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作品名:掌の囁きに耳を傾けて 作者:alone

第4回 言葉の波止場
すべて会話文になっています。

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題名:「『普通』ってなんだよ」


「なあ」
「ん? 何だよ?」
「思うんだけどさ、『普通』っておかしくね?」
「ふつう? 『ふつう』って、あの『普通』か?」
「おそらくお前が今考えてるであろう、『普通』だな」
「『普通』ねぇ。で、それがなんだって?」
「なんだよ。随分と雑だな」
「だって、お前のこの手の話は面倒くさいんだよな。哲学的というか、馬鹿らしいというか」
「んだよ、ひでえ言い様だな。いいよ、じゃあもう……」
「ああ、すまんすまん。気になるから話せよ。な?」
「いいんだよもう。お前があんまり乗り気じゃねえみたいだし」
「なんだよ、いい歳して拗ねんなよ。話してくれねえと今夜の寝つきが悪くなっちまうだろ」
「まあ、そこまで言うんならしょうがないな」
「はぁー……面倒臭い奴」
「何か言ったか?」
「いや別に」
「よし。じゃあ、話をしてやんよ」
「はいはい、話を聞いてやんよ」
「『普通』ってさ、一体どんな意味か分かるか?」
「『普通』の意味? 知るかよそんなもん」
「はーい、知らないことがあるなら調べる。ほら、電子辞書で調べろ。ほら、ほら」
「ああ! 鬱陶しいな! 調べりゃいいんだろ! 調べりゃ」
「…………出たかー?」
「うっせえな。そんなに気になるんなら自分で調べろっつーの」
「まあまあ、落ち着け落ち着け。そんなに怒ってっとハゲんぞ」
「うっせー、余計なお世話だ。――っと、ほら出たぞ。『ごくありふれたものであること。それがあたりまえであること。また、そのさま。』だってさ。これで納得したか?」
「ほうほう、そんな意味なのか」
「って、お前は前もって調べずに俺に調べさせたのかよ」
「え、だって面倒臭いだろ」
「おいおい、どの口がさっきの言葉を言ってんだか……」
「まあ、別に『普通』がどんな意味かなんてどうでもいいんだよ」
「はい……?」
「俺が言いたいのはさ、何をして良くて、何をしちゃいけないかを分けるときに言われたりする『普通』の話がしたいんだよね。まあ、この場合の『普通』は『常識』とかと言い換えられるかな。よく言うだろ、常識的に考えて、とか。こういう場合、普通に考えて、って言ったってどうせ同じ意味合いだろ」
「まあ、そうだな」
「けどさ、この場合の『普通』って一体どうやって決まるか気にならねえか」
「いや別に」
「おい!」
「はいはい、気になります。気になりますとも」
「だろ? それで思ったんだが、『普通』ってその場その時でころころと変わることねえか?」
「へえ、例えば?」
「た、例えばなぁー……えーっと、そうだ。 授業中に質問する時とかさ、日本じゃ手を挙げるのが当たり前だけど、欧米じゃそんなことしないで平気で先生に話しかけたりするんだよ」
「へぇ、そうなの」
「ああ、そうなんだよ。それで、その場合で考えりゃ、日本と欧米の『普通』な授業風景が全然違うってことだろ? だけど、それぞれの国ではそれがそれぞれの『普通』になってるってわけだ」
「ああ、なるほどな。少しはお前の話に興味が湧いてきたような気がするわ」
「おい、今まで興味一切なかったのかよ」
「……。まあ、先を話せよ。な?」
「はぁ〜、笑って誤魔化しやがって。まあ、いいや。それで、今言ったみたいに『普通』は場所によって違うものだし、時によっても変わっていくわけなんだよ。つまり、普遍的なものでもなければ、不変的なものでもないってこと」
「ん? ふへん、ふへん、って何言ってんだかさっぱりなんだが?」
「うっせー。黙って聞いてろ」
「へぇーへぇー」
「それで、『普通』は普遍でも不変でもないってのに、普通に考えて、とか言われるのはおかしいと思うわけだ」
「そういう捻くれた考えに至るお前を、俺はおかしいと思うわけだが――」
「……」
「睨むな睨むな。ほら、先を続けろよ。どうせ俺の疑問なんてお前の“高尚な”疑問とはレベルが違いますからねー」
「そこまでは言ってねえだろ! ま、話は続けるけどよ」
「続けんのかよ」
「続けろって言っただろ?」
「まあ……うん……」
「で、話は戻るけど、普通に考えろって言われても、その『普通』自体が万人に共通したもんじゃないわけじゃん? じゃあ、その場合の『普通』って一体どんな風に決められてるんだよ、って話になることね?」
「は? ……ああ、そうだな」
「随分と棒読みな賛同だな」
「賛同してやっただけ感謝してもらいたいもんだな」
「つか、お前も何か言えよ。これじゃ俺の一人語りじゃねえか!」
