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作品名:必要とあらば悪魔も正義に加担する 作者:alone

第11回 死神と呼ばれる男 肆
「ルピナスさん!!」
 俺は驚きのあまりに声を上げた。目の前の出来事を理解することができず、反射的に倒れたルピナスさんのもとに近づいて身をかがめただけだった。
 どうしてサクラさんが平気でルピナスさんを撃ったのかが全く分からなかった。仲間とも思っていなかったのだろうか?
 当の本人はルピナスさんを撃ってから、何事もなかったような足取りで廊下を先に進みだした。撃ったルピナスさんに背を向けて、平然と歩き去ろうとしているのである。
 なんでそんなことが出来るのか分からず、俺はサクラさんを止めようと立ち上がって追おうとする。が、それを止める者がいた。
 ルピナスさんだ。
 ルピナスさんは俺の足首を掴み、かすれた声を漏らす。
「いいんだ……。放っといてやれ…………」
 ルピナスさんは呼吸を荒げながら必死に言葉を漏らしている感じだった。
「でもっ……」俺は対処に困る。
 ルピナスさんはサクラさんに撃たれた腹部を抑えながらその場に蹲っている。俺はサクラさんを追うことを止めて、その場に再びかがみ、ルピナスさんの介抱にあたる。いや、もう助かる可能性は低いので、「介抱」という言葉はおかしいかもしれない。けれどその介抱をした。
 俺の足首を掴んでいたルピナスさんの手をゆっくりと外し、ルピナスさんを床に寝るような形へと導く。ルピナスさんを廊下の上に寝かすと、サクラさんに撃たれた腹部の損傷を確認してみる。服が破れ、血で真っ赤に染まっていた。俺は息を飲む。
 しかし、撃たれた箇所をよく見ると、俺は我が目を疑った。なんとその部分が自己修復のようなことを行っていたのだ。裂けた臓物や折れた骨はみるみる内にもとの形に戻っていき、遂には筋肉繊維が覆ってその上に皮膚が張られる。そして、腹部は無傷の状態へと完全に戻った。
「なんだ……これ……」
 目の前で夢が進行しているような気分になった。現実という感覚がいっさい湧き起こらない。
 一方、ルピナスさんは自らの腹を撫で、きれいに治ったことを確認する。
「ふぅ……サクラもひどいやつだ」
 ルピナスさんは何事もなかったかのように普通に起き上がった。その声には苦しさなどはまったく含まれておらず、いつもの調子そのものだった。
「どういうことですか……?」俺は目をまんまるにして訊ねる。
「そういえば、お前にはまだ俺の能力を説明していなかったな。俺の能力は、他人の能力のコピー。他人の能力を使うことができるんだ」
「能力のコピー……」俺は乱れた心境を落ち着けるように言葉を繰り返した。
「例えば、今の場合はジンチョウゲの能力を使わせてもらった。まあ、能力コピーとは言っても、いろいろと制約があるんだがな」
 ルピナスさんはそう言って照れ臭そうな苦笑いを浮かべた。その表情を見て、俺はようやく落ち着きを取り戻す。
「でも、ホント良かったですよ。マジで死んじゃったのかと思いましたし……」
 俺は一気に脱力して深い溜め息を零す。その様を見て、ルピナスさんは「すまん、すまん」と薄く笑いながら言っていた。
 するとそこで、ルピナスさんのインカムに通信が入る。ルピナスさんは顔色を変えて問いかける。
「どうした?」
 ルピナスさんはインカムを指で自分の耳に押しつけ、相手の内容を聞き取る。
「そうか、分かった。すぐ行く」そう言ってルピナスさんは視線を俺の方に向ける。「どうやら何か問題が発生してしまったらしくてな、俺は戻らなくてはいけなくなった。お前はサクラとともに行動しろ。分かったな?」
 ルピナスさんは真剣な口調で言い並べる。その言葉を聞くだけで、俺の気も締まっていく。
「はい」 俺は落ち着いた声で答えた。
「よし。じゃあ後は任せたぞ。サクラを、一人にしないでやってくれ」
 ルピナスさんは来た道を走って戻っていく。だが、ルピナスさんが言い残した言葉に引っ掛かりを覚える。
 サクラを一人にしないでくれ。一体どういう意味だろうか?
