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作品名:必要とあらば悪魔も正義に加担する 作者:alone

最終回 死神と呼ばれる男 陸
 今回の任務は無事に終わりを迎えた。周辺管理を担当していた別動隊の手により残りの七人も捕らえられ、一件落着というところだ。
 俺とサクラさんはバンまで戻ってルピナスさんに報告をし終えると、そのままバンで組織へと戻った。
 ルピナスさんはサクラさんの怪我を心配していたが、指がちゃんとついているのを確認すると、安堵の溜め息を漏らした。聞くところによると腕のいい医者がいるそうで、痕も残らないほどキレイに治してくれるらしい。
 そしてバスは組織に到着し、俺たちはそこから降りる。
「見た感じはこれと言った怪我はないが、一応お前も検査受けとけよ」ルピナスさんが俺に言う。「場所はサクラに付いて行けば分かる」
「あっ、はい。分かりました」
 そう返事をしてサクラさんの姿を探す。サクラさんは降車してからとっとと歩いており、すでに一人でどこかに向かっていた。
「さっさとしないと置いてかれるぞ」
 ルピナスさんが冗談めかすように言った。それに触発されるように俺は小走り気味にサクラさんの後を追う。けれど、追い着いたからと言って特に会話を交わすこともなく、黙々とサクラさんの後に付いて行った。

 階を移り、医務室という場所に着く。サクラさんはノックの一つも取らず、無作法にドアを開けた。
 中には女性がひとり居る。白衣に身を包んでおり、長い茶色の髪を後ろでまとめて上げているためにうなじが顔を見せている。その手には某有名アイスクリームのミニカップが握られており、小さなスプーンで口に運んでいた。
 ちょうどスプーンを口に咥えたタイミングで俺たちが入ってきたため、彼女はスプーンを咥えたままこちらに振り向く。
「ちょっとー、ノックぐらいしなさいよー」
 咥えたまま喋り、スプーンが小刻みに上下している。けれど、サクラさんはお構いなしに前に出て、彼女の前にある椅子に座る。病院でよく見る丸椅子だ。
 椅子に座るとサクラさんは右腕を出し、包帯代わりにしていたシャツの袖を解いて患部を見せる。
「治してくれ」
 サクラさんはいつもの静かな調子で言った。そこからは怪我の痛みなどは一切感じられず、怪我するところを見ていなければ、偽装された怪我じゃないかと疑ってしまいそうなほどだった。
 一方、治療を要求された彼女は溜め息をひとつ漏らすと立ち上がり、手にしていたミニカップのアイスを冷蔵庫に戻す。そしてまた席に戻ると、サクラさんの怪我をまじまじと見る。
「また派手にやらかしたようね」
 彼女はサクラさんの怪我というよりは血染めのシャツを見ながら言った。しかし、サクラさんに返事をする気配はない。彼女は成立しない会話に見切りをつけ、その矛先を俺へと向ける。
「それで、キミは誰? 見かけない顔だけど」
 サクラさんの怪我を診ながら、彼女は話しかけてくる。
「あっ、俺ですか?」
「他に誰かいる?」
 下らないこと言わないでよ、と言うような棘のある言い方だった。
「いや……、なんかすみません」俺は弱弱しく謝る。
 そこで彼女は顔を上げて、視線を俺に投じる。
「なんでそこで謝るわけ? 男らしくないなー。サクラくんぐらい堂々としてなさいよ」
 彼女の言葉に俺はまた謝りそうになるが呑み込み、押し黙る。
 彼女は俺の顔をしげしげと見て、小首を傾げる。
「ん? 見覚えのある顔ね。どこかで……」指を顎に添え、彼女は考え込む。「あっ! 失神してたのはキミね。ということは、キミが新入り君というわけか」
 ふむふむ、という感じで彼女は口元を伸ばし、サクラさんの治療に専念する。傷口を見ながら、ぶつぶつと呟くように消毒などを済ませていく。
「銃で撃たれたのね。弾は貫通してるし、骨と骨の間を抜けたみたい。いや、サクラくんなら抜けさせたという方が正しいのかしら? とにかく、これならキレイに治るでしょうね」
 そう言って彼女はガーゼをつけ、包帯でサクラさんの右手を包んでいった。
「はい。これで大丈夫。化膿とかするかもしれないから、三、四日に一度は診せにくるのよ」
 彼女がそう言っているのに、サクラさんの方はさっさと立ち上がって帰ろうとする。
「絶対よ! 分かってるのっ!」
 彼女が念を押すが、サクラさんは振り抜くことなく医務室を後にした。その様子を見て、彼女は顔を膨らませる。
「もぉー勝手なんだから」彼女は視線をこちらに向ける。「じゃあ、次はキミの番ね。ほら、椅子に座って」
「あっ、はい」と答え、俺は丸椅子に腰を下ろす。
