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作品名:時空流離譚 作者:ススム

第5回 毒裁政権 テーマ【革命】
 トランプ王国の農民・トレイは三人の仲間と共に独裁者・デュース卿を追い詰めていた。
 ついに民を苦しめていた悪政を終わらせることができる。
 トレイは逸る気持ちを抑えられずに剣を抜き放つ。
「観念しろデュース卿!」
 デュース卿は絶体絶命の状況で焦ることなく玉座に腰を下ろしたまま動かない。
 尊大さを示すためではなく単純に体を起こすことができないようだった。
「待っていたぞ。お前たちがこうして私の前に現れることを」
 落ちくぼんだ目とこけた頬を震わせて発された言葉は皮肉ではなく本心のようにトレイには思われた。
 いや騙されてなるものか。
 トレイはこれまでこの男が成してきた数々の悪行を思い出し怒りを再燃させる。
「何が待っていただ。ここにたどり着くまでにあれだけの刺客を差し向けておきながら」
 それの犠牲になった仲間たちもいた。
 はじまりの町から共に旅をしてきた幼馴染・エイト。
 ギャンブルの街で出会いサイコロに導かれたなんて理由でついてきた陽気な男・セブン。
 二人は敵軍を切り離すためにワタシ橋の上で敵を引き受け、共に谷底に流れるヤギリ川に落ちていった。
「それどころか貴様は味方にまで手をかけていたじゃないか」
 デュース卿の狂信者・ナインはトレイたちとの戦いの中で現王国の腐敗に気付き、一人デュース卿の説得を試みたが粛清された。
 絶対の腹心・テンすらたった一度の敗北で血も涙もなく切り捨てた。
 トレイの反論に疲労感に満ちた声でデュース卿は応える。
「確かに私は幾度もお前たちの邪魔をした。だが本当は私を打倒してくれる者を待ち焦がれていたのだ」
「ふざけるな。国民を苦しめ自分一人で私腹を肥やしてきたくせに。この酒、料理、像にシャンデリア、絨毯!  
 全部全部全部! ぼくたちを苛め抜いて得てきたものだろうが」
 剣を振り回しその場にあるものすべてに憎しみをぶつけるトレイ。
 見かねた仲間たち・僧侶のケイト、武道家のシンク、戦士のサイスが何とか彼を止める。
 トレイが壊した物の破片が飛び散りデュース卿の額を斬り裂いた。
 皺だらけの肌から赤黒い血が流れ手元の杯に滴り落ちるが、依然彼は落ち着いている。
 透明な液体が自らの血で汚されていくのを見ながら自嘲気味に笑った。
「懐かしいな。私もかつてはお前だった。そこにいて、ここにいた独裁者を勇猛な瞳で睨んでいた」
「命乞いでもするつもりか。今更ぼくたちが貴様を許すとでも思っているのか?」
「思わないさ。これはただの遺言だ」
「……いいだろう。話してみろ」
 トレイは剣を鞘に収め三人の仲間も話を聞く姿勢を固めた。
 それを受けてデュース卿は天を仰ぎながら語り始めた。
「本来この玉座にいるべき王族が事実上の失権をしたのは知っているか?」
 トレイたちは沈黙のうちに肯定の意を示す。
 元々トレイたちを送り出したのは王族兵士であるジャックという男だ。
 ジャックはある日トレイたちの住む町を訪れて言った。
 現在、城ではキング王の妃であるクイーン姫が人質に取られデュース卿が国の実権を握っていると。
 その後、町を襲ってきたテンの部隊に一人立ち向かいジャックは殺されてしまう。
 トレイたちは彼の遺志を継ぎデュース卿の打倒と王族の復権を目指して旅立ったのだ。
「その話には少し嘘が混じっている。クイーン姫を人質にキング王から実権を奪った男は私ではなく前の為政者・エース卿だ」
「馬鹿な。そんな話聞いたことがない」
「エース卿は巧妙に隠蔽していたからな。だが気付いた者がいた。それがジャックだ。
 私とジャックの出会いはお前たちと同じ。あいつはエース卿を打倒するための仲間を探していた」
 次々と明かされていく衝撃の事実にトレイたちはすっかりデュース卿の話に聞き入ってしまっていた。
「私とジャック、そしてナインとテンの四人はエース卿を討ち取った。だがすでに王族は全滅していたのだ。
 私たちは話し合い混乱を避けるためにこの事実を伏せることにした。そして私はエース卿の後釜に納まったというわけだ」
「ならどうして……」
「権力を得れば人は変わる。最初は民のことを考えていてもいずれ権力の闇に飲み込まれる。
 今から思えばエース卿も圧政に傾きかけるキング王を見かねて強硬手段を取ったのが始まりだったのかもしれないな」
 デュース卿は最後の晩酌を飲み下しその杯を中天へ掲げた。
「話はこれで終わりだ。お前こそは私たちにならないことを祈る」
 トレイは一瞬の躊躇の後、独裁者の頭上に正義の刃を振り下ろした。


「いや〜どうもどうも。わたくしめは宮廷仕え道化師のジョーカーと申します。
 なぜ見ていたのに何もしなかったのかって? ご無理を仰らないでくださいよ、一道化師に何ができたっていうんです?
 わたくしめのできることは権力者の方々にたまの息抜きを提供するだけでございますよ。
 おや? トレイ様もお疲れのご様子。よければわたくしめの芸で一笑してくださいますれば。
 嫌なことなど忘れて思うがまま心おもむくままの政治を行いください」


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