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作品名:必要とあらば悪魔も正義に加担する 作者:alone

第4回 初任務
 土曜日の朝。
 窓から差し込む優しい日の光に頬をくすぐられ、小鳥のさえずりが目覚めへ誘う。なーんてことはどっかの誰かの妄言で、俺は母親のがなり声に叩き起こされた。
「枢! 丞一朗くんが来てるわよ! 約束を忘れて、アンタはなんで寝てるのよ!」
 母親は俺の布団をひっぺ返し、ぶつぶつと何かを呟きながら俺の部屋を出て行った。俺は寝惚け眼をこすりながら起き上がり、欠伸をひとつ取って頭をぐしゃぐしゃと掻く。
 頭に軽く寝癖をつけたまま玄関に向かう。途中で時計を確認すると、針は8時前を指している。学生の休日は遅起きで始まるはずなのに、こういう時だけ実行力を出しやがって……。丞のやつめ……。
 玄関扉を上げると、丞が爽やかな笑みを浮かべて待っていた。女性受けは良いんだろうが、俺にとってはただただ鬱陶しい。
「枢、迎えに来たぞー。おいおい寝起きかよ」
「うっせーな。休日の朝っぱらから来るお前が悪いんだ」
「おいおい、せっかく来てやったのに、何だよその言い草は」丞は眉間に皺を寄せ、唇を尖がらせる。
「それに、こんな朝早くからあの組織も活動してんのかよ……」
 俺は愚痴りながらつい組織のことを口走る。それを聞き、丞の態度が一瞬で変わった。
 丞はすぐに俺の口を押さえ、「発言には気を付けた方がいい」と今まで見たことがないくらい真剣な表情を浮かべている。辺りに鋭い視線を走らせ、先ほどの笑みの面影すら見受けられない。
 俺の口から手を離し、丞は喋る。
「どこで誰が聞いているか分からないから、あそこ以外ではあのことは話さない方がいい。もし聞かれたら、処分されかねないからな」
 丞は深刻な重みのある口調で話した。あまりに普段とのギャップがあるため、目の前に立っているのが本当に丞であるのか疑いたくなる。もしかすると、これがルドベキアという丞のもう一つの姿なのだろうか。
「処分って……一体どうなるんだよ?」恐る恐るという調子で訊ねる。
「それは俺も知らねーよ。やっぱり消されるんじゃないの?」
 丞はいつもの調子に戻り、軽い感じで答えた。俺は解決されない不安を抱えたままとなる。
「つか、ここで話しててもしょうがないから早く行きたいんだけど? 枢はそのままで行くのか?」
 我慢の限界に達したのか、丞は面倒臭そうに言う。言われた俺は不安ばかりに気を取られ、本来の目的を忘れていたため、「あぁ、そうだな。着替えてくるよ」と言い残して玄関扉を閉めた。
 部屋に向かい、部屋着から出かけられるように着替える。それが終われば洗面台に行き、適当に髪型を直した。母親に朝ご飯はどうするかと訊かれたりもしたが、いらないと答え、そのまま家を出た。

 二人で話しながら歩いて行き、昨日と同じ路地裏に着く。何の変哲もない路地裏。ゴミが散乱し、日当たりの悪さによりじめじめとしている。どこにでもあるであろう光景だけに、こんな所に殺し屋組織に通じる入口があることが未だに信じられない。
 そんなことを思っているうちに、丞はカバーを捲ってコードネームを告げていた。認証が済み、ビルの壁が開かれてエレベーターがその口を開く。二人で乗り込み、吸い込まれるように地下に下りて行った。