 彼女は白衣のポケットからペンサイズの懐中電灯を取り出し、それを点けて俺の目の前で左右に揺らす。俺の瞳はその光を追った。
「大丈夫そうね」彼女はライトを消し、ポケットにしまう。「どこか痛むところはある?」
「いや、特には」
「そう。でも一応、手を出して」
 言われた通りに俺は手を出す。すると、今更ながら自分の掌が真っ赤になっているのに気付く。どうやら死体を引きずった時に付いたものらしい。
「血まみれね」彼女が苦々しく、ぽつりと呟く。「サクラくんみたい」
 そこに込められた想いにただならぬものを感じ、俺は返す言葉を見失う。
 彼女は淡々と作業的に、濡れたガーゼで俺の掌を拭いた。真っ白なガーゼがじわじわと赤く染まっていく。
「キミはサクラくんのことをどう思った?」彼女が唐突に話し出す。
「どうって言うと?」俺は疑問で返す。
「印象とかよ。サクラくんは明らかに普通の人間とは違うでしょ」
「……そうですね。最初は、あんなことを平気でできる人間が実在するなんて信じられませんでした。命をなんとも思っていないみたいに、無表情で人を殺しまくってましたし」
「……そうね」
 彼女は俺の手を拭き終え、血で赤くなったガーゼを持ったまま俺の話に耳を傾ける。
「でも……ルピナスさんからサクラさんの昔の話を聞いて、少しは見方が変わったと思います。サクラさんにはサクラさんなりの辛い過去があって……、だからと言って、人を殺していい理由にはならないと思うけど、それでも、サクラさんにはしっかりとしたスタイルというかルールというか、そういうものがあるから、なんだか立派な人だと思いました」
 そこで彼女が小さく笑う。
「思いました、ってまるで小学生の作文みたいね」彼女は穏やかな笑みを浮かべている。「でも、そんな曖昧な印象で良いと私も思うわ。サクラくんはそんなに簡単に言い表せられる人ではないものね」
 そう言って、彼女はようやく赤いガーゼを蓋つきのゴミ箱へと捨てた。
 そこでちょうど、机の上の電話が鳴る。彼女は受話器を取り、電話に応える。
「こちら、医務室です」
 彼女がハキハキと言った。受話器からはごにょごにょと相手の声が漏れている。
「ああ、居るわよ。代わろうか?」
 俺のことだろうか、と一瞬俺は身構える。しかし、代わる必要はないようで、そのまま電話は続く。
「あぁそう? うん、分かったわ。ちゃんと伝えておく」
 そう言って彼女は電話を切った。そして俺の方に向き直る。
「ルピナスからだったわ。キミに話があるそうよ。怪我はなくて大丈夫だから、このまま行くといいわ。ルピナスのオフィスは分かるわよね?」
「はい、大丈夫です」俺は椅子から立ち上がる。「ありがとうございました」
 俺は頭を軽く下げる。
「気にしないで。怪我をしたらいつでも来て良いからね」
 彼女は優しい笑みを浮かべる。その笑みに見送られ、俺は医務室を後にした。

 ここに初めて来たときに行ったルピナスさんのオフィスに着く。ガラスのドアを叩くと、予想外に厚いために鈍い音が広がった。取っ手に手をかけて、ドアを開く。
 中にはルピナスさん一人であり、俺を見ると「よく来たな」と言って、以前同様にソファに座るように促してくる。それに従って俺はソファに尻を埋め、ルピナスさんは向かいのソファに座り込む。
「さっきの任務はご苦労だったな。サクラと付き合わされて、色々と衝撃を受けたことだろう」
「まあ……、そうですね」
 俺の頭の中で今日のことが繰り返される。
「なら良かった。サクラと合わせた甲斐がある」
 そのルピナスさんの言葉に含みを感じ、俺は眉間にかすかに皺を寄せる。それに気付き、ルピナスさんは言葉を続ける。
「実は、今回のメンバーにサクラとお前を選んだのは俺だったんだ。いや、正確には推薦したというのが正しいか」
「どうしてそんなことをしたんですか?」
「もちろん、お前のためだ」
「俺のため?」
「お前がドッキリされているときの映像を見てな。殺しに対してひどく恐れているのがよく分かった。そりゃあ、誰でも普通は恐ろしいと思うもんだ。普通に生きていたら人を殺すことなんてないからな。でも、この世界じゃそうはいかない。だから、サクラと一緒に任務をさせた」
「どういうことですか?」訊きはしたが、答えは薄々分かっていた。
「殺し屋の仕事を見せたかったんだ。まあ、サクラは極端な例とも言えるかもしれないが、あんな惨状を目にすれば、お前の中で何かが変わると思ってな。現に、お前は人を殺したのに動揺していないだろ?」
 俺は記憶を辿る。そういえば、最後の男は俺が撃ち殺したんだった。人が死ぬさまを見過ぎて、感覚が麻痺してしまったのだろうか?