 ルピナスさんの背中を見送り、俺は身体を翻す。視界にはサクラさんの姿はなく、どうやらもう上の階へと移動してしまったようだ。サクラさんの姿を探し、俺は階段を上がる。

 三階に到着する。足音を殺しながら廊下に出て、サクラさんの姿を探した。
 しかし、今までと異なり、この階にはなぜだか死体はまったく転がっていなかった。サクラさんも見あたらないので、完全に彼の姿を見失ってしまう。俺は途方に暮れる。
 とにかく辺りに注意を向けながら廊下を進んでいく。一歩ずつに細心の注意を払い、足音を小さく抑え込む。けれど、いくらやっても微かには響いてしまう。自分にはホウセンカのような能力がないので普通のことなのかもしれないが、それにしてもあまりに静かすぎる。ほぼ無音という調子で、聞こえてくるのは窓の外から届く微かな音だけだ。それもどこか遠くで鳴っているようなもので、この場とは無縁な響きをしている。
 廊下には俺の足音だけがうすく鳴り響く。あまりの静けさに警戒心が強まる。俺は手を腰に回し、銃を抜く。右手でグリップを握り、引き金に人差し指をかける。左手はグリップの下に添えるだけ。……ですよね、安西先生。
 銃を構えて、ゆっくりと廊下を進む。だが、やはり誰にも出会うことはなく、血一滴すらも見かけない。そのまま廊下の端につき、脇には階段が現れる。
 どうにもこの階にはもう誰も居ないようなので、俺は階を上がることにしてゆっくりと階段を上る。
 触れれば肌が切れてしまいそうなほど緊張が張りつめている。階段を進むごとにその緊張が肌を撫で、ピリピリと神経にさわる。全身からは血の気が引いていくような感じを受けるが、一方で毛細血管一本一本にまで神経が行き届くようなほど感覚が研ぎ澄まされていくのを感じた。それはまるで、砂漠で死の一歩手前まで渇きを感じた際に、一滴の水さえも逃さないために全身の神経が研ぎ澄まされているかのようだ。
 全身の神経を使って意識をあたりに注いでいる俺は四階に着く。
 たしかこのビルは四階か五階建てだったと思う。外から見た感じはそうだった。まあ自分たちの組織のように地下に延々と伸びている可能性は無きにしもあらずではあるが、一応五階へと続く階段がないところを見ると、ここは四階建てだと考えていいようだ。向こうの階段にだけ上へと続く階段があるかもしれないが、こんな低く小さなビルでするような設計ではないと思うので考慮から外す。
 階段から無闇に飛び出すことなく、俺は壁に身体を当てて廊下の様子を横目で確認する。すると人の姿は発見する。但し、また死体だ。うつ伏せに倒れ、サクラさんに撃たれたであろう傷口を廊下に押し付けている。撃たれた箇所からは滔々と血が流れ、血だまりを形成している。
 だが、そこでおかしなことに気付く。どうやらその血だまりを踏んだ者が居たようで、廊下の上に点々と靴跡が続いていたのだ。しかもそれは一人に留まらず、明らかに複数である。死体の数から考えてもその数は上回っており、サクラさんと対峙して生き残った者の存在を示していた。
 予想するにサクラさんは囲まれ、多勢に無勢という形で捕まってしまったのだろう。血の足跡を辿っていくと、四階中央にあるドアへと続いているから、そこにサクラさんは連れ込まれてしまったようだ。
 一体俺はどうすれば良い?