 扉が開くと、またも目の前に人が立っている。その上、今回もあのルピナスさんだった。彼は俺たちを見て、話し出す。
「よく来たな。今日は二人にさっそく任務をこなしてもらおうと思う」
 あまりに唐突なことに俺は声を上げる。
「お、俺もですか?!」
「ああそうだ。なんか問題あるか?」
 ルピナスさんはおかしなことを言った覚えはないという様子で真顔をしている。
「いや、普通にありますよ。俺まだ何も知らないのに、なんでさっそく任務なんですか?」
「ああ、そのことか。それはうちの方針だな」
「方針?」
「知識はあるに越したことはないが、あるからって生き残れるわけではないからな。うちでは経験を重視して、すぐに任務に同行してもらうことにしている。死んじまったらそれまでだが、その程度のやつは必要ないし、現場の緊張で能力が開花することも多いから、うちではこういう形態を取っているんだ。だから、君にはさっそく任務についてもらう。分かったか?」
 遠慮も何もなく容赦ないことを言っているなと思いながら、俺は一応「はい」と弱弱しく返事をする。納得なんてできるものじゃないが、契約を結んだ以上、俺は退くしかないのだと分かっていた。
「よし、なら本題に戻るぞ。依頼内容などは他のメンバーの居るところで話すから、まずは作戦室に行ってくれ。俺もあとから行くからな」
「了解しました」丞が明るく言う。そして俺の方に向き直ると、「じゃあ作戦室、案内するよ」と続けた。
 ルピナスさんは返事を聞くと、一人でさっさとどこかへ行ってしまう。俺たちはルピナスさんとは反対の方に歩いていく。道の分からない俺は丞の後を追い、まだ見慣れない組織の様子をキョロキョロと見渡していた。

