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作品名:必要とあらば悪魔も正義に加担する 作者:alone

第2回 殺し屋組織『Interfectores』
「は?」
 俺は口を開いたまま固まってしまう。一方の丞は衝撃の告白をしといて、平然とした様子で壁を探っている。
 殺し屋? 意味がわかんねーよ! 頭おかしいんじゃねえのか!?
 あまりの意味不明さに俺は嘘として脳内処理する。そんな嘘、今どきの小学生でも信じねえよ、と心の中で罵った。
「あった、あった」
 丞がのほほんとした声を上げた。何があったんだと思ってよく見てみると、丞は壁をペリッと捲った。いや、捲ったように思ったが、実際は文庫本サイズの大きさのカバーが開かれたようだった。壁と同じ色に塗られており、簡単に見つけられそうにはない。
 開かれたカバーの下には液晶画面とスピーカーがあり、そのスピーカーからすぐに声が聞こえてくる。女性の声で、とても聴き取りやすいものだ。
「お名前をどうぞ」
「ルドベキア」
 丞が聞いたことのない言葉を返した。俺は訳が分からないままに見ていることしか出来ない。
 数秒するとスピーカーから同じ女性の声が返ってくる。
「声紋を認証いたしました。どうぞ、お入りください」
 言い終えると、スピーカーなどがある左側の壁が動く。壁にはドアを描くように一本の線が走り、そこから空気が少し吹き出すと、その切り分けられた壁の部分は引き上がり、奥に扉が現れた。その扉も自動で横にスライドして開かれ、その奥に小さな空間が現れる。二畳か三畳程度の空間であり、丞はなんの躊躇いもなく中に入っていく。
 丞は中に入ると振り返り、言葉をかけてくる。
「ほら、枢も早く入れよ」
 至って普通な様子である丞に「お、おう」と返し、俺もそこに入った。中は床も壁も真っ白で、天井から注がれる明かりが反射して眩しいほどの白さであった。
 俺が乗り込んだのを確認すると丞は扉の横に並んだボタンを押す。それはエレベーターそのものという感じだった。
 扉が閉まると、ゆっくりとエレベーターが下降を始めたのを体感する。つまり、そのエレベーターは何の変哲もないビルの壁面にあって、そこから地下へと下りて行ったのだ。
「い、一体なんなんだよ、これは?」俺は動揺を浮かべて丞に問い質す。
「まあ、すぐに分かるよ。……でも、巻き込んじまってごめんな。本来ならこんなことになるはずなかったんだけど、アイツがまさか発砲するとは思わなくてさ。あのまま枢を置いて行ったら、どうなるか分からなかったから、連れて行くしかなかったんだよ」
 丞はすまなそうな表情を浮かべて言葉を並べた。その申し訳なさそうな感じを受け、俺も落ち着きを取り戻していく。
 チーンッ。
 軽快な音が響き、扉が開く。すると、扉の前には一人の男が立っていた。三十代ぐらいに思える男性で、紺の生地に薄い白のストライプの走るスーツに身を包み、薄いパープルピンクのワイシャツを下に着ている。上着はボタンを留めることなく開いており、両手をスラックスのポケットに収めて仁王立ちしている。
「ルドベキアァ……何してくれてんだ」
 彼は怒りのあまりに顔を歪め、頬をピクピクと動かしている。
「あっ、ルピナスさん。今日はどうしたんですか?」
 丞は相手の人を宥めようとでも思ってなのかニコニコと笑みを浮かべ、自分には無関係なことを述べるような口調で喋る。しかし、それは火に油を注ぐ結果を招いた。
「どうしたも、こうしたもねえ! なんで一般人がここに居るんだ、って訊いているんだ!」
 彼は声を荒げ、俺を指差しながら言う。丞はその指先をしっかりと追うようにゆっくりと俺の方を向き、また顔を彼の方に戻す。
「えっとー……ちょっと流れで」
 丞は自分で自分に呆れるように、頭を掻きながら薄ら笑いを浮かべて答えた。だが、そんなことで彼の怒りは収まりそうもない。語調をさらに強めて話し続ける。
「何が流れだ!?」一声上げて、彼は俺にチラと一瞥をくれる。「はあー……まあいい。あとでどうにでもなるからな」
「でも、枢には何か能力がある気もするんですけどね」
 丞がよく分からないことを思わせぶりな感じで言う。
 能力? 一体なんのことだ?