「別にお前がおかしくなったわけじゃない」
 ルピナスさんは俺の心の中を読んだかのように、諭すような口調で語りかけてくる。
「単に、新しいお前が出来上がっただけだ。今まで知るはずのなかった世界を知り、非日常が日常にすり替わる。人間は新たな環境に順応して、そこに適したものを作り上げていく。二重人格とまでは言いはしないが、新しい自分が作りだされたんだ。そして、その新たな自分は外の世界での自分と差別化を図るために、新たな名を与えられる」
 その言葉の先が気になり、俺はルピナスさんの顔に視線を注ぐ。彼は一呼吸置いてから、言葉を続ける。
「お前のコードネームが正式に決まった。それに、お前の能力も明らかになった。ちなみに、どっちから知りたい?」
「じゃあ、能力の方をお願いします」
「今の流れを汲んだうえで能力を取るか」ルピナスさんは小さく笑みを零しながら言った。「まあ、どっちから話そうが変わりはないか。じゃあ、希望通りに能力の話からしよう。分析に分析を重ねた結果、お前は支援タイプの能力のようだ」
「支援タイプ?」
「珍しいタイプだ。基本的に能力者は自分の能力を高めるもんだが、支援タイプは他者に影響を及ぼす。お前の場合、他者の能力を強めるみたいだな」
「強めるってのは、つまりどういうことですか?」
「俺がサクラに撃たれたのは覚えてるよな?」
「ええ、はい」あのことを忘れるなんてありえない。
「あのとき、俺はジンチョウゲの能力を使ったが、その回復能力がやたらと早かったんだ。おそらく、お前の能力が俺の能力――正確にはジンチョウゲのものだが――に影響を与え、その回復力を高めたんだ。普段だったら、あの二倍はかかっていたからな」
「なるほど」
「その能力が作用する範囲などの制約はまだ分かってないが、おそらくお前の能力は支援タイプで間違いないと思う。その能力の制約に関しては時とともに明らかになるだろう」
 俺は視線を少し落として考える。
 他人の能力に影響を及ぼす、という能力だと言われてもなんだか実感を持てない。もっと分かりやすいものや派手なものを想像していたのに、とんだ拍子抜けという感じだ。こんな能力が本当に役に立つのか、と自虐的に疑ってしまいたくもなる。
「そして、その能力を踏まえたうえで、お前のコードネームが決定された。聞きたいか?」
 俺は視線を上げる。おそらく、俺は新しいオモチャを見つめる子供のような期待に満ちた瞳をしていることだろう。能力が期待はずれだった分、余計に期待を寄せてしまう。
「もちろんです」
「それはな……」
 ルピナスさんは開いた口をゆっくりと動かし、俺を焦らす。
「ちょっ、もったいつけないで下さいよ」
「すまん、すまん」
 ルピナスさんは冗談っぽく笑って誤魔化す。
「じゃあ、発表といこう。お前のコードネームは――」と言いながら、ルピナスさんは自分のポケットに手を忍ばせる。「――ダスティーミラーだ」
 そう言って、ルピナスさんは同時に携帯端末を机の上に置いた。一見するとスマートフォンなどと同じように見えるが、その画面には「Welcome to “Interfectores”, Dusty miller」と書かれている。その端末の形状には見覚えがあり、丞を含めて皆が持っているものと同じだと分かった。
「これはお前専用の端末だ。その端末に向けて、お前が自分のコードネームを吹き込むことで、お前は完全にこの組織の人間になる」
「つまり、じょ……ルドベキアと一緒にここに入る必要がなくなるってことですか?」
「そういうことだ。ここでお前がコードネームを吹き込めば、その情報が組織の中枢コンピューターともシェアされ、組織の警備システムに組み込まれる。それがお前の声紋のオリジナルとなるんだ。ほら、やってみろ」
 そういってルピナスさんは携帯端末の画面に触れた。画面が切り替わり、そこには「コードネームを言ってください」と表示される。
 俺はその端末を手に取り、恐る恐る口を開く。
「ダスティーミラー」
 ゆっくりはっきりと自分のコードネームを読み上げた。すると、画面が切り替わり、「認証登録が完了しました」という表示に変わる。
 それを見て、ルピナスさんが語る。
「これでお前も完全に組織の一人だ」
 ルピナスさんは両手を広げ、歓迎の意を示す。
「改めまして。ようこそ、ダスティーミラー」


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