 少しして丞があるドアの前で止まる。他のドアと違い、どこか重厚そうな雰囲気を纏ったドアだ。そのノブに手をかけ、丞はゆっくりと扉を開いた。
 中は至ってシンプルであり、中央に大きな円卓テーブルが置かれ、それを囲むように椅子が並べられている。明かりは中央に設置されたものだけであり、部屋の隅には薄暗い影を落としている。そして、その影に注ぎ込むように人影がいつくか伸びていた。それらは円卓に腰かけていた数人の者たちの影である。
 それらの人影の内の一つが、扉の開閉音に気付いて振り返る。その音を立てたのが誰であるかを確認して、声をかけてくる。
「おう、ルドベキア。また一緒だな」その声を主は手を上げる。
「よお、ホウセンカ」丞も応じて手を上げた。
 ホウセンカと呼ばれた相手が後ろの俺に気付き、一瞥をくれる。
「あれ? その後ろに居んの、誰だ?」
「ん? ああ、俺の友達で今度新しく入ったんだよ」
「おお、マジか!」
 ホウセンカという人は席を立ち、俺の方へと歩いてくる。近くに来ると俺の手を取り、ぶんぶんと振り出した。そのまま彼は話し始める。
「お前が噂の新入りか。話は聞いてんぞ。つっても入ってきたことぐらいしか知らないんだけどな。でもまあ、聞いてたことには変わりないから言ってる事は間違ってないっしょ。まずはー……自己紹介だな。お前はまだ能力とか分かってないから、コードネームは与えられてないんだろ? だから一方的なものになっちまうけど、まあ気にすんな。俺の名前は、ホウセンカ。能力とかは言った方がいいのか? よく分かんねーけど、教えたからって減るもんじゃないし、遅かれ早かれ教えることになるんだから別にいっか。俺の能力は――」
 ここまで止まるということを知らずに彼は話し続けた。まるで黙ると死んでしまうかの如く、舌を回し続けていたのだ。あまりのまくし立てっぷりに俺は圧倒され、呆然とした状態で固まっていた。
 能力を説明するためか、彼はようやく俺の手を離す。そして、急に辺りを走り出す。結構本気で走っているようで、なかなかの速さが出ていた。しかし、おかしなことに足音ひとつ聞こえてこない。目の前で走っているというのに、近くに立っている丞の吐息の方がよく聞こえそうなほどだった。
「これで分かったか? 俺の能力が何か」ホウセンカは走りながら訊いてくる。
 質問に対して少し間を置いて答える。「音を立てずに走れる、ってことですか?」
 俺は思ったことを口にした。それを聞くと彼は足を止め、俺をビシッと指差す。
「正解! まあ、正確に言えば物音を立てずに移動できるってことなんだけど、その答えでも変わりないっしょ。それで次に気になるのは、やっぱりマイナス面に関するところだよな。能力というプラスがあったらマイナスが付きまとうだ何だか、ルピナスのおっちゃんがどうせ言ってただろ? 二項対立だぁ、均衡を保つだぁ、反するものだぁ、ってな。新入りにあんなつまんねえ話すんのがあのおっちゃんの趣味なんだ。とんだ悪趣味だけど、許してやってくれよ。そんで話は何だったっけ? あーマイナスの話か。それで俺のマイナスの話になるけどさ、なんと俺にはそんなものが思い当たらないんだよ。マイナスなんて無いって言うの? ルピナスのおっちゃん、間違ってんじゃんって話なんだよね」
 またもホウセンカは止まることなく話し続けた。本当に黙ると死んでしまうのではないだろうか? 泳ぎ続けないと呼吸が出来ないマグロのように、喋り続けないと息が出来ないのかもしれない。息を吐いて喋っているのではなく、吸いながら喋っているのだ。なんという新人類。けど、それが進化であるとは信じたくはない。
 まあ、そのことはその辺で、もっと注目すべきは彼の言っている、マイナスがないということだ。それこそルピナスさんの話通りなら、そんなことはありえないはずなのに。一体どういうことなのだろうか?
 真剣に考え込みそうな俺の横で、丞が呆れた声を上げる。
「ホント、良いよな。マイナスが本人に対するものじゃないやつは……」
「どういう意味だよ、丞?」俺は眉を顰めて訊ねる。
「ここではルドベキアな。その名前で呼ぶなよ」
 丞は視線を脇に逸らし、不満そうに溜め息をひとつ落とした。
「ああ、ごめん。……ルドベキア」
 喉に詰まったものを吐き出すような違和感のある呼び方だった。すぐには慣れられそうにはない。
 丞は俺がちゃんとコードネームで呼んだのを聞き、こちらに視線を戻す。
「次からは忘れるなよ。それで、話は戻るけど、ホウセンカは他人にとってマイナスなタイプなんだよな。簡単に言えば、嫌われるタイプみたいな感じ?」
「嫌われるタイプ?」俺は目を丸くして反復する。
「そうそう。それでホウセンカの能力を説明すると、物音を立てずに移動できるけど、喋り続けて五月蠅いって能力なんだよ。つまり簡単に言っちゃえば、ただただ、うざい」
 丞の最後の一言だけは妙にはっきりと言われた。感情が込められており、深い意味を持った「うざい」に聞こえた。それを聞いたのはもちろん俺だけではなくホウセンカもそうであったので、彼はその口をふたたび開く。
「おいおいルドベキア。その言い方はひどくないか? まるでみんなが迷惑してるみたいな感じじゃねえか。うざいなんて思ってんのはお前ぐらいなもんだって。他のみんなは俺の話を楽しんでくれてるんだぞ。相づち打ったり、笑ってくれたり、普通に反応してくれてるんだからな。うざいなんて思ってるわけないだろーが。そんな個人的な考えを他人に押し付けるのはよくねえぞ、ルドベキア。ホントそういうのは悪い癖だぞ。俺だって人間なんだから、そういうこと言われると傷つくんだぞ。もっと相手のことを考えろよな」
 言われている丞は、口を止めることのないホウセンカを指差し、「ほらな」という表情を浮かべて話す。
「な、本人には一切の自覚がないんだよ。ホント迷惑すぎる能力だよな」
 丞の言葉に対して、俺は否定しきれないところがあり、「あ、ああ、そうだな」と溜め息をつくように零した。
「おいおい、お前までなんだよ。出会ったばっかりだってのに、何言ってんだよ。あ、冗談か? 冗談だよな? ノリツッコミってやつだろ? ほら、そこで否定しねえと。ノリ合わせてるだけじゃ、ノリツッコミ成立しねえぞ。ほらほら、何か言えよ。何か言って。ちょ、何か言ってよ、お願いだからさ。あれ、何だろう。なんか泣けてきた。なんか俺、今みじめじゃね。初対面の人にうざがられるってよっぽどじゃね。なんで? なんでこうなるんだよ。悲しすぎんだろ。うぅ……」
 ホウセンカは心底悲しそうな表情を浮かべ、トボトボと座っていた席に戻っていく。戻りながらも何かをぶつぶつ呟いており、やはり黙ることは出来ないらしい。
 彼が席に座る前に作戦室のドアが開かれる。そこにはルピナスさんが立っていた。俺たちの様子を見て、きょとんとした顔をする。
「ん? 何かあったのか?」ルピナスさんは不思議そうに辺りを見渡す。「まあいい。今回の任務について話す。みんな席についてくれ」


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