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作品名:必要とあらば悪魔も正義に加担する 作者:alone

第6回 初任務 参
 三十分ほどかけて目的地である廃ビルに到着した。そこに至るまでの車内では、出来上がった作戦の確認が行われた。俺に最も関係するルピナスさんの言葉を一部抜粋するとこうだ。
「ターゲットのスペードが居るのはおそらく最上階の一室だろう。というのも、相手は最上階の一室に至るまでの道順を指示してきたからだ。おそらく途中にカメラなどを仕掛け、こちらの人数などを確認するためだろう。したがって、その他の道を行かせないために、その道順以外にはトラップの存在が考えられる。今回の潜入部隊は、ホウセンカと佐藤の二人だ。しかし、佐藤にトラップを掻い潜って最上階まで行くことは不可能だろう。であるから、今回は佐藤が指示された通りの道を行き、ホウセンカがトラップのあるその他の道を行くこととする。故に、佐藤はターゲットと接触することとなる。だが、ホウセンカやヒマワリがバックアップするから死ぬことはないだろうから、安心はしろ。ただ、ターゲットは刺激しないようにな。ターゲットが過敏になってしまったら、ホウセンカが裏を取るのが困難になってしまうからな」
 ということで、俺は潜入するうえにターゲットと接触することとなった。十三件の事件に関与していると考えられている殺し屋に、である。さすがに怖い。ビビりすぎて呼吸が常に荒くなっているほどだ。過呼吸になったっておかしくない。
 しかし、俺がどうであろうと車は勝手に進み、例の廃ビルの前に停まる。そして、作戦が始動する。
「じゃあ、ツワブキ。索敵の方を頼む」
 ルピナスさんはツワブキさんにそう頼んだ。ツワブキさんは「よしきた」と言って、廃ビルの方を見つめる。
「予想通り、ビル内にはターゲット一人だけみたいだな。それ以外に人影は確認できない。それに、居る場所は見た感じ、最上階の一番端の部屋だ。これといった動きを見せていないから、そこから動くつもりはないだろうな」
 なぜツワブキさんがこのように分かるかというと、もちろん能力の力によるものだ。彼の眼には魂的なものが見える。そのため、ビルの壁などを透過して見ることが可能であるので、こうやって外から敵の数や位置を視認することができるのだ。人が多数いる場で特定の人物を見つけることは困難ではあるが、能力を持つ者の存在を知ることもできる。そして、今回もその能力が力を発揮した。
「あちゃー……この感じ、相手も能力者だな。距離があるから見間違いもあるかもしれねえけど、たぶん能力者だわ。どうする? 作戦変更するか? 新人の佐藤くんにはちと荷が重いんじゃねえか?」
 ツワブキさんの言葉に対し、ルピナスさんはしばらく考え込む。その間に丞が口を挟んだ。
「俺の計画通りに行けば、佐藤でも成功することができるはずです。それに、相手が能力者である可能性は最初から考慮していたので大丈夫です」
「あれ、そうだったの? なら、要らん心配だったな」ツワブキさんが照れたように笑った。
「そうですよ。俺の計画、舐めないでください」
 丞はドヤ顔をきめて、そう言った。対するツワブキさんは「すまんすまん」と言って笑っている。
「じゃあ、少し問題も浮上したが、作戦は続行だな」
 ルピナスさんがそう纏め、廃ビルの設計図を取り出しターゲットの居る場所を指し示す。
「ターゲットの居場所はここだ。この部屋の窓の位置を考慮すると、狙撃のベストポイントはこっちのビルになるだろう。ヒマワリは今からそこへと向かってくれ」
 ルピナスさんのその言葉に対し、ヒマワリさんは「はい」と短く答え、狙撃銃の入ったバッグを肩にかけて外へと出ていった。残ったメンツで話が進む。
