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作品名:掌の囁きに耳を傾けて 作者:alone

第5回 言葉の波止場A
すべて会話文になっています。

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題名:「『自由』ってなんだよ」


「いやぁ〜、マクド美味かったな」
「ああ。マック、久々だったけど、良かったわ」
「ん? マクドはマクドだろ。なにがマックだ。関東人気取りかよ」
「いや、マックだろ。つか、マクドって言うのは関西だけで、そっちが少数派だろうが」
「知らねえよ。マクドはマクドだ。お前もこれからマクドって言えよ。マックなんて言われた日には、気になってしょうがねえだろ」
「おいおい、どんな強制だよ。マックって言おうが、マクドって言おうが、それは俺の自由だろうが」
「なにが自由だよ。なんでも自由って言葉で済むと思うなよ」
「なんだよそれ。お前は独裁者かなにかかよ」
「ああ、そうだ。だから、俺の言うことを聞け」
「おいおい……、どんどん話がこじれていくだろうが……。俺はお前の妄想帝国の住人になった覚えもないし、お前に呼び方を強制される筋合いもないぞ。だから、俺はマックって呼び続けるからな」
「なんだよ。じゃあ、俺もマクドって呼び続けるからな。それは俺の『自由』、だろ?」
「ああ、勝手にしろよ。別に俺は、お前がマクドと呼ぼうが何の気にも障らねえからな」
「ちょ、それはひどくね。そこはお前が何かを言い返して、俺との掛け合いが起こるところだろ」
「別に掛け合いならすでに済ませただろ。これ以上続けても何も生まれやしねえよ」
「笑いが生まれるかもしれないだろ!」
「いや、一体誰が俺らの会話に笑ってくれるんだよ。当事者である俺ら二人しかいねえじゃねえか」
「そんな、つまんねえこと言うなよ」
「いや、実際つまんねえからな。マックかマクドか、なんて育った地域の問題であって、どちらかに統一するように強制するもんでもないんだから」
「お前のその発想力の乏しさがつまんねえよ。じゃあさ、俺たちだけで通じる新しい略称でも編み出そうじゃねえか!」
「いや、何のノリだよ。しかも、俺たちだけって、それじゃ実用性乏しすぎんだろ。まずそっちに頭回せっての」
「まあまあ、良いじゃねえか。暇なんだし」
「まあ、それを言っちゃなあ……。しゃあないか。少し付き合ってやるよ」
「よし。じゃあ、まずは正式名称の確認だな。マクドナルド。まあ、これは分かりきったことか」
「マックもマクドも『マ』と『ク』を使ってるわけだけど、俺たちの場合はどうすんだ?」
「どっちにも『マ』と『ク』は使われてるけど、重要視すべきはそいつらじゃないんだな、これが」
「どういうことだ?」
「マクドナルドって言葉で一番重要視されるべき一文字はどれか分かるか?」
「まあ、普通に考えて、頭文字の『マ』じゃねえの? 略称で頭文字を無視するわけにはいかないだろ」
「そこが甘いんだな」
「は? どこがだよ」
「マクドナルドで重要視すべきなのは、一文字目の『ド』なんだよ」
「ド? なんでそんなもんが?」
「お前、マクドナルドがもともと英語だってことを忘れているんじゃねえのか? マクドナルドって発音してみろよ」
「ま、マクドナルド……」
「そこ。そこなんだな、問題は」
「は? どこが問題なんだよ。普通だろ。別に訛ってるわけでもあるまいし」
「それが、訛りまくってんだな〜、これが」
「だから、どこが?」
「お前の『マクドナルド』は『マクド』で少し上がって、『ナルド』で少し下がって最初の高さに戻る感じだろ。例えるなら、小高い丘を登る感じだ。けど、本当の発音じゃあ、ひとつめの『ド』にアクセントがあって、それもその『ド』だけがめっちゃ強調されるんだよ。だから、日本訛りの『マクドナルド』は本場じゃまるで通じないという事態を引き起こしてるんだ」
「へえー、よく知ってんな、そんなどうでもいいこと」
「どうでもよくないだろ! これは由々しき事態なんだ!」
「いや、そうだろうけどよ。これから考えようとしてる略称は俺たちの間で通じ合いさえすれば良いわけだろ? 俺たちのどっちか外国人だったっけ?」
