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作品名:ディス・ユートピア 作者:alone

第14回 dys utopia v
 谷底へと下りていく最中、サディアス先生によって今回の《悪魔狩り》の作戦が説明される。
(さっき見た感じでは障害になりそうなものはない。作戦としてはまず、問題になると思われる場所は俺がすべて最初に破壊する。といっても反抗する可能性のある《悪魔》が潜んでいると思われる場所だ。他の場所には居ないとは限らない。油断はするな。俺の攻撃が終わった後は、お前たちの出番だ。全力を尽くして町を破壊しろ。全力で、だ。情けも容赦も必要ない。この町は旧時代の遺産かもしれないが、今じゃ《悪魔》どもの巣窟だ。《悪魔》は文明を奪う。この町の歴史が《悪魔》どもに塗り替えられちまうぐらいなら、その前にことごとく破壊してやるのがせめてもの弔いだ)
(僕たちが全力で町を破壊するとして――)ノアが言葉を挟む。(その間、先生は何してるんですか)
(ああ、俺なら問題が起こらないようにちゃんと見守っててやる)
(見守る……だけ?)とファイ。
(だけって言い方はちょっとアレだが、まあそういうことだな)
(…………サボり?)スカイが呟いた。
(ちがっ、どうしてそうなる!)サディアス先生が感情を表に出して反問する。
(だってなんだか、せんせらしくないしー)
(疲れてるんですか?)と僕は訊いてみる。(ここに来るとき汗すごく掻いてたし、だいぶ消耗してるんじゃないですか?)
(う、別にそういうわけじゃ)
 サディアス先生は言葉を濁した。一方、頭の中には他のみんなの声が溢れる。そういえばそうだった、とか、あのとき無理してたんだ、とか、だいぶ早く飛ばしてたもんねー、とか、色々な言葉が飛び交う。あまりにもたくさんの言葉が行き交い、耐えきれなくなったのか先生は言った。
(ああもう、分かった。そうだ。疲れてんだよ。来るとき力を使いすぎたからな。帰りの分とかに備えて節約しなきゃいけないんだ)
 本音丸出しのサディアス先生の言葉を聞いて、頭のなかは笑い声で満たされた。
(最初からそう言えば良いのに)とファイ。
(そうだよサド先生)とエル。
(素直じゃないなー)とスカイ。
 《悪魔狩り》を前にした、最後の和やかな時間。笑い声が次第に遠のいていき、完全に止んだとき、僕たちの足は再び地面を捉えた。
(大丈夫ですよ)そう言ったのはノアだった。(先生の手は煩わせません。だからしっかり休んでいてください)
 これには誰も言葉を付け加えなかった。僕たちの総意に違いなかったからだ。
(ああ……そうだな)
 サディアス先生は感慨深げにそれだけ言った。その顔は少し笑っているように見えた。
 僕たちは繋いでいた手を離し、目の前を見据える。旧時代の町並み。通りには黒い影が歩いている。表情が自然と引き締まる。油断なんてない。情けも容赦も捨てている。それどころか、全力を出したくて身体はうずうずしていた。いま僕を支配しているのはたった二つ。《悪魔》への憎悪。そして、《神様》への愛情。
 サディアス先生は町に向けて手を翳す。
(さあ《悪魔狩り》の始まりだ)
 サディアス先生は翳していた掌を握る。次の瞬間、爆発音が辺りに響き、町の数ヶ所から黒煙が上がる。町からは奇声としか思えない叫び声が聞こえてきた。《悪魔》が鳴いているのだ。胃がムカムカしてくる不快な声で。
(行って来い。お前たちの出番だ)
 サディアス先生の言葉に、僕たちはみな、はい、と返して歩き出す。身体に掛かっているリミッターを外し、もしもに備えて身体能力を最大限にまで引き上げる。《拡張感覚》はそれぞれが得意にしている感覚に全力を傾注する。そしてエルが最初に飛び出した。
 エルは《拡張感覚》の《触覚》を使い、空間上に視覚的には見えない手足を作り出す。《拡張感覚》を使っている僕らにはぼんやりとだけ見て取ることができた。その手足の大きさはともに、エルの身長ほどの大きさにまで膨張されている。そして不可視の手足はエル自身の手足と連動していた。エルが目の前の何もない空間に拳を振るえば、町の一角で倒壊が発生する。大きさが増している分、威力も増している。拳ひとつで旧時代の家屋は簡単に砕け散った。続けてエルは目の前を蹴りあげる。連動して、見えない足は家屋の上部を吹き飛ばし、無数の瓦礫を町全体に降らせる。そこら中から奇声が上がった。中には断末魔の叫びなのか、より一層甲高い、気持ちの悪い声が混ざっている。
