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作品名:必要とあらば悪魔も正義に加担する 作者:alone

第3回 殺し屋組織『Interfectores』 弐
「ただの人間?」
 指に刺さったトゲを抜くように、引っ掛かりを覚えた言葉を繰り返す。
「そう。そして、君はそのただの人間ではなく、能力者なんだよ」
「能力者……?」
「ツワブキが言ってただろ? 君も能力者だと」
 彼は俺を見るが、俺はまだ実感のようなものが伴ってきておらず、ぽかんとした表情を浮かべてしまう。彼は口をへの字に曲げ、鼻息を小さく漏らす。
「ツワブキは覚えているだろ? 実は彼も能力者でな、人の魂的なものが見えるんだ」
「たましい?」合いの手を入れるように言うが、彼は話を続けていく。
「その見え方が一般人と能力者では違うらしくてな。彼の眼を通せば、能力者は一目瞭然なんだそうだ」他人の受け売り話だからか、彼は少々雑な言い方になっている。「けれど、能力には代償のようなものもある。二項対立の話は覚えているか? 均衡を保つには反するのものが必要なんだよ。つまり、プラスがあればマイナスが付きまとってくる」
 論の話ばかりで具体例に欠けており、俺はついつい「どういう意味ですか?」と疑問をぶつけてしまう。彼は神妙な顔つきでそれに答える。
「ツワブキは魂的なものが見えるが、視力は一切ないんだよ」
「えっ……。それって、全盲ってことですか?」
「あぁ、そうだな」彼は短く答える。「能力の話について別のケースを言えば……例えば、ルドベキア。お前の友達だな。確かジョーとかって呼んでいたか? まあいい。ルドベキアの能力を説明すると、やつは完璧な計画を作ることが出来る。だが、その実行力とかがないんだ。それに行動に少々抜けたところもある。長い付き合いの君なら、心当たりもあるんじゃないか?」
 彼の問いかけに対し、色々なことが思い起こされる。今日、丞が財布を忘れていたことや、夏休みの計画の実行力がないこと、それに、駅に着く時間を的中したことが思い出された。一つ一つのことを照らし合わせつつ、俺は何度も無言で頷く。
 それを見て、彼は満足のいったような表情を浮かべる。
「どうやらあるようだな。それなら話は早いだろ? 能力がどういうものなのか」
 彼はソファの方に戻り、ふたたび腰を下ろす。そして、また同じように指を絡ませ、そこに顎を乗せる。
「じゃあ本題に移るとしよう。君が組織に入るかどうか、という話にね」彼は一度視線を逸らし、また俺に向ける。「ツワブキの言った通り、君は能力者だ。どんな能力を持っているかは分からないが、能力者であることは確かだ。まあ、能力者だから絶対入れと言うわけではない。能力者でなくとも、この組織に所属している者もいるし、ちゃんと君には最終決定権が与えられる。入るかどうかを決めるのは、君自身だ」
 彼は水の流れのように止まることなく勢いよく話した。彼が最後に言った言葉は、波ひとつ無い水面に一滴の水が垂れて波紋を広げるように、心の中に余韻を残す。広がる波紋が静まるのを待ちながら、言葉をかける。
「もし、入らないことを選べばどうなるんですか?」
 俺の問いかけに対して、彼はすぐに答えを返す。
「その場合は、我々の存在が外部に漏れるのを防ぐために、君の頭を弄らせてもらう。いわゆる記憶改ざん、というやつだ」
 それを言うなら記録改ざんじゃないのか、と心の中で突っ込む。
「だから、慎重に考えるといい。……とも言いたいところだが、決めないまま君を帰らせるわけにはいかないから、決断は今すぐということになる。じっくりしっかりと即座に考えるんだ」
 それほど矛盾した言葉はないだろうと思いつつも、俺はそのことについて考える。組織に入るかどうかについて。
 こんな組織に関わることは、今回を逃したら一生ないだろう。それに、自分が能力者とやらであることにも興味がある。自分は一体どんな能力なのか、どういう能力を持った人々が居るのか。そんな興味で頭の中が溢れかえる。
 殺し屋という部分が一番重要であるはずなのに、能力に関して膨れ上がる好奇心に掻き消され、口が勝手に動き出す。
「決めました。俺を組織に入れてください」
 妙に落ち着き払った声で言った。それを聞き、彼は笑みを零す。絡めていた指を解き、ソファから立ち上がった。
「ようこそ、『Interfectores』へ」両手を広げ、彼は歓迎の意を身体で表現する。しかし、我に返ったようにすぐにその状態を解いた。「いや、気が早すぎたか。まずは契約だな」
 そう言って彼はまたソファに尻を沈め、机の上に一枚の紙を出した。そこには大量の小さな文字が整然と並んでおり、一番下には署名欄がある。契約内容に関しては、彼がざっと説明してくれた。組織に関して公言しないことはもちろん、死んでも組織は一切の責任を負わないなどが書かれているそうだ。俺自身もざっと目を通してから、最後に署名をして、拇印を押す。
 彼は契約書が出来たのを確認してから、口を開く。
「今度こそ、ようこそ『Interfectores』へ。これで君も今日から仲間だ」彼は好意的な笑顔を浮かべて、そう言ってくれた。「では、今日はこれぐらいにしておいて。明日は土曜だから学校は休みだな? 何か用事があったりするか?」
 思い出そうと頭を探るが、何もないノープランであったのに気付き、すぐ返答する。
「いえ、特にはないです」
「そうか。なら、明日はルドベキアを朝方にでも迎えに出そう。奴と一緒にまた来てくれ」
 そういう会話を経て、その日は組織をあとにすることとなった。帰りは来たときと同じ経路を辿り、あのエレベーターでビルの裏手に出る。変わらずゴミが散乱し、日の差さない湿っぽさが路地裏らしさを醸し出している。あまりにもよくあるという感じで違和感を覚えてしまう。そこには男たちが倒れていたはずなのに、そんな痕跡は一切なかった。キレイに汚い路地裏が再現され、事情を知らない人は視線すら向けずにそのまま通り過ぎてしまうだろう。
 俺はエレベーターがあった所を見てみる。ビルの壁面は元に戻っており、どこが扉だったかは正確に分からなくなる。まるで狐につままれたような気分に陥り、俺はここで白昼夢でも見ていたんじゃないかと疑いたくなってしまう。寝ぼけたような頭を掻きながら、俺は家に向かって歩いていった。
 そこからはいつも通りの日々。家族との会話には何の変哲もないし、夕飯は馴染み深い味付けだし、風呂は温かいお湯に満たされていた。変わりない日常。凸凹になっていた地面が均されていくように、波打つ水面が静まっていくように、俺は普通の中に溶けていった。
 夜も遅くなり、俺はベッドに潜り込む。電気を消すと一瞬真っ暗になるが、じわじわと薄い光に慣れていき、部屋の輪郭を捉えていく。墨の濃淡で描かれた絵のように薄暗い部屋が浮かび上がる。まるでどこかの壁に掛けられた絵画を見つめるがごとく、自分と無関係な世界がそこに広がっているような感覚に囚われる。
 そして、俺は思った。あぁ……俺は殺し屋になったんだった、と。
 現実と思えない現実と、普通と思っていた普通が混ざり合っていく。自分の中で何かが崩れ、壊れていき、新たな自分が再構成されていく。
 俺は目を閉じた。
 眼は瞼の裏を見つめ、視界は闇に包まれる。その黒い世界に溶け込むように、俺は知らず知らず眠りについていた。


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