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作品名:必要とあらば悪魔も正義に加担する 作者:alone

第5回 初任務 弐
 全員が席につく。ルピナスさんが正面奥中央に座り、扉の方に偏る形で自分を含めた五人の姿がある。全員の顔を確認してから、ルピナスさんが話し始める。
「今回の任務はここにいる五人でやってもらう。メンバーは、ツワブキ、ヒマワリ、ホウセンカ、ルドベキア、そして新入り君だ。まだ彼にはコードネームがないからな、今回は彼のことを佐藤(仮名)と呼ぶことにする」
「その佐藤(仮名)って全部含めて名前なの? いちいち(仮名)を付けるわけ?」
 ホウセンカが口を挟んだ。その話し方は普通に戻っており、さっきのは演技なのだと分かった。問いかけに対して、ルピナスさんが眉間に皺を寄せて答える。
「そんなものはいちいち言う必要はない。彼だと分かればいいからな。あと、ホウセンカは説明が終わるまで黙ってろ。話が進まないからな」
「はーい」ホウセンカが退屈そうな声を上げた。
「では話を戻す。今回のターゲットは同業者だ」
 そう言いながらルピナスさんが手元にあるリモコンをいじった。すると電気が消え、正面の壁に向けてプロジェクターが一枚の写真を映し出す。そこには一人の男が映っていた。
「本名、瑞香 秀治(ズイコウ ヒデハル)。スペードという二つ名で通っている。金さえ貰えばどんな殺しでも請け負う奴で、過去四件の殺しに加えて、九件の事件と関与している疑いがある。今回は、依頼があると廃ビルに呼び出しているので、そこで始末してもらうことになる。普段ならもっと少人数でできる任務なんだが、今回は佐藤が居るということで、これだけの人数になっている。では、作戦について話をしよう。具体的なものについては後でルドベキアと私で決めるので、今は役割分担についてのみとする。まずはツワブキ。お前はいつも通り索敵をしてもらう。次にヒマワリ。君は遠距離からのバックアップだ。ルドベキアは作戦づくりをしてもらうとして、残りの二人、ホウセンカと佐藤でビルに潜入してもらう。二人は二手に分かれて、敵を挟み込むようになると思う。では、ルドベキアを残して、あとは一時解散だ。佐藤はヒマワリ、ホウセンカと共に武器庫に行ってくれ。では、以上」
 明かりが再び点き、部屋が照らし出される。壁に映し出されたプロジェクターの映像は明かりの中に溶け込み、薄くその名残りを残している。
「それじゃ佐藤! 武器庫教えるから付いてきな」
 ホウセンカはそう言って、意気揚々という感じに出口に向かう。それを追って俺も立ち上がり、「はい」と簡潔な返事を返してあとに続いた。

 武器庫は作戦室などとは階が同じではなく、階段を使って下に向かった。二階下に下りると、その階全体が武器庫であるようで、火薬のにおいが微かに香っている。
 ホウセンカの後を追い、近くにあるドアを開けて中に入る。中には多くの銃器が壁に掛けられていた。大小さまざまなものが並んでおり、無知な俺にはその性能の違いはよく分からない。ホウセンカはその大量に並ぶ銃器の中から。迷うことなく銃を選んでいる。
「そういや、佐藤は銃つかえるか?」
 ホウセンカは今だけの佐藤(仮名)にすでに順応して使ってくる。かく言う俺はまだ違和感を抱えており、自分しかこの場には居ないから話しかけられているのは分かるものの、もし他にも居れば反応できないだろう。今回は反応鈍いながらもなんとか返事を返す。
「いや、使えませんよ。使えるはずないじゃないですか」
「そっか。まあ、そうだよな。てか、敬語とか使うなよ。よそよそしいな。お前、ルドベキアとタメなんだろ? なら俺ともタメなんだし、タメ口で構わねえぞ。つか、殺し屋同士に上も下もねえから常にタメ口でも良いぐらいだし。ま、気に入られなければ、殺されるだけだしな」
「え、殺されるんですか?」順応性の低い俺に対し、彼は横目を向ける。彼の言わんとするところに気付き、俺は言い直す。「あ、いや、殺されるのか?」
