ほど魔法を使うときにクローディレーヌが他言無用と言った理由は理解した。
 クローディレーヌが返答に詰まるなか、男は言葉を続けていく。
「僕は別にあなたを陥れたいわけではないし、信用して欲しいと思っているわけでもない。でも利害関係は一致するはず。目的は同じはずです」
「どうしてそう、言い切れる?」
「だってあなたはアルケニムス教団でしょう?」
「…………なんの話かしら?」
「とぼけたって無駄ですよ」男が不敵な笑みを漏らした。「この国に干渉するとすればアルケニムス教団ぐらいのものでしょうし、ましてや今回はアレが関係している」
「『アレ』……?」
 クローディレーヌの応答に男はやれやれといった具合に溜め息をこぼした。
「《死宝/しほう》――といえば満足ですか」
「!!」
 クローディレーヌが驚きの表情を浮かべる。男は詰め寄った。
「取引する気になりましたか?」
 クローディレーヌは困惑の表情を浮かべて悩んでいた。最後の一押しという具合に、男は畳み掛ける。
「状況が状況なだけに僕に対して良い印象はないということは分かります。でもあなただって一人ではどうしようもないはずだ。ましてやここの人間を巻き込んでいる現状ではなおさら」
「……分かった、取引しましょう。けれどあなたを信用したわけではないからね」
「ええ、構いませんよ。僕は敵ではないですし」
 そう言うと男は鍵の壊れている牢から出てきた。クローディレーヌはルリレラの方に向き直り、小声で話しかける。
「ごめんなさい、こんな怪しい奴を」
「いえ。それよりあの人……」
 ルリレラは男の姿をよく見る。修道服のような黒の外衣に頭巾型の被り物。丈夫そうな皮革製の手袋に靴。そして顔の下半分を隠す装着物。近くで見て、疑いは確信に変わった。
「やっぱりそうだ。あなたはあのとき助けてくれた人ですよね」
「ん、僕? 助けた?」男は言われてようやく気付いたようだった。「ああ! そうか、君はあのときの!」
「はい。助けていただき、ありがとうございました」
 ルリレラは丁寧に礼を述べて頭を下げた。
「そうかそうか。なら巻き込んでしまったのは僕の方かもしれない。申し訳ない」と男は頭を下げ返した。「まあ改めてよろしく。僕はニコレシア。ニコとでも呼んでください」
「私はルリレラです。ニコさん、最後にひとついいですか?」
「何でしょう」
「どうして逃げなかったんですか? 捕まったのが誤解なら、騒ぎに乗じて逃げたっていい気がしますが」
「恰好が目立つのであまり追われる身になりたくなかったということもあるけれど、実際はここにいた方が都合がいいと思っていたからかな」
「どういうこと?」とクローディレーヌ。
「疑っていた場所に、ここが一番近いんだよ。そして襲撃を見て、確信した。
 襲撃の犯人も、今朝の事件の黒幕も、《死宝》の在り処も、すべて同じなんだ」
 ルリレラとクローディレーヌはニコレシアの言葉の先を待つ。張りつめる緊張がわざと焦らされているような錯覚を覚えさせたが、わずか一秒にも満たない間をおいて、言葉の続きは紡がれた。
「僕たちの敵は、デルシア王国軍部だよ」


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