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作品名:掌にのせて 作者:alone

第3回 即興小説『魚料理』
【お題:12月の魚 制限時間:30分】


 一人暮らしを始めて、魚料理を食べることがなぜだか少なくなった。
 理由は特にはない。無理やりひねり出せというのならば、調理が面倒だとか、後片付けが大変とかそのあたりになるだろう。
 もちろん全く食べないというわけではない。正確にいうのならば、自分で魚料理を調理することが無くなった、という方が正しかったろう。外食では普通に食べるし、定食屋に行けばついつい魚系の定食を注文してしまうということもある。
 だから、これと言った問題もない。単純に自分で魚料理を調理することが無かっただけだ。
 一人暮らしを始めた頃、そのことを母親に話したことがあった。というのも、小さい頃から母親が魚をさばく姿を見て、ずいぶん大変そうだと思ったことがあったからだ。僅かながらの賛同でも得られるものかと思ったが、母親は小馬鹿にするように笑って、言った。
「魚なんて案外簡単なのに」
 なんだか裏切られたような気もしたが、母親にすれば料理なんて簡単と言えるものなんだろう、と思った。俺とは違うからな、なんて無理やり割り切って、自己の考えの正当化を自分の中だけで行っていた。
 そのため、母親に訊いた当時からもう数年過ぎたが、俺は未だに魚料理を避けて一人暮らしを送っている。働くことで財布がある程度潤うようになって、惣菜を買ってすませば良いと考え出したことも原因の一つにあったかもしれない。
 まあ、単純に面倒くさかったというだけだ。俺の生き方は所詮その考えに根付いて回っている。
 だが、ある日、ある年を境に、俺は魚料理に手を出してみた。スーパーに行けばすでに切り開かれた魚が並んでいるというのに、俺は生魚を買い、手を魚の血で染めながら、なんとか内臓を取り出した。
 思った通り、やはり面倒くさい。こんなのが簡単だと言える理由が分からない。
 俺の初めての魚料理は、妙に生臭くて嫌なものだった。箸も全然進まず、数口つけて食べることをあきらめた。
「やっぱ魚料理なんてするもんじゃねえな……」
 俺は誰に向けるでもなく、一人つぶやいた。

 しかし、時間が経ってみると、昔の苦労を忘れ、また俺は魚料理に手をつけてみたりした。やはり難しい。今回も失敗作を虚しく食べて、一人みじめな思いをしただけだった。
 何度も失敗をして、何度ももう手を出すのはやめようと思った。けれど、まるで習慣がついてしまったかのように、俺は毎年一度だけ魚料理をするようになった。
 変な話だ。あれだけ面倒だからと遠ざけていたのに手を出して、もう二度とするかと思うのにまた手をつけてしまう。そして、また失敗をして、来年も同じことをするというわけだ。
 そして、今年もその時がやってきた。
 俺はカレンダーで今日の日付を確認すると、おもむろにスーパーへと向かい、生魚を一匹買った。
 いつものごとく包丁で魚の腹を切り、手を血染めにしながら内臓を取り出した。鱗を適当にとって、醤油や味醂を合わせたものと一緒にフライパンの中で煮込む。
 十数分の後、ようやく完成した魚を皿の上にのせて、俺はご飯片手に魚の肉をつついた。
 相変わらずお世辞にも上手いと言えたものじゃない。なんともお粗末な出来だ。まるで成長が見られない。
 俺は手に持っていた箸とご飯を机の上に置き、おもむろに天井を見上げてつぶやく。
「あぁ〜……やっぱ魚料理は俺には簡単じゃねえな……」
 俺は溜め息交じり呟いた。
 全くその通りだ。俺には魚料理が難しすぎる。家で昔見つけた母親のレシピを見ながら作ったというのに、この出来だ。お袋の味を自分で再現するというのに変な話だが、実行しては見ても成功したことはなかった。
「また食いてえな……。お袋の魚……」
 天井の電燈を見つめながらつぶやいた。

 時期は12月。うすら寒い中、俺は一人、母親の命日を過ごしていた。


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