 丞の言葉を聞き、相手の男は突然表情を引き締め、深刻な印象を受ける口調で喋る。
「それは本当か?」
「はっきりとは分からないけど、俺の勘はよく当たるじゃないですか」
「勘、ねぇ……」彼は悩ましそうに頭を掻く。「まっ、行動は抜けてるが、その勘とやらを信じてやってもいいか」
 彼は疲れたような溜め息をひとつ零し、「付いて来い」と言うと身を翻して歩き出した。その背を追うように、俺たちも後に続く。
 そこには他にも何人かの姿があった。それぞれがパソコンの画面などを相手に仕事をこなしている様子だ。その他にもいくつかのパソコンが並んでおり、見た目はどこかの国のスパイ映画を彷彿とさせる。The最新設備という感じの機器が並んでおり、今にもロボットなどが顔を出しそうな雰囲気を携えている。
 彼は長い廊下を進み、あるドアの前で止まる。コンコンとノックをし、そのドアを開ける。
「ツワブキ、居るか?」
 彼の言葉に対し、すぐに返事が返ってくる。
「やっぱりルピナスか。足音が特徴的だから、すぐに分かったよ」
 部屋の中を覗くと、ちょうど椅子を回転させ、男がこちらを向くところだった。二十代後半に見える男性で、アロハシャツにカーキの半ズボンというラフな格好をしている。その格好故に、引き締まった肉体をしているのがよく分かった。髪の毛は茶髪であり、髪型はショートヘア。そして、室内だというのにサングラスをかけている。
「ルドベキア君もひっさしぶり〜。会うのはいつぶりだったかな?」
 サングラスの男は軽い調子で喋る。その言葉に対して、丞は「ツワブキさん、お久しぶりです」と言い、会釈をする。
「それで、もう一人居るのは……新入り君かな?」
 ツワブキと呼ばれる男は眉を上げ、顎をさすりながら言った。
「お前が新入りと言うってことは、彼も能力者ということで良いんだよな?」ルピナスという男が言う。
「ん? あれ? まだ彼は入ってなかったの? 普通に居るから勘違いしちまったよ」ツワブキという男は小さく笑いを零した。
「まあ、まだ入ってはいないが、彼は能力者なんだろ?」ルピナスさんが訊ねる。
「ああ。それは間違いないな。どういうものか専門外だから知らねえけど、彼が能力者であるのは間違いない」ツワブキさんは自信満々に断言する。
「そうか。それが聞けて良かったよ。ありがとな」
 ルピナスさんは礼を言うと手の平を見せ、そのまま部屋を出た。ツワブキさんの方も手を上げて応える。
 ガチャンッ、と音を立ててドアが閉まる。ルピナスさんは俺たちの方を見て、話しかけてくる。
「ルドベキアの勘の通り、能力者だったとはな」
 ルピナスさんは丞の方に言う。丞はそれに対し得意げな表情を浮かべて、ヘヘッと笑みを零す。
 ルピナスさんは俺の方に向き直り、言葉をかけてくる。
「君に話がある。来てくれるか?」
「えっ、はい」俺は少々抜けた感じだが、一応返事をする。
 ルピナスさんはそれを聞くと、丞の方に「ルドベキアは今日の仕事を終わらせて来い」と言う。そして、俺の方に「じゃ、付いて来てくれ」と言った。
「了解でーす」丞はつまらなさそうな声を上げて、今来た道を戻っていく。
 俺は相変わらず理解しきれていないが、残っていても解決しないので、ルピナスさんの後を追った。

 廊下を抜け、パソコンなどの機器がたくさん並んだ場所に出る。何人もの人がデスクに座り、キーボードを叩いている。正面には巨大な液晶画面があり、世界地図や様々なグラフや図形が表示されている。
 ルピナスさんはそこに居る一人に軽く会話をし、それから奥のガラスで区切られたオフィスに向かった。オフィスの中には立派なデスクと、その前に二脚のソファが向き合わせて置かれている。綺麗に片付いており、デスクの上には余計なものは置かれていない。
 ルピナスさんはソファを指差し、座るように促した。それに応じで俺が座ったのを確認すると、ルピナスさんも俺の前に座る。
「じゃあ、まずは自己紹介だな。俺はルピナス。一応断っておくが、本名なんかじゃないからな。ここじゃ個人情報は重要だから、こうやってコードネームで呼び合っているだけだ」
 彼が言い終えたタイミングでオフィスのドアが開き、一人の女性が入ってくる。さっき彼が会話をしていた相手だ。彼女は彼にタブレットPCを渡すと、すぐにオフィスを後にした。彼は受け取ったタブレットをまじまじと見てから、言葉を続けていく。
「本名、新宮 枢。職業、学生(高校生)。高校はルドベキアと同じで、クラスまでも同じ。家族構成は両親と妹一人の四人……」
 そのあとは独り言を言うように彼はぶつぶつと呟く。何を言っているかは聞き取ることは出来なかった。数秒呟き続けると、そのタブレットをソファに挟まれた机の上に置き、ふたたび話し出す。
「君のことはよーく分かった。では本題に移ろう、新宮 枢くん。君がどこまでルドベキアから聞いているかは知らないから、一から全て話すことにしよう。まず、我々が一体何者か、という所から」彼は祈るように両手の指を絡ませ、そこに顎を乗せて淡々と話していく。「君は殺し屋の存在を信じるかい?」
「殺し屋、ですか?」
「ああ、そうだ」
 俺は少し考え込み、それから答える。
「外国なら居るかもしれませんが、日本に居るとは思えません」少し自信のない口振りで言った。
「そうだな。実に的を射た答えだ。外国ならまだしも、法律の厳しい日本では割りに合わない。その通りだ。しかし、実際に存在している。こうやってな」彼は指を絡ませたまま親指だけを動かし、自らを指す。「我々は殺し屋組織『Interfectores(インテルフェクトーレス)』。依頼を請けて、人を殺している。まあ言わずもがな、か」
 その言葉を聞き、俺は心の中で思う。
 殺し屋組織? 日本でそんな組織がどうやって無事にやっていってるんだよ?