「ま、そんなもんだな。注意するよりも、銃の引き金を引く方が簡単だし。現に今の俺も銃持ってたし?」
 彼は笑いながら、手に持っていた銃をひらひらと見せる。だが、笑顔を浮かべているからと言っても、その言葉は冗談には聞こえない。全然聞こえない。そのため、俺は引きつった笑みを浮かべていた。
「冗談はその辺にして、佐藤はこれ使えよ」
 ホウセンカはそう言って、一丁の銃をポンッと投げる。俺の脳裏には暴発などの嫌な考えが一瞬で過ぎり、慌てながらも出来る限り柔らかくその銃を受け取った。手の中にずっしりとした重みと、ひんやりとした金属の感触が広がる。
「そんなびびんなって。弾なんか入ってるわけないだろ。ほら、弾倉だ。受け取れ」
 またもホウセンカは軽く放る。俺は銃を左掌の上に置き、右手で弾倉をキャッチした。
「その銃は、ベレッタM92FS。弾は9mmパラベラム弾。装弾数は15発。チャンバーに1発入れときゃ、16発撃つことは出来るけどな。セーフティ、安全装置はスライドの後ろに付いてる奴だ。下りてたら安全装置がONになってるからな。まあ、連射もしやすいし、初心者から上級者まで使える良い銃だから問題はないだろ。使い方は、狙いを定めて、撃つ。簡単だろ?」
 ホウセンカは構えて撃つ動作を交えながら、淡々と解説した。正直言えば用語はさっぱりだったが、映画で得た知識程度で補強しつつ、なんとか理解を得る。
「練習も必要だから、少し撃っとくか? 射撃場すぐそこだし」
 そう言うとホウセンカは自分も銃を片手に、部屋を出るよう促してくる。よく分からないままに俺は彼とともに部屋を出て、また廊下を進んで行く。そして、また別のドアを開けて中に入る。
 中はドラマとか映画でよく見る感じの射撃場だった。コンクリート造りの殺風景な縦長空間であり、手前にはその空間を切るようにテーブルが一直線に並べられ、奥には人のシルエットが描かれた紙が垂れ下がっている。
 ホウセンカは脇にあるゴーグルと耳当てを取って俺に手渡した。
「撃つときはそのゴーグルとイヤーマフ付けてやれよ。基本的にここの使用は自由だから、お前は練習しに来といた方がいいだろうな。ま、色んな奴が来るけど、変なことして逆に的にされないように気を付けろよ。短気な奴もいるからな、俺と違って」
 軽い感じでホウセンカは話していた。どうやら殺しなんて日常茶飯事らしい。まさか身内でそうだとは予想だにしていなかったが。
 ダーン!
 突然、重く鋭い音が射撃場内に響く。俺は突然大きな音が聞こえたことで、情けないほど身体をビクリと震えさせてしまう。一方のホウセンカは動じた様子もなく飄々としており、音がした方を見て呟く。
「なんだヒマワリの奴、もう来てたんだ」彼はそう言ってこちらに顔を戻す。「アイツ真面目な奴だからさ、殺しの依頼の前に必ず射撃練習していくんだぜ。そんなことしなくても腕前は十分なのにさ、毎回毎回欠かさねーよ。真面目すぎだよな。そういやまだ紹介してなかったよな。今連れてくるから撃ちながらでも待ってろよ。そこに立って、前の的を撃ちゃいいから。そうだな、狙いは頭に定めときゃいいから。じゃ、頑張れよ〜」
 ホウセンカは話すだけ話して、射撃場の奥へと進んで行く。残された俺はよく分からずも指示された場所に立ち、目の前の的を見つめる。視線を手元に戻し、ポケットから弾倉を取り出すと、それを銃に装填した。安全装置を外し、エアガン程度の知識を参考にコッキングする。そして、俺は銃を構えた。リアサイト越しにフロントサイトを見つめ、その先に的の頭を捉える。
 初めての実銃ということもあり、グリップを握る手に汗が滲んでくる。恐怖と好奇心が混ざり合い、とても不思議な気分だ。早く撃ってみたいと思うのに、引き金にかけた指は震えて力が入らない。緊張のあまりに口の中に生唾が溢れてくる。その唾を飲みこみ、喉をごくりと鳴らす。銃が撃たれた時のように、その音が体内で響いて聞こえる。覚悟を決め、グリップを握る手に力を込める。人差し指に神経を集中し、俺は引き金を引いた。
 バンッ!
