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作品名:時空流離譚 作者:ススム

第1回 誇張の夢 テーマ【曖昧】
 ミユちゃんが主役の劇が校内コンクールで金賞を獲ったのは、私たちが小学四年生のときだった。
 上級生たちを抑えての優勝ということで、当時のクラスの浮かれようといったら今思い出しても恥ずかしくなるくらいだ。
 ミユちゃんは一躍時の人となりみんなの人気者になった。
 私と彼女が初めて話をしたのは、そんなときだった。
 クラスでも大人しグループだった私に、ミユちゃんの方から話しかけてきたものだから緊張のあまり口の中がからからになったのを覚えている。
「あなたの作ったお洋服のおかげで優勝できたわ。ありがとうね」
 胸のところにちょうちょをあしらったドレス。
 それをひらひらと体の前で左右に振りながらミユちゃんは笑っていた。
 あの劇で注目されていたのはミユちゃんや他の舞台に上がった子たちの演技ばかりで、誰も、先生でさえも衣装になんて見向きもしなかった。
 だからミユちゃんが私の作った衣装を褒めてくれたときは、すごくすごくうれしかった。
 ミユちゃんは瞳をきらきらと輝かせて言った。
「ミユ、おおきくなったら役者さんになることにしたから。そのときのお洋服もあなたに作ってほしいの。おねがい」
 私は「もちろん!」と、柄にもなく教室中に響き渡るような大きな声で返事をした。

 それから高校を卒業して、私は順調に服飾デザイナーの道を歩んでいた。
 一方でミユちゃんは地元の劇団に入ったはいいものの、役者までの道はなかなか険しいもののようだった。
 二十も半ばを過ぎると、周囲の人たちは彼女に厳しい言葉を投げかけるようになる。
「いい年していつまでふらふらしてるんだ」
「バイトくらいしたらどう?」
「早く夢から覚めて大人になりなよ」
 家に居場所がなくなるとミユちゃんは決まって私の元を訪れた。
 落ち込む彼女を最初こそは心から心配し励ましてはいたが、次第に様子がおかしくなり始めた。
 表面上は何も変わっていないのだが、明らかに以前のミユちゃんとは違っているのだ。
 ミユちゃんが劇団に顔を出さなくなったと聞いたのはそれからすぐのことで、そのときを境に私の前にも彼女は姿を現さなくなった。

 さらに数年が経ち、私は結婚して子供も産んでいた。
 仕事の方もちょっとは名前が知られるようになり、忙しさにかまけてミユちゃんのことも忘れかけていた。
 久しぶりに訪ねてきたミユちゃんは開口一番こう言った。
「お金を貸して欲しい」
 もちろん私は断った。
「どうして? あなたも諦めろっていうの? 早く夢から覚めろって」
 ミユちゃんが心底分からないという顔で聞いてくるものだから、私はそれまでずっとうやむやにしてきていた想いを吐き出した。
「とっくに役者の夢なんて捨ててるくせに。あなたが途中から小学生のころの『ミユちゃん』を演じてたのなんて丸分かりだったのよ。
 夢を追いかけてるからって、周りや自分に言い訳してるだけなんでしょ。
 子供のときにたまたま褒められたからって勘違いして、自分には才能も、そもそも本物の情熱もないって分かっても引っ込みがつかなくて。
 自分には何もないって分かるのが怖かった? だから必死で隠してた? でもね、全部ばればれ。やっぱり才能ないのよ」
 すべて言い終えた後に改めてミユちゃんを見ると、その顔が一気に老け込んだように思えた。
 あのひらひらとドレスを振っていた、きらきらと目を輝かせていた、ミユちゃんはどこにもいなかった。
 とっくの昔にいなくなっていた。
 きっと誰よりも私が夢見ていたのだ。
 ちょうちょがもう一度舞台の上で舞うことを。


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