「ルドベキアとツワブキは緊急時に備えてこの場に俺と待機し、刻々と変化する状況に対応することとする。残りの二人については、表扉が封鎖されているから、佐藤はターゲットに指示された通り裏口から入れ。ホウセンカについては一階のこの窓から潜入してもらう。では――」ルピナスさんは時計を確認する。現在時刻は11:50。「作戦決行は12:00ジャストからとする。二人は配置についてくれ」
 俺とホウセンカは「はい」と声を揃え、バンから降りていった。

 途中でホウセンカとは別れ、俺は一人で裏口に立っている。車内で渡されていたインカムを耳に付けて、俺は裏口に待機していた。インカムから声が聞こえてくる。ルピナスさんの声だ。
「あーあー、マイクのテスト中。マイクのテスト中。どうだ? ちゃんと聞こえるか?」
 ヒマワリさんやホウセンカが大丈夫であることを伝えるのを聞くと、俺も「大丈夫です」と言う。
「よし。現在時刻、11:59。一分後に作戦を開始する。12:00になれば、まずはホウセンカが中に侵入しろ。その五分後に佐藤が裏口から入るんだ。それからは渡した紙に書いてある通りに進んで行くんだ。ヒマワリはスコープによる敵の目視ができれば報告するように。では、12:00より各自作戦を決行するように」
 そうしてインカムからは声が届かなくなる。かすかに雑音が聞こえる程度となった。
 腕時計を見て時間を確認する。デジタル表示の秒数が進んでいき、ちょうど今、時刻は12:00となった。
「ホウセンカ、ビル内に侵入します」
 インカムからホウセンカの声が届く。冗談っ気のない真面目な声色だった。
 始まったんだ、という思いが巡り、何もせずにじっと待っていられなくなる。だから、俺は道順の書かれた紙を取り出し、再確認する。
 ビルは七階建てであり、北に表口、南に裏口があるうえ、ビル内には東西それぞれに階段が上へと伸びていた。エレベーターは中央にありはするが動力は供給されておらず、形だけという有り様だった。
 ターゲットから指示された道順は、裏口から西階段を三階まで上がり、そこで東階段まで廊下を通ってから東階段で今度は五階まで上がった後、また西階段まで戻って七階まで来るように、というものだった。なぜこんな回りくどい行き方をしなければいけないのか分からないが、ターゲットには何か考えがあるのだと思われた。
 道順を決して間違えないために、目に刻みつけるがごとく何度も確認する。まるで単語テストの前に単語帳を見続けて悪あがきをしているような感じだった。そういう時に限って、時間なんてすぐに経ってしまう。
 腕時計を見ると、もう12:04が終わろうとしている。俺は紙をポケットにしまい、落ち着こうと深呼吸をする。
 二、三度した後で時間を確認すると、12:05に変わるところだった。俺の初任務が始まりを迎える。

 ビル内は静寂に支配されていた。
 随分と長く潤滑油が注されていない扉はキィーと甲高い音をビル内に響かせ、閉じる際にはバタンッという乾いた音を鳴らす。その音がビルの奥に吸い込まれるように反響すると、ふたたび沈黙に包まれる。
 まるで心霊スポットに足を踏み入れたような、異様な恐怖心が胸の奥から湧き起こる。その恐怖心は金縛りのように俺の動きを縛りつける。
 しかしここで止まっているわけにもいかない。湧いてくる恐怖心を押し込めて、足を進める。まずは正面の西階段を三階まで上がる。その途中で無線が入ってくる。
「こちらホウセンカ。現在三階。やっぱり、予想通り途中にトラップがいくつかありました。指示された道と交錯するため、五階までビル側壁を上っていきます」
 任務のときは真面目に話しているホウセンカ。少し見直してしまう。
 一方の俺は、階段を上っていく。こちらも予想されていた通り、その道中にはカメラが設置されていた。あからさまに置かれているものしか気づくことは出来なかったが、もしかするとその他にも小型カメラが隠されていたのかもしれない。