 次にファイが出た。ファイは地面に手を触れて、そこで《拡張感覚》の《冷覚》を使う。冷気を操ることのできる《拡張感覚》である《冷覚》。次の瞬間、地面を介して、一定範囲の接地しているものが何もかも凍りついた。家屋は完全に氷に呑みこまれ、通りを逃げ惑っていた《悪魔》どもは悲鳴を上げる間もなく氷漬けになる。そこにエルの瓦礫が降り落ち、凍っていたものはすべて粉々に砕け散った。細かな氷の粒子が陽の光を受けて、きらきらと輝いて見える。
 そこにミアが続く。さんさんと照っていた陽光がわずかに弱まる。太陽の前を雲が横切っているのかと思ったが、空は青く晴れ渡っていた。ただ空には太陽の他に、もう一つの球体が浮かんでいる。黒い球体。あれはミアの《拡張感覚》の《視覚》によるものだ。《視覚》は光を操ることのできる《拡張感覚》。いまミアは陽の光を一箇所に集めている。光が漏れ出て来ないために、そこは真っ黒な球体として視認される。すると次の瞬間、町が切り裂かれた。何が起こったのか始めは分からなかったが、エルが破壊した建物から上る粉塵の中を、赤や青、緑の線が行き交った。レーザーによる攻撃。波長の異なる光が混ざり合う太陽光の中から、単一波長の光を作りだし、なおかつ高密度の光エネルギーとして照射している。戦闘訓練は苦手としているが、ミアは繊細な作業に関してはずば抜けている。だがレーザー照射は高い技量を必要とするもので、ミアの能力でもレーザーを作り出すので精一杯のようだ。レーザーはコントロールを失い、町の中を縦横無尽に駆け回っていたが、十秒もしないうちに消え失せる。レーザー光を維持するだけでも相当な力を消費する様子だ。
 今度はノアが動く。ノアは《拡張感覚》の《温覚》を使い、派手な爆炎を巻き起こす。ミアのレーザーによって綺麗に切り裂かれた町並みは、無残な瓦礫に早変わりしていく。無数の爆発音に混じり、奇声の悲鳴がこだました。しかしまたすぐに爆発音に掻き消される。《悪魔》は誰に向けているのか分からない断末魔の叫びを上げながら、声と共に蒸発していく。後に残るのは黒い影。死んでもなお世界を汚し続ける。
 次にようやく僕は動き出した。さすがにスカイの後には何も残らない気がしたからだ。僕はおもむろに地面に手を触れて、《拡張感覚》の《聴覚》を使う。強力な低周波音や超低周波音を町全体に向けて放ち、周波数を細かく弄る。そして固有振動数が合致した家屋は共振現象によって地震に襲われたかのように揺れて崩壊していく。さらに逃げ惑っていた《悪魔》どもは口からどす黒い液体を吐き散らしながら倒れていく。内臓が固有振動によって共振し破裂した結果だ。
 最後に、スカイが満を持して出る。スカイは得意とする《拡張感覚》の《抵抗覚》を使い、そして指をパチンと鳴らした。次の瞬間、たった一瞬の間に、町はその姿を消す。いま目の前に広がるのは、ただの平面。町並みはスカイの《抵抗覚》による圧力操作で、瞬きよりも短い刹那に押し潰された。悲鳴や爆発音も何もない。ただ静かにすべてが均された。後には何も残らない。町並みも《悪魔》も何もかもが区別も差別もなく粒子となって土に還っていた。
 細かな操作を無視した、威力重視の攻撃の数々に、旧時代の町並みは跡形もなく破壊された。辺りに漂うのは今では、歩くたびに舞い上がる埃と、《悪魔》の体臭と死臭が混ざり合った酷い悪臭。鼻がもげそうだ。いや、鼻を引き千切りそうだの間違いか。
(あらかた片付いたな)サディアス先生の声が入ってくる。(あとは残党処理だ。手分けして、生き延びた《悪魔》がいないか探してこい。ここまで来て油断はするなよ。どんな生物も追い込まれたら何をするか分からないからな。それと、あまり遠くにも行かないこと。《思考同調》は頭話(とうわ)と違って、範囲に制限があるからな。誰の声もしなくなったと思ったら引き返せよ)
 サディアス先生の指示を聞き、僕たちは各々バラバラな方向に歩きだす。僕は川に沿って進み、さっきまで町があった場所からは少し離れた森の方へと向かった。


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