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作品名:掌の囁きに耳を傾けて 作者:alone

第14回 ネットアイドル − 【アイドル】
学校から帰るとすぐにパソコンを起動して、私はいつものように生放送を始めた。
特に中身のない、ずっと喋っているだけの放送。人気があるわけではないけど、数名の常連さんさえ居てくれれば私には十分だった。
画面を「かわいい」や「マジ天使」などの言葉が流れていく。彼らは私を肯定してくれる。それが私には救いだった。


「おい、クソ原〜。口臭いから息すんなよ」
いつものように彼女たちがやってきて、私に罵声を浴びせる。私は怯えつつもなんとか言葉を返す。
「そ、そんなこと……毎日、歯みがいてるし…………それに……私は楠原……」
「はぁ? 聞こえねーし。てか、くせぇんだから喋んなっての。ウンコでも食ってんのかよ」
「ハハ、それマジ受ける。クソ原、毎日ウンチ食べてんの? ホントにクソ原じゃん」
彼女たちは好き勝手にものを言い、私を馬鹿にする。
けど私は何も言い返さない。もう何を言ったって事態が悪化するだけだと分かってるから。だから私は黙って彼女たちの罵声に耐え続ける。
こんなの毎日だった。彼女たちは私を罵るか、それか無視をするのが当たり前だった。彼女たちがそんなことをする目的は一つ。単に遊びなんだ。私がいつ学校に来なくなるかを、ゲーム感覚で遊んでいるんだ。
だから私は学校に行き続ける。私にはネットがある。私は決して負けない。


いつものように学校でいじめを受けたけど、私は家に帰って日課の生放送を開始した。
常連さんのコメントが流れてきて、私のことを肯定してくれる。ここが私の居場所。彼らが私を救ってくれる。
けどあるコメントを目にして、私は固まってしまった。
「あれ? 楠原?」
「え……?」と私は驚きのあまり、つい口から漏らした。その反応を見て私が楠原だと確信したらしく、新たなコメントがどんどんと画面を流れていく。
そして遂には私の名前のみならず、他の個人情報まで流された。どこに住んでいるか。どこの学校に通っているか。学校のどのクラスか……。
私は恐くなって、すぐに放送を終了させた。けど画面に放送終了の文字が表示されても、私は安心なんてできず、ただただ恐怖だけを感じていた。

翌日、私は恐れながらも学校に行った。今よりひどいことにはならないだろうとか、そんなことを考えていたけど、私は教室に入った瞬間にその考えが甘かったことを思い知った。
教室の戸を開けると一瞬にして教室の空気が止まった。いつもは無視をするはずの皆が、私のことを見てヒソヒソと話している。
嫌な予感が胸の内を過ぎり、そしてそれは的中してしまう。
「ねえ、クソ原〜。アンタ、ネットで生放送してんだって?」
心臓が大きく跳ね上がった。私は何も言うことができない。
「なにアンタみたいなキモいブスが顔出しとかしてんの? マジでキモすぎんだけど。死ねよ」
「そーそー。ブスのくせになに勘違いしちゃってるわけ? そんなに注目してほしかったら、さっさと自殺でもしてろっての」
「アハハ、自殺とかマジ受ける。そうだ、自殺を生放送すりゃいいじゃん。そしたらブスでも見てくれるキモい奴がいるって」
クラス中に響く罵声と嘲笑。私はその空間に足を踏み入れることなんて出来なくて、その場から逃げ出した。
でも私を引きとめてくれるような声はない。あるのは私を嘲笑う、気持ち悪い嗤い声だけ。

家に帰って私はすぐにパソコンを起動した。彼らなら救ってくれる。彼らなら肯定してくれる。彼らなら私の居場所をくれる。そんな想いに囚われながら、私は生放送を開始した。
来場者数がゼロから変わり、ようやく最初のコメントが流れる。
いつもと変わらぬ光景、そんなものを切望していたのに、私の望みは打ち砕かれた。
「クソ原、なに学校サボっちゃってんの? 死ねよ」
私は絶句した。けど画面には止めどなくコメントが流れる。
「キモいんだよブス。さっさと死ね」
「自殺しろよ、自殺」
「キモ。なにこいつ。世の中のために死んだら?」
「キモキモキモきm」
「自殺!! 自殺!! 自殺!!」
私はもう見ていられなくなり、すぐさま放送を切った。もう私の望んでいた場所なんてない。もうどこにも……。
その日以来、私は部屋に引きこもった。

 +

ネットしていると、偶然あのクソ原の放送を見つけた。それも今始まったばかりだ。
私は憂さ晴らしにでも荒らしてやろうと思い、クソ原の生放送にアクセスした。でもおかしなことに画面は真っ暗だった。
なにこれ……?
よく目を凝らしてみると、薄らとだけ人の姿を見て取ることが出来た。その人影はのそりのそりと動き、小さな灯りをともした。すると画面には驚きのものが映し出される。
真っ赤に染まった顔。ただただ気持ち悪いとしか言いようがない。私は思わず叫んだ。
クソ原はそのままカメラに顔を近づけ、そして言った。
「ねぇ、私って…………キレイダヨネ?」


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