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作品名:ディス・ユートピア 作者:alone

第8回 this utopia vii
「そういや」とエルが何かを思い出す。「今日のウェルの技、凄かったな。サド先生も褒めてたし。どうやったんだよ」
「ああ、あれも偶然知ったものなんだけど、旧時代にあった武器を参考にしたんだ。音響兵器ってもので、技術的には、強力な音波を断続的に照射して対象の行動を制限するものなんだ。音波に指向性を持たせられるから、特定の相手だけに当てることができて便利だったみたいだよ」
「じゃあそれを、《聴覚》を使って再現したってこと?」と右隣からノア。
「そう。僕なりに、音波を超音波にすることで気づかれないようにして、対象を絞って内耳だけを狙うことで平衡感覚だけを攻撃するように改良してね。でもまあ、サディアス先生にはバレバレだったみたいだけど」
 僕は苦笑いを浮かべて、頭の後ろを掻いた。
「それでもすごいよ。私なんかには全然できないもん」と今度は左隣から、ミアが僕のことをフォローしてくれた。
「でも、行動を制限するってそれで武器の意味ある? 殺傷能力ないんじゃ使い物にならないだろ?」
 眉間にしわを少し寄せて、珍しくエルが考え込んでいる様子で訊いてきた。エルはあまり知識情報のダウンロードを積極的に行う方ではないけど、戦闘に関わることなので興味が湧いているのかもしれない。
「殺傷性については、サディアス先生が言ってたみたいに強さの加減で変わってくるんだ。強力な音波を浴びせ続ければ内臓とかを破壊することもできるみたいだよ。でも、旧時代のころは主に非殺傷目的で使われてて、暴徒の鎮圧とかに使われてたんだってさ」
「暴徒?」エルが首を傾げる。「何だよそれ」
 エルは興味のない分野の知識には本当に疎い。僕は心のなかで溜め息を漏らしつつ、説明を加える。
「暴徒ってのは、権力者や指導者に不満があって反発から暴力行為や破壊行為をはたらく人たちのことだよ」
「でも私たちが《神様》に不満なんて感じることないよ。旧時代の人たちには《神様》みたいな方がいなかったの?」
 ファイが横から話に割って入ってきた。彼女の言い分は正しいことだと思えた。もし《神様》に近しい存在が旧時代にもいたのなら、反発する人々なんているはずがない。《神様》は完璧な存在だ。だからこそ神様なんだから。
「もしかすると、《神様》みたいに完璧な存在はいなかったんじゃないのかな」
 そう言ったのはノアだった。僕は「と言うと?」とノアの方を向いて訊ねる。残りのみんなも同じくそうしていた。特に参加していなかったスカイも少なくとも興味がある様子だった。
「旧時代は歴史を見てもそうだけどさ、世界を一つに束ねるような存在はいなかったんだ。たくさんの国に分かれて、それぞれが代表者を決めていた。それに国単位で見ても、永い間にわたって人々をまとめられていた人はいなかった。そんなころころ変わる指導者が毎回、すべての人に愛される優れた人物だとは思えない。《神様》は完璧な存在だから誰かが不満を抱くなんて有り得ないことだけど、完璧じゃない、何かが欠けているような指導者には、やっぱり誰かしら不満を抱いてしまうものなんじゃないかな。もしどこか著しく能力が欠けている人が指導者になって、それが自分には簡単にできることだったんなら、自分より劣る奴に従おうとは思わないよ。だから反発が起こるんだ」
 ノアの言葉の運びにはまるで淀みがなかった。普段からこういうことを考えてたりでもするんだろうか。
「なるほどなぁ」
 エルが感嘆の声をあげる。エルもこういうことに興味を抱くようになったのかと見る眼を変えようと思ったが、次の言葉を聞いて止めることにした。
「つまり俺たちには完璧な《神様》がついてくれていて良かったってことだな。うん」
 やっぱりエルはエルだ。まあそれで良いのかもしれない。それがエルらしさなんだから。
「まあそんな感じで良いよ」ノアは呆れて笑っていた。「それより、俺はスカイが今日やったやつがどうなってたか知りたいな」
「ん? 私の?」
 スカイは食べようとしていた立方体を口のすぐ前で一時的に止めて反応した。でもまたすぐに口のなかに入れて、皆に見られていようがお構いなくモグモグと食べる。マイペースな性格のスカイらしい。
 スカイは食べていた立方体をようやく飲み込むと、彼女のペースで話し始めた。
「あれは水素爆鳴気ってのを使っててね。《温覚》と《抵抗覚》で高温高圧を水に加えて臨界状態にするわけ。そうすると水が酸水素ガスってのに変わるんだけど、もっと熱と圧力を加えてやると酸水素ガスが発火して、瞬時に水に戻っちゃうの。でも臨界点を超えてるからまたすぐに膨張して酸水素ガスになって、それでもまた水に戻ってまた酸水素ガスになってって繰り返すんだよね。それでタイミングを見て、水が酸水素ガスに変わる瞬間に《拡張感覚》を解いてあげたら、そのまま水蒸気爆発するんだ。超高温の水蒸気がぶわぁーってね」
 スカイは、まるで昔教わった童話を話し聞かせるみたいな口調で楽しげに話していた。でもきっとスカイの言葉をちゃんと理解できたのは誰もいないと思う。スカイの口調と話の中身はかけ離れていた。さも簡単なことのように話していたけど、今の僕たちには再現することなんて不可能だ。スカイだから出来ること。改めてスカイの凄さを痛感する。
「ほぇーさすがだなスカイ。とりあえず俺らも頑張んなきゃな」
 そう言ってエルはトレーを持って食器を片づけに行った。話していたわりには食べるのが早い。僕の皿にはまだ数個の立方体が残っていた。
「じゃあ、おっ先ー」と手を振って、エルは食堂を出ていった。それに続くように、「私も」と言ってファイがトレーを片づけて出て行く。
 僕も帰ろうと思い、残っていた立方体をちゃっちゃと食べ終える。部屋にでも帰って、今日の訓練前に見つけた音楽の知識情報を再生して聴いていようと思ったんだ。でも、トレーを持って立ち上がると、ほぼ同時にノアも食べ終えて席を立った。
「あ、ウェル。このあと暇?」
「ん、まあ特別な用事はないけど」
「じゃあ訓練付き合ってくれない? 先生にやられて、なんだかモヤモヤしてるんだ」
 訓練……それも良いかな。今日の演習はすぐ終わっちゃって、身体をあまり動かした気がしなかったし。
「うん。良いよ」
 そう答えて、僕らはトレーを片づけると、食堂を後にした。


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