 耳当てのおかげでハッキリと聞いたわけではないが、手を伝い、血肉を伝い、その衝撃が身体を抜ける。今まで味わったことのない衝撃だった。一瞬で膨れ上がり、感じた途端に霧散していく。本当に不思議な感覚だった。
 そんな感覚に浸っている俺の肩を誰かがポンッと叩く。俺は耳当てを外しながら振り返った。すると、そこにはホウセンカが立っており、脇には一人の女性が立っている。彼女は眼鏡をかけており、髪の毛は後ろで一本に結わえ、ポニーテールにしている。見た目的には図書委員とかしていそうな感じだ。ホウセンカが横に居るからか、少し小柄に見え、体型は華奢な印象を受ける。しかし、そんな印象とは裏腹に、彼女の肩には大きな銃がベルトで掛けられていた。その大きさから見るに、いわゆる狙撃銃、スナイパーライフルだろう。1m以上はあろうその銃を、彼女は平気な顔で持っている。
「本物の銃を初めて撃った気分はどうだ? 感動したか? そうだろ? 感動したんだろ? ほらほら、言ってみろよ。この、根っからの殺し屋め」
 ホウセンカは妙なノリで話しかけてくる。訳の分からないノリに、俺は引きつった笑みを浮かべて「あ、ああ」と返すことしか出来ない。今のノリは普通に鬱陶しかった。
 そんなノリのホウセンカには気を割くこともなく、彼女は一歩前に出て、俺に手を差し出す。俺がその手を取り握手を軽く交わすと、彼女は話し始めた。
「先ほどは作戦室でお会いしたのに、ご挨拶をしないですみませんでした。ヒマワリと言います。狙撃担当なので基本的にバックアップですが、よろしくお願いします」
「いや、こっちこそ新入りなのに挨拶しないですみませんでした。これからよろしくお願いします」
 互いに頭を何度も下げながら言葉を交わした。そこに喋りたがりのホウセンカが割り込む。
「俺がヒマワリの能力を説明してやるよ」
 割り込んできたホウセンカにヒマワリさんは場所を譲り、無言で一歩後ろに下がる。しかし、ホウセンカはそれを気に掛けた様子はなく、身勝手に話を続ける。
「ヒマワリは狙撃の腕前が半端ないんだよ。どっかのゴルゴみたいなレベルなんだぜ? 1km以上離れたところから寸分違わず狙撃できるんだ。でもまあ、マイナスを挙げるんなら、視力が悪いんだよな。ライフルのスコープを覗いたらなぜか見えるらしいんだけど、今はこうやって度数のひどい眼鏡かけてんの」
 そう言ってホウセンカはヒマワリさんの眼鏡に手をやる。眼鏡が手前に引かれると驚くほど目が巨大に映り、彼はそのまま眼鏡を奪い取った。
「ちょっとやめてください、ホウセンカさん。返してください。眼鏡、返してくださいよ」
 彼女は銃を落とさないように片手で押さえながら、空いているもう一方の手をばたばたと動かす。しかし、その手は虚しく空を切るだけで、ホウセンカの手に持たれた眼鏡には届かない。その様を見ながらホウセンカはニヤニヤとし、「ほーらね」と楽しそうに言ってくる。
 だが、そこでホウセンカは何かに気付いたような表情を浮かべ、ポケットに手をやる。中から携帯電話を取り出し、その画面を確認した。
「あっ、もう来いってさ」そう言ってホウセンカは眼鏡をヒマワリさんに返す。「ほらヒマワリ、返すよ。そいじゃ、行きますか!」
 ホウセンカはひとり威勢がいい様子で、俺の肩を掴んでドアへと連れて行く。ヒマワリさんは返された眼鏡をかけながら、「もぉー」と溜め息のような声を漏らした。
 射撃場を後にし、廊下をさらに奥に進むとエレベーターがあった。そのエレベーターに三人で乗ると、上へと向かう。
 エレベーターが目的階に到着し、俺たちは降りる。そこは他の階とは違って壁で分け隔てられておらず、ひろびろとした広い空間が広がっている。そこには数々の乗り物が並べられており、さっさと歩いていくホウセンカの後に続いていくと、ルピナスさんとツワブキさん、そして丞が居るのが見えた。三人はテレビの中継車のような大型のバンの前に立っており、今から乗り込む様子だった。俺たちもそのバンの方に行き、車に乗り込む。
 全員が乗ったのを確認すると、車は動き始めた。ある程度進むとまた停まり、しばらくすると立体駐車場にある車用エレベーターのようなもので上へと運ばれていった。
 自動車はどこかの地下駐車場に出る。周りには人気は一切なく、しんと静まり返っていた。そこにエンジン音を響かせてバンは動きだし、地上へと飛び出した。


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