「ん? ん〜、面倒くさいなー……。えーっと、どうやって『普通』が決まるかだっけ?」
「おう、そうだ。お前はどう思う?」
「そんなもん、多数派が『普通』になってるだけに決まってるだろ。『普通』の意味自体が『あたりまえであること』なんだぞ? つまり、人目につきやすいたくさんあるものが、当たり前のものになって、最終的に『普通』になってるだけって話だろ」
「ああ、なるほどな。それはまともな意見だ」
「だろ? お前の話を聞き流してるだけじゃないんだぜ」
「おい、今まで聞き流してたのかよ」
「まあ、軽くな。……でも、軽ーくだよ。軽ーく」
「……」
「すまんすまん。そう気落ちすんなよ。話はある程度聞いてやってるっての。じゃなきゃ俺も発言なんて出来るはずないだろ?」
「まあ、そうだけどな……」
「ほら、そうだと分かったとこで話を先を進めようや。今のところ終わりが見えそうにないんだよ」
「そうだな。……。お前は、多数派が『普通』になってるって言ってるけどさ、俺が言いたいのは、時と場合だけじゃなく、『普通』って人それぞれでも違うもんだと思うんだよ」
「まあ、そうかもな」
「俺とお前とで『普通』だと思ってることも違うしさ、ましてや障碍者と健常者で『普通』が違うのなんて一目瞭然だろ? 生まれた時から目が見えない人にとって、それは当たり前で『普通』のことだけど、俺たちが急に目が見えなくなったりしたら、それは『普通』だなんて言える状況じゃないのは当然のことだ」
「お! お前の話である言葉思い出したわ。これと関係あるかは分かんねえけどな」
「どんな言葉?」
「アインシュタインの言葉だけどさ。たしかー……『常識とは18歳までに身につけた偏見の集合体のことを言う』、だったかな? 微妙に違いはあるだろうけど、確かそんな感じだったわ」
「『常識とは18歳までに身につけた偏見の集合体のこと』か……。それは言えてるな。それに、その場合の『常識』を『普通』に言い換えても同じような意味合いだよな」
「だろ? 俺もたまには良いこと言ってやるんだぜ。常に非協力的なわけじゃねえんだよ」
「普通、自分で非協力的って言うか?」
「その場合の『普通』はどんな意味で使ってるんだよ」
「そ、それはー……常識的に考えて、みたいな感じだよ」
「『常識とは18歳までに身につけた偏見の集合体のこと』だろ? お前の偏見を俺に押し付けんのかよ」
「うぐ……。痛いとこ突いてくんじゃねえよ」
「ハハハ。けど、この話って所詮はそんなもんってことだろ」
「ん? どういうことだよ」
「こんな話してたって答えはどうやっても見つけられないし、行き着く先は単なる揚げ足取りの押し問答ってことだよ」
「そんなもんかな」
「そんなもんなんだよ」
「……そんなもんか」
「つか、どうして『普通』が何かなんて話をしたかったんだよ。そんなもん考えたってしょうがないだろ」
「それはな、何日か前に提出することになってた英語の宿題を今日も忘れたんだけどさ、そのこと先生に言いに行かないで放っといたら、『普通に考えて言いに来るのが筋だろ』ってキレてきたんだよ。だから、『普通って何なんですか?』って訊き返したんだけどさ、また延々と説教をしてきやがったんだよ。うぜぇだろ?」
「いやいや、それはお前が悪いだろ。そんな宿題なんか、さっさと出せよ」
「いや、それは無理だな」
「なんで?」
「だってまだやってねーもん」
「……、おいおい。そこはせめてやっとけよ。つか、普通やるだろ」
「『普通』? 君の“偏見”を押し付けないでくれたまえ」
「はぁ〜……面倒くせぇー……」
「つか、宿題をやって出さなきゃいけないなんて誰が決めたんだ」
「それが普通だからだよ」
「逆に、俺の中では宿題はやらないというのが『普通』なのだよ、ワトソン君」
「誰がワトソン君だ。てか、単純にお前は宿題がしたくないというだけで、『普通』とは何か、なんて大仰な話を振ってきたってことなのか?」
「歴史に名を刻む偉人たちは、常に世間の潮流に逆らってきたのだよ、ワトソン君」
「だからワトソン君って言うのやめろっつーの。なんだよその急なキャラ設定は」
「別にいいだろー」
「おい、お前飽きてきてんだろ」
「え……、そ、そんなことねーよ。『普通』ってなんだろーなー」
「はぁ〜……いつもこれだから嫌なんだよ。この手の話は……」
「おいおい、そう言うなよ」
「じゃあ、訊くけどな。お前にとっての『普通』ってなんだよ」
「俺にとっての『普通』は……――――――『宿題はやらない』だ!」
「…………」
「ちょ、おい待てよ、待てって。黙って出て行くのはないっしょ。な? ちょ、待てって、頼むから。頼むから待てよ。いや、待ってください。待ってくださいよ、後生だから。後生だから俺に、俺に――――宿題を教えて下さい!」


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