 相手はサクラさんを捕まえるほどのやつらだ。少数精鋭か人海戦術かは知らないが、どちらにせよ俺ひとりの手に負えるような連中ではないだろう。
 俺は自分の戦力を確認する。武器は拳銃はベレッタM92FS。弾はチャンバーに1発、弾倉に15発。安全装置は外してあってすぐに撃つことができる。能力に関しては、まだ明らかになっていないうえに、基本能力に関してもまだ素人に毛が生えた程度だろう。拳銃を撃つ練習はこなしてきたが、まだ実戦経験は皆無であり、動く的、特に人間なんて撃ったこともないからだ。俺は実戦してきたのは、狙いを定めて撃つ。たったそれだけしかない。
 つまり、やはり俺ひとりにどうにかできるわけがない。
 ならどうするのか? 助けを呼びに行くのか? ここで何もせずにサクラさんが殺されるのを待っているのか?
 ルピナスさんは言った。
「あとは任せたぞ」
 俺はひとりでどうにかしなくてはいけない。
「サクラを、一人にしないでやってくれ」
 俺はサクラさんを見捨ててはいけない。一人にしてもいけないんだ。
 このまま何もしなければサクラさんが殺されるのは時間の問題だろう。まだ生きているかも定かではないが、もう助けられないなんてことは考えたくない。
 じゃあ、どうするか?
 まずは戦力を削ぐことだろう。自分のレベルを今すぐに格段に上げるなんてことはできないので、相手のレベルを下げるしかない。戦力を削り、自分の手に少しでも負えるようにしなければいけない。だから、敵をおびき出して減らす必要がある。ではその方法は? 
「敵がいたぞ」とでも叫ぶか? だが、それで引っかかるのはルパン三世に出てくる警官たちぐらいだ。そんなお粗末な方法はアニメぐらいでしか通用しやしない。
 なら敵がいる方へと一発撃ってみるか? いや、それでもいけない。もし外から発砲されれば、やつらは部屋の中にでも立て籠もるだろう。敵に囲まれているかもしれないのに出て来るようなやつはどこにも居やしない。
 では、どうすれば立て籠もらさせずに出て来させられるのか?
 そうするにはやつらが勝てると思える相手じゃないといけない。自分たちよりも相対的な少数であり、絶対的な弱者。簡単に言えば、単独の子供なんてもってこい。つまり、俺は適任というわけだ。
 黙考。
 そして、作戦を思いついた。すぐに準備に移り、実行を急ぐ。


† † † † † † † † † †

 新宮枢(ニイミヤ カナメ)が作戦を進行させようとしている中、場所は四階の部屋に移る。室内には十人の男と、彼らに囲まれたサクラが居た。男たちの構成は、一人がボスであり、一人がその補佐、五人が幹部のような立場の者、そして残った三人はその下っ端というところだ。大部分がサクラに消され、残ったのは彼ら十人だけとなっていた。
 一方のサクラはその十人に囲まれており、部屋の中央で椅子に座らされている。手足はガムテープで縛られ、身体中には暴行による痣と出血が目立つ。しかし、いくら痛めつけられようともその冷たいような無表情は変わらず、唇から血を伝わせながら視線を一点に据えている。それがまた睨んでいるやガンを飛ばしていると受け取られ、左頬に右ストレートをかまされる。サクラは軽く仰け反り、口内には鉄の味が広がる。だが無表情は変わることなく、血の混ざった唾を吐き捨てるとまた一点に瞳を据える。
「タフなやつだ」奥に座るボスの男が苦々しく呟く。「とっとと組織の居場所を吐いたらどうだ?」
 その問いかけに対し、サクラは何も答えない。その態度が気に食わず、そばに立つ幹部らしき一人がサクラの腹部に拳骨を一発くわえる。サクラは苦悶の表情を一瞬浮かべたが、すぐに無表情へと戻す。その様子を見て、殴った男は舌打ちを零した。
「さっさと吐けよ。お前が一人なのは今までのことから分かってんだ。誰も助けにきやしねえ」
 男は語調強く言い放つ。だがサクラの反応は相変わらず何もないだ。男はまた殴ろうと振りかぶった。
 が、そこで外から物音が聞こえてくる。ドンッという鈍い音だが、十分に四階には響いた。
「なんの音だ? おい、お前見て来い」
 ボスの男は下っ端の一人を指名する。彼は「へい」と答えて、ドアを開けた。廊下に顔を出し、辺りを窺う。すると廊下には人影が一つあった。それは廊下に転がっている死体をなぜだか引き摺っている。
「おい! てめぇ何してやがる」
 下っ端の男は声を荒げ、廊下に出た。その声に気付き、人影は顔を上げた。それはまだまだ子供で、高校生ぐらいに見える。男はなぜガキが居るのかと疑問に思ったが、その考えは一瞬で吹き飛んだ。
 突然、目の前のガキが銃を取り出し、撃ってきたのだ。
 バンッ! バンッ! バンッ!