「そうやって下らないことを言って話の腰を折るもんじゃねえ! 俺は日本の未来を案じて言ってるんだー!」
「いやいや、だから俺たちだけしか使わないんだろ? って言ってんだよ」
「敵を欺くならまず味方からって言うじゃないか!」
「いや、使い方おかしいからね? 敵って一体誰だよ」
「ああーややこしくなるから、変なこと言うんじゃねえ―」
「おいおい……」
「それで、話を戻すわけだが――」
「まだ続けんのかよ……」
「ひとつめの『ド』が大切だというのは通じたと思う。つまり、『マック』より『ド』を含んでいる『マクド』の有能性は証明されたわけだ」
「はい? 新しい略称はどこ行ったんだよ!」
「そんなものは知らん。『マクド』が優秀、それでいいじゃないか、ワトソン君」
「またそれか! うっとうしいから止めろ! つか、お前がアクセントが大切だとかなんとか言ってたけど、『マクド』のアクセントは『ク』にあるじゃねえか。それはどうするんだよ」
「お前はさっきから否定的なことしか言わないな。何かもっと建設的な発言してくれよ」
「いや、『マック』否定主義に徹しているお前には言われたくないし、俺は『マック』だろうが『マクド』だろうが人の自由だろってさっきから何度も言ってるじゃねえか」
「なにが自由だよ。そもそも『自由』なんて曖昧な表現で逃げるんじゃねえ!」
「『自由』が曖昧って……どんな論点のすり替えだよ」
「フッ、まずは『自由』というものを定義付けしてから、俺に反論するんだな……」
「いや、お前は何者だよ。どこのラスボス気取りだ……」
「じゃあ、まず『自由』の意味って何なんだよ」
「また、この手の話か……。面倒くさいんだよな」
「何か言いましたか?」
「はいはい、どうせ何も言ってませんよ。聞こえてるくせにわざわざ訊くなっての」
「あれ、気付いてたの?」
「当たり前だろ……。逆に、なんで気付いてないと思ってんだよ……」
「まあ、とにかく! 『自由』の意味を考えるぞ」
「はいはい、どうしてもお前はその手の話をしたいんだな……」
「じゃじゃーん。ここに広辞苑が一冊あります」
「えっ? いや、何もないじゃん」
「この広辞苑によりますとー、『自由』とは、『一般的には、責任をもって何かをすることに障害がないこと』とのことです」
「え、なんだよこれ。裸の王様とかじゃあるまいし、心が綺麗な人間にしか見えない広辞苑とでも言うのか?」
「加えて、自由は一定の前提条件の上で成立しているから、無条件的な絶対の自由は人間にはない、とのことです」
「あっ、お前覚えてんだな? 前もって調べて、今そらで言ってるだけだろ。……ってことは、この話を最初からするつもりだったのか……」
「あっバレた?」
「バレた? じゃねえよ」
「まあまあ、良いじゃないの。話を先に進めましょうや」
「はぁー……付き合うしかないのか」
「付き合うしかないんですよ」
「うっせぇ、お前が言うな! それになんだよ、その笑顔。気持ちわりーよ」
「まあまあ、落ち着いて。『自由』について語り合おうじゃないですか!」
「嫌だよ! お前の筋書き通りになんか進んでたまるか!」
「おいおいー、そんなこと言うなよー」
「俺は帰る。『自由』についてなんて、どっかの野良猫とでも語り合ってろ」
「ちょ、ひどくね。そんなこと言うなよ」
「服引っ張んな。俺はそんな話に付き合うつもりは、ない!」
「少しだけ。少しだけでいいからさ」
「絶対に、嫌だ! それに、付き合うかどうかなんて俺の自由だろ」
「お? 今、『自由』って仰いましたかい?」
「あっ……」
「やっぱり、話したいんじゃないのー?」
「それは、断じてない!」
「またまたー」
「そんな風に言ったって、乗るつもりは毛頭ないからな。それに、今日はもうマックの話に付き合ってやっただろ。お前の話は一日一回までだ。今日はすでに上限を迎えています!」
「ちょ、いつから制限が設けられたんだよ!」
「ん? ついさっきから」
「さっきからかよ!」
「ま、だから諦めるんだな。『自由』の話はまた日を改めるということで。じゃあなー」
「おい、待てよー」
「待たねえよ。捕まったが最期だからな」
「俺はゾンビか何かかよ!」
「似たようなもんだろ」
「似てねえよ!」


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