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作品名:ディス・ユートピア 作者:alone

第5回 this utopia iv
 十メートル以上の距離を置いて対峙する、サディアス先生とスカイ。空間を満たす空気は固く張りつめている。
 サディアス先生の纏っている雰囲気は今までのものとはまるで違う。本気。そう感じさせる何かが、先生の身体からは発せられていた。もしかすると殺気かもしれない。そうせざるを得なくさせるものを、スカイは内に秘めている。
 サディアス先生は無闇に動かなかった。全神経を注ぎ、スカイの動きを警戒している。でももしかすると、実は動けないのかもしれない。高次元の戦いでは、僅かな動きで戦端が開かれてしまう。そうすれば戦闘が圧縮された瞬間が、息つく間もなく連続する。だから互いに気を極限まで張り詰めさせ、逆に戦闘の開始を制限してしまっている。
 そんなことを考えていたが、次の瞬間に起こった展開は、予想とはまったく違っていた。
 スカイが先に動く。サディアス先生がスカイの動きに身構えた。が、スカイが取った行動は、先生に向けて右手を差し出すということだった。
 まるで一緒に踊りましょうと誘っているような、しなやかな動き。先生は完全に面食らっていた。一体スカイが何をしようとしているのか、見当もつかないという表情だった。
 スカイは胸の高さで右手を留める。そして何かの《拡張感覚》を発動させたようだった。彼女の右掌に微小物体が集まっていく。けれど、それが何であるかは、まだ分からなかった。
「あれ何か分かる?」
 隣に座るミアに訊ねた。ミアは《拡張感覚》の《視覚》が得意で、視力を上げるなんてことは造作もなかった。
「あれはね……」ミアは《視覚》を使って視力を上げ、スカイの掌の上に集まりつつあるものを確かめた。「水。小さな水滴みたい」
「水滴? そんなの集めてどうするんだ」
 僕はまたスカイの動向を注視し、その先の展開を見つめる。おそらくサディアス先生のことだから、スカイが集めているものは水だということにはもう気付いているだろう。けれど、これからスカイが何をしようとしているのかは、分かっているのだろうか。先生はまだ動き出さない。スカイの観察を続けるつもりらしい。
 スカイの右掌の上で、今では直径数センチほどの球体が浮かんでいた。そこでスカイは水分を集めるのを止め、次のステップへと移る。今度は左手も前に出し、そして両手をゆっくりと広げた。それに合わせ、水の球体はふわふわと前に飛んでいく。けれど、それ自体は攻撃と言うわけではないようで、数メートルほど飛ぶと、止まった。
 瞬間、スカイの《拡張感覚》が切り替わり、水の球体を中心に半径二メートルほどの空間が球状に選択された。それを見て、サディアス先生の目つきが変わった。
 刹那、スカイは広げていた両手を一気に近づける。けど手は合わせない。僅かな隙間を残し、ギリギリの距離を保っていた。
 また、手の動きに従い、選択されていた球状の空間が、一瞬で、直径一センチにも満たない球体へと圧縮された。そしてさらに、畳み掛けるように二度三度と、同様に圧縮が重ねられる。結果、直径一センチにも満たない球体には、想像もつかないほどの圧力がかかっていた。
 パンッ――スカイが手を合わせた。そして同時に、圧縮された球体が、弾けた。
 それから起こったことを正確に理解することはできなかった。唯一分かったのは、スカイの圧縮した球体が弾けた瞬間、サディアス先生が全力でその攻撃の無力化を図ったということだ。しかし、サディアス先生が迅速に対応したにもかかわらず、完全な無力化はできなかった。耳をつんざく爆発音と、激しい風圧。それらが先生の手を零れて、僕たちにも襲いかかった。突然のことに耐えるので精一杯だったが、幸い致命的なダメージは受けなかった。きっと先生は最初から、致命傷になりうる攻撃だけに絞って無力化を行っていたんだろう。
 けれどそれは裏返せば、サディアス先生が全力をもってしても、スカイの攻撃を完全に抑えることができなかったということでもあった。


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