 くすんだ灰色の階段を三階まで上りきる。行くべき経路は三階の廊下へと折れていき、そこに足を進めていく。
 廊下の隅には埃が積もり、天井部分には蜘蛛の巣がいくつも作られている。面している部屋のなかには扉さえも残っていないものもあり、中を覗くと、廊下と同じように汚れ、捨てられた机や椅子が虚しく転がっている。いつか再び使われることを待っていたのだろうが、今では諦めが漂っている。
 深海のような、深く沈んだ生気のない空気が漂う廊下を抜け、東階段を上っていく。単なる思い過ごしなのかもしれないが、階が上がるにつれて、響く足音が大きくなっている気がした。注意すれば注意するほど、その音はハッキリと聞こえてくる。
 五階に着き、また廊下を抜ける。上に上がっていっているというのに、海の底から水面へと向かう安心感や解放感は伴うことはなく、空気は重く圧し掛かってくるだけだ。気は沈み、寒気のようなものを纏いながら、心臓が早鐘を打つなか進んでいく。
 西階段の前に立ち、一歩また一歩と階段を上り始める。足音が、冥界へと誘うように後を引きながら反響していく。足を一歩踏み出すたびに、首に巻かれた縄が締まっていくような感覚に陥る。死刑宣告された者が首吊り台の階段を上がっていくときの気持ちは、こんな気分なのかもしれない。
 十三段以上は普通にあった階段を上りきり、遂に七階に到着する。
 そういえばホウセンカからの連絡が途絶えている。ホウセンカは今、一体どこに居るのだろうか? もしかしてトラップに引っかかってしまったのだろうか? 嫌な考えが頭を巡ってしまう。
 恐る恐る廊下を進み、七階の奥の部屋へと向かう。ターゲットが待っている部屋へと。
 周りに視線を配りながら歩いていく。この階は扉のない部屋が多く、他の階よりも少しばかり荒れているように見える。不良が根城にしているのかもしれないが、このビルにはターゲットのみと聞いていたので、俺は注意をターゲットにのみ注ぐことが出来る。
 そして、ついにターゲットが居る部屋に着いた。そこも扉がない部屋だった。中を見渡してみると、机や椅子は全て端に寄せられており、中央には一人の男が立っているだけだった。
 その男は身長が2m近くあり、身体にはよく締まった筋肉がついている。服装はきっちりとしたスーツを着ており、ジェームズボンドなどを彷彿とさせたが、肌が少し黒っぽく、頭はスキンヘッドであるために、印象は強面の黒人SPというものへと変わっていった。
 サングラスをかけているが、顔をこちらに向けてきた瞬間、刺されるような鋭い視線を感じた。心臓を掴まれたような感覚で、俺は恐怖のあまりビクリと肩を弾ませてしまう。
 その男の手にはスマートフォンのようなものが握られている。おそらくそれでカメラの映像などを確認していたのだろう。
 そうやって相手のことを観察していると、男はその口を開いた。
「お前が依頼者か? ずいぶんと若いようだが」
 地に響くような低い声。ドスが利いていると言うのだろうか。そこいらの不良やチンピラとは違う、本物の殺気のようなものが込められている気がする。そのため、少々怯えつつも、俺は言葉を返す。
「だ、代理の者です。依頼したのは、僕の父親、だったので」
 途切れつつもなんとか言いきる。しかし、そんな俺の様子に、彼は気を割くことなく話していく。
「そうか。なら別に構わん。依頼者がガキだろうが、渡すもん渡せば、仕事はきっちりこなしてやるからな。それで、今回の依頼内容を具体的に教えてくれるか?」
 彼は仕事のことだけを淡々と聞き出そうとしてくる。しかし、俺がそんな依頼内容を知っているはずもなく、ルピナスさんなどに言われたのは、すぐにホウセンカが来るから適当に嘘で誤魔化しとけ、というものだった。
 緻密なプランは一体どこに行ったのか……。
