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作品名:掌の囁きに耳を傾けて 作者:alone

第9回 探偵だけでは成り立たない − 【探偵】
名探偵さえいれば事件が解決すると思っては居ないだろうか? もしそうなら、それは甘すぎる考えというものだ。推理小説世界はそんなにも甘くはない。
もちろん名探偵というのは華となる主人公であり、彼が事件を解決することがメインなのだが、探偵と事件だけというのでは芸がない。
皆さんもお知りだろうが、シャーロック・ホームズに登場するジョン・H・ワトスンしかり、エルキュール・ポアロに登場するアーサー・ヘイスティングズしかり、ブラウン神父に登場するフランボウしかり。有名な名探偵たちには助手、または相棒と呼ばれる役が存在する。
彼らは物語を面白くするために用意され、手がかりを見つけたり提供したりすることで名探偵が解決に至る手助けをしているのだ。
そして、かくいう私も名探偵の助手をいま務めているところだ。

目の前には背中を刺された中年男性の死体。名探偵であるハウジズとともに、その助手を務める「私」ことトマスンは偶然にもその場に居合わせてしまった。
現場は山奥の洋館。私たちは突然の土砂降りに雨宿りをさせてもらっていたのだが、唯一の道で土砂崩れが起こってしまい、我々はこの洋館に閉じ込められてしまっていた。なんてベタなクローズドサークルなんだ。
メイドの一人が食事の用意ができたことを伝えるために洋館の主の部屋を訪れたが、なぜか返事がないということで無理やり部屋に押し入ってみると、なんとこのざまだ。背中にナイフが一本付き立っており、そこを中心に赤い染みが服に広がっている。
名探偵であるハウジズは見せ場と言わんばかりに死体に駆け寄り、その脈を取った。
「死んでいます……」ハウジズが重い口調で台詞を決める。
その場に響く驚きの声。まあ、見た時点で死んでいるとは思っていたが、その場のノリと雰囲気というものを尊重しなければならないからな。私も「なにッ?!」とそれっぽく驚いておく。
私はふと視線をその場に居た他の人々の方に向けてみる。驚く人々の顔、顔、顔。だが、その中にほくそ笑むやつが一人。
おい、明らかに犯人お前じゃねえか。もっと役をしっかり演じろよ!
私は視線を外し、なんとか見なかったふりを努める。
もちろんそこでそのことを指摘して事件解決というのが一番手っ取り早いのだろうが、私は助手だ。助手が事件を解決するわけには行かない。
だが、犯人役の失態についてはちゃんと上に報告しておいてやる。アイツは減給だろうな。
「皆さん、落ち着いてください」ハウジズが余裕のある声でみんなに語りかける。「私は実は探偵なのです。ですから私がこの事件の犯人を見つけ出してみせます。とにかく屋敷に居る人は皆、集まっていただけるでしょうか」
名探偵の言葉を合図に、時間が経過して場面が変わる。場所は食事も兼ねてダイニング。そこには全部で六人の人間がいた。その六人は老若男女さまざまだ。老いた執事に若いメイド、その他数名に、そしてあの犯人。
ハウジズは思慮深い名探偵を演じるつもりか、黙ってその場の人々の観察にあたっていた。まあ、ここは私の出番なのだろうと思い、私は話を始める。
「私は彼の助手をしているトマスンと言います。まずは皆さんのお名前を聞かせていただけますか?」
それぞれに名乗っている人々。犯人はもったいぶったように最後に答える。
「オレの名前はキルヒム・ゴージェイル。殺されたアイツとは旧友でな。ヤツに呼ばれてこの屋敷に来たんだが、急に雨が降り出したもんだからココに缶詰めってわけだ」
キルヒム・ゴージェイル……kill him go jail... 明らかに犯人じゃないかッ! 作者はもう少し普通の名前を付けてやれよ!
私は吹き出しそうになるのを抑えながら、メモ帳にその名前を一応記しておいた。

それからは現場検証やアリバイ確認。ベッタベタなことでベタベタと塗りたくったストーリーを進んでいく。
私は犯人が誰であるかもう分かっているのだが、間違った推理などをドヤ顔で名探偵に語って彼に一蹴されたりという助手の役目を務めながら、なんとか物語は最終局番を迎えた。
「犯人はあなただ! キルヒムさん!」
ハウジズは彼を指さし、最後のポーズをビシッと決めた。犯人であるキルヒムはしょうがなかったんだと泣き崩れ、物語は無事終わりを迎える。
晴れ上がった空の下を歩きながら、私はハウジズに話す。
「いやぁ、今回も大変な事件でしたね。でもさすがハウジズさん。やっぱり名探偵ですよ」
「いやいや、そんなことはない。論理的におかしなことを消していって、最後に残った真実を告げただけですから」
ハウジズは謙虚な人間を装っているが、顔はニンマリと歪んでいた。やっぱり俺はすごいとか思っているんだろうな。
私は内心溜め息を零した。助手というのも大変だ。


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