 突然のことに男は部屋の中に飛び込み、銃弾をかわした。実際はその三発の銃弾は開かれたドアや廊下の床にめり込んだだけであり、大げさに避けなくても当たらなかったかもしれなかった。
 その下っ端の様子を見て、ボスの男が声を荒げる。
「どうした?!」
 下っ端は一気に乱れた息を整えながら答える。
「ハァハァ……、ガキです。銃を持ったガキがすぐそこに居ました」
「なに?! もしかするとコイツの仲間かもしれねえ。とにかく捕まえて来い」
 そのボスの指示に従い、男たちはぞろぞろと部屋から出ていった。先頭を切るのはあの下っ端の男で、まずはどこに居たかを他の奴らに伝える。
「ここに居ました」
 下っ端は引き摺ろうとしていた死体のそばを指差す。すると、そこから赤い靴跡が階段へと続き、そのまま階下へと下りているのが分かる。
「ドジな野郎だ。自分で居場所を教えてくれてるぜ」
 他の男が嘲笑いつつ言った。そして、男たちはその足跡を追って階下に下りる。靴跡は三階、二階を過ぎ、一階へと着く。だいぶんその跡は薄くなってしまっていたが、一階の一つの部屋に通じているのはなんとか分かった。幹部の一人が静かにするように指で表し、ゆっくりとその部屋のドアに近づく。ノブを掴むとゆっくりと回し、そして一気にドアを開いた。
 中はがらんとしており、静まり返っている。床の靴跡も消えてしまっており、どこに隠れたなどは分かりそうにない。
「おい、窓が開いてんぞ」
 一人の男が奥の窓を指差して言った。その大きさは十分に人間が出られる大きさで、逃げることは可能なはずだ。
「外に逃げやがったか」他の男がいらいらとした口調で言う。
「辺りを探せ」幹部の男が指示をする。
 その指示に従い、男たちは散会した。窓から身を乗りだす者も居れば、入口から外に回ろうとする者も居る。ただ、指示をした男だけはボスに報告するために上へと戻っていった。

 時間は少し戻り、四階の部屋。男たちが出ていき、中にはボスとその補佐の二人になっていた。サクラは縛られているうえにすでにボロボロであるため、他の男たちは何の気兼ねもなくボスの指示に従ってガキを追いかけに行っていた。
 急に広く感じられるようになった部屋の中にボスの男が声を響かせる。
「今回は珍しく仲間を連れていたのか? お前はいつも単独行動だったはずだが、違うのか?」
 ボスは訝しそうに顎を撫でながら言った。しかしサクラは何一つ答えるつもりがない。
「話にならんな。絶対に口を割るつもりはない、か」
 彼は考え込むように視線を落とした。すると、そのタイミングを見計らったかのように、開かれたドアのところに人影が現れた。突然のことに二人の男は一瞬反応が遅れた。
 バンッ!
 一発の銃声が響く。途端に脇に立っていた補佐役の男が右腕を押さえる。押さえた部分にはみるみる血が広がっていき、服は赤く染まっていく。
 人影は瞬時に銃の狙いを移し、ボスの方へと向ける。
「動くな!」
 人影は喚き、呆気に取られていたボスは固まる。そして、恐る恐るという感じでボスは両手を見せ、武器の不所持を訴える。
 人影は銃口をボスの方に向けたままゆっくりと進んでいき、サクラの横に着いた。サクラはドアの方に背を向ける形に座らされていたため、一体誰が来たのか分かっていなかったが、そこで顔を動かしてようやく人影の正体を確認することができた。
 そこに居たのは枢だった。


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