 ついでに、ここで俺がやるように言われたことをまとめておこう。この先そんな余裕があるとは思えないからな。いや、今もそんな場合ではないか……。まあいい。
 俺がやるのは非常に簡単なこと、らしい。それは、ホウセンカが扉側から来るそうなので、俺は反対側の窓側に移動しろというものだった。というのも、そうした方が出口を押さえて挟み込みやすいうえ、俺が窓側に立てば、窓からヒマワリのバックアップを受けやすいということらしい。
 したがって、俺はまず自分がするべきことを実行しようと思う。
「そ、その前に、僕が窓側に行っても、いいですか?」
「窓側? なぜだ?」男は眉を吊り上げ、問い質してくる。
「え、えっと……」頭の中で必死に嘘を作り上げようとする。「それは、えっと、もしここだったら、あなたの仲間に、すぐ後ろを取られちゃうじゃないですか」
 よし、乗り切った! なんて思うはずもなく、すぐに自分の失態に気付いてしまう。廊下側から背後を取るなんて、自分たちがこれからしようとしている作戦とまったく一緒じゃないか。自分から手の内を明かしてしまうなんて、馬鹿すぎるにもほどがある。現時点で俺に出来ることは、彼がそのことをスルーしてくれるように祈るぐらいだった。俺は心の中で必死に祈りまくる。
「ああ、そうか。勝手にしな」
 彼がそう言った瞬間、俺は安堵の溜め息を零しそうになるが堪える。平静を装っているが、心の中では「助かった!」と大声で叫んでいた。しかし、次の彼の言葉ですべてがひっくり返った。
「なーんて言うと思ったか? そんなに世の中あまかねえよ。殺し屋相手に自分の身を心配するのは当然かもしれないがな、そうやって外部から第三者が現れることを気にするのはおかしい。ましてや、逃げるなら扉の側に居る方がいいに決まってるのに、自分から部屋の奥に入りたいと言い出すなんておかしいにもほどがあるだろ。そういう変な考えを巡らしているってことは、よからぬことを企んでいるに決まっている。つまり、お前は俺を嵌めようとしているんだな?」
 男は不敵な笑みを浮かべてくる。距離はあるはずなのに、首元にナイフを突きつけられているような感覚を陥る。恐怖のあまりチビってしまいそうだ。
 唇をわなわなと震わせながらも、なんとか言葉を返す。
「そ、そんなことありませんよ。気に入らないのであれば、僕はこのままでいいので」いや良くないだろ、心の中で突っ込む。
「そうか、じゃあお前は関係ないのかもしれんな」男はそうかそうかと言うように何度も頷く。「なら、あのガキとも何の関係もないってことだよな?」
 あのガキ?
 嫌な考えが頭を過ぎるが、相手の罠である可能性もあるので否定する。
「あのガキ? 一体何の話ですか?」
 俺は知らない振りをしてすっ呆ける。一方、相手は不敵な笑みをより一層ニヤニヤとさせる。
「そうか、分かった。ならあのガキは始末損というわけか」
 えっ……始末?
「いや、聞き流してくれ。ただ変なガキがビルの壁を登ってやがったからな、ちょっと手を下しただけだ」
 頭の中でホウセンカの言葉が過ぎる。
 ――指示された道と交錯するため、五階までビル側壁を上っていきます。
 嫌な予感がした。その予感を取り除くために、恐る恐る訊ねる。
「その人は……、どうなったんですか?」
 問いかけに対し、男はまた不敵な笑みを浮かべる。背筋に寒気が走った。
「俺は殺し屋だぞ? 言わなくても分かるだろ」男はヘラヘラと馬鹿にした笑いを零す。
 その言葉を聞き、俺の中で恐怖心は怒りに取り替わる。考えるよりも早く、手が勝手に動く。俺の手は腰へと走り、冷たいグリップを握る。そして、後先なんて考えることもなく、俺は銃を取り出し、相手に向けて構えていた。


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