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作品名:魔法使いは星月夜を抱く 作者:alone

第1回 1−1

   1

 紺色が透けていく。光に洗われ、夜が滌(すす)がれていく。星々は溶けるように消え、西の空は帳(とばり)を取りはらう。するどい朝陽が街並みを引っかき、取り残された夜気を路地から掃きだす。
 複数階建ての建物が立ち並び、そのうちの一つに女性の姿があった。建物は長いこと風雨にさらされ外壁が風化して色あせている。その最上階である三階に彼女はいた。
 彼女の名はルリレラ・マクウェイ。年齢は十六。短く切った赤毛の髪が起き抜けでところどころ跳ねているが、気にする様子もなく必死な形相で窓枠を押していた。
 細い指が紅く色づくほど力を込めていたがびくともしない。普段から立てつけの悪さはあったが、窓枠の木材が昨晩の雨を吸って膨らんだようでいつも以上に固くなっていた。半ばぶつかるように強引に押すことで、ようやく開け放つことができた。
 室内のよどんだ空気が外へと流れだし換気される。外の空気は雨に洗われて新鮮で清らか。浴びるようにルリレラは両腕を上げて背筋を伸ばし、深呼吸を何度かくりかえした。
 良い朝は、良い一日の兆しよ――
 母親の言葉をルリレラは思い出していた。
 貧しくてもいつも明るくふるまっていたお母さん。希望のある言葉をいつも掛けてくれて、朝には決まってそう言っていた。晴れの日だけじゃなく、雨の日だって嵐の日だって毎日。
「良い朝って、どんな朝のことだったのかな……」
 ルリレラは澄み切った青空を見上げひとり呟いた。起きたばかりの活動的でない心に、寂しさが染みていく気配を覚える。すぐさま頬をペシペシと叩き、気持ちを切り替えた。窓辺からはなれて朝食を食べることにする。
 乾パンと具の少ないスープで朝食を済ませ、身支度をはじめる。壁に掛けていた制服を手に取って身に着けていく。軽く手足を動かし身体に馴染んでいるかを確かめてから、最後に赤褐色の記章(バッジ)を取りだして胸元に着けた。
 楕円形の壁掛け鏡で恰好に問題がないかを確認する。鏡に映るは一警防隊員の姿。人々の生活と安全を守る誇り高きデルシア王国警防隊の一員。おかしなところがあってはいけないと丁寧に着衣を確かめ、髪型などを整える。
 すべての身支度を終え、ルリレラは鏡のなかの自分自身と目を合わせた。
「きっと良い一日になる」
 そばかすの浮いた頬に柔らかな笑みを浮かべて、自らにそう語りかける。母親がいつもしてくれていたように。
「いってきます!」
 儀礼的な習慣を済ませてルリレラは元気よく部屋を後にした。誰もいなくなった室内はふたたび静まりかえり、家主がどんな一日を過ごして帰ってくるのか、ただ静かに待つばかりである。


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