 すると、俺の気持ちを読むかのように、彼は言葉をかけてくる。
「なんでそんな組織が日本でやっていけてるんだって思っているんだろ?」
 俺は的中しており、驚きのあまり「えっ」と声を漏らしてしまう。その反応を見て、彼は「やっぱり」と言うかのように口元を緩ませた。
「まあ、普通はそう思うだろう。表向きは平和主義を謳っている日本政府だからね。けど、実際は違う。表があれば、裏があるものだよ」彼はフフッと不気味な笑みを零し、言葉を続ける。「我々は独立団体ではあるが、一応政府の公認を受けているんだ。いや、公認というには語弊があるね。公にそんなことを認めるわけにはいかないから。まあ、言わんとしていることは一応伝わっているだろうから、このまま話を続けるとしよう」
 彼は両手を離し、ソファから立ち上がる。オフィスと外を分け隔てるガラスの壁の方に歩きながら、彼は話を続けていく。
「世界は何で出来ていると思う? 政府とか国民とかそういうのじゃなくて、もっと抽象概念としてさ」
 抽象概念?
 俺は頭の上にはてなマークを浮かべ、返す言葉が見つからずに黙り続ける。その様子を見て、彼は答えを明かすことにする
「簡単に言えば、様々な二項対立が積み重なって出来ているんだ。表があれば裏があるし、真実があれば虚偽がある。そして――」彼はガラスに背を向けて、少し勿体ぶってから続ける。「善があれば悪がある」
 数秒の間、静寂に支配される。彼は「話を変えよう」と言うように、手を叩いてパンッと鳴らした。
「つまり、いくら正義や善を謳おうとも、どこかに悪がなければ世界は成立しない。では、どうするか?」
 彼は俺の眼をしげしげと見つめ、俺の言葉を待っている。俺は視線を逸らし、何か答えようと言葉を探す。しかし、見つけることができず、しょうがなく反復する。顔を上げて、彼の顔を見る。
「……どうするんですか?」
 弱弱しい声だ。何かに怯えているようにも聞こえるかもしれない。この声を聞き、彼は薄く笑みを浮かべて答える。
「悪を用意すれば良いんだ。そう、だから我々が居る。我々は政府に認められた殺し屋組織。これは、我々が必要悪だからなんだよ」
 彼は両手を広げ、どうだ凄いだろ、と言っているかのようである。眉を上げ、口を丸く曲げ、自信たっぷりといった感じだ。だが、突然脱力し、両手をだらんと下ろす。まるで受けの取れなかったピエロがすぐに次のネタへと移るかのようである。
「まあ、そんな建て前みたいなことはその辺で、正直な話、悪を相手にするなら悪を、というわけなんだけどね。目には目を、歯には歯を、ということだよ。……いや、使い方違うか」彼は笑みを漏らし、恥ずかしそうに頭を掻く。「簡単な話、裏の仕事を請け負っているってことだ。まあ、そう言ってもどんな仕事でも受けるわけではない。商売敵とか活動家が邪魔だから殺してくれって依頼されても殺したりはしない。俺たちがやるのは、法律では裁けない奴らとかの処分だ。そういう悪を消すために、俺たちが悪になる必要があるというわけなんだ」
 信じられないことだらけだが、ここまで熱弁されると逆に信じてきてしまう。でも、そこでふと疑問に思う。
「でも、そんな公にされてないことを、俺なんかにペラペラと話して大丈夫なんですか?」
 彼は俺の言葉に対し、軽く口元を緩ませる。
「まあ、それもそうなんだけどな。君がただの人間ならば」
 引っ掛かりを覚えざるを得ない言葉に、俺